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「谷裂って、名前と付き合ってから変わったよな」
「……そうでしょうか?」

 任務が終わり、後は谷裂が外の敵を蹴散らしている間私達は暇を持て余しているわけで、私は血が付いた鉈を磨いているとき隣に座っている平腹先輩がポツリと声を洩らした。
 彼の話の通り、私と谷裂は一応付き合っている恋人同士。けど恋人と言っても正直変化は無いから同僚とかと変わらない。敢えて変わったと言えば私が彼に対する呼び方とか口調は変わっただけ。

「なんかオレ等に対する態度と名前に対する態度違くね?」
「んー……どうでしょう」
「えー、絶対ちげーって! 前まではオレがふざけて名前に抱きついたら谷裂怒鳴るだけだったけど今は半殺しだもん」
「……」

 言われて、みれば? 考えてみるけどやっぱり分からない。というか半殺しってなんだ、私が見てる中で彼がそんなことをやった記憶が無いんだけど。

「別に半殺しとかはしてないかと」
「オマエが見てない間に怒られてんだよ!」
「そ、そうなんですか」

 私に見せないようにしている彼の優しさなのか、嫉妬しているのを悟られたくないのか……それは多分分からないと思うけど、嫉妬してくれているのは素直に愛されてるなぁ、と感じて嬉しい。顔がニヤける。

「抱きつくなって言われてもやっぱり抱きついちまうんだよな〜」
「いやいやそこは頑張りましょうよ」
「まあ良いか! 慣れっこだし!」

 開き直ったよコイツ。呆れて声が出ない。
にしても谷裂遅いなー……そんなに時間掛かるのかな。血を拭い終えた鉈を隣に置いてため息を零す。

「あ、ため息零すと幸せ逃げんぞ〜」
「すっ」
「吸い込むのかよ!」

 けたけたと平腹先輩が笑ったのでつられて私も笑う。平腹先輩といると楽しい、五月蝿いけれど。谷裂はこうしてふざけあうような性格ではないから新鮮に感じる。
 頑固者だからなー……たまにはデレデレな谷裂みてみた……くないな、想像したら鳥肌が。
 見たいと見たくないの狭間で揺れ動いていると平腹先輩が欠伸をした。

「ふわぁ……、ねみぃ。ちょっと名前抱き枕にさせてくれよ」
「何言って、あ、こら抱きつくな!」
「ん〜……本格的に寝そう」
「……平腹、何をしている」
「あ」
「谷裂」

 横から包むように私を抱き締める平腹先輩を必死に押し返す。無駄に力が強い、どうしようコイツ、と困惑していると、頭上から地を這うようなとても低い声が聞こえた。
 平腹先輩が青ざめていく、これから起こることを察知したらしい。

「人の女に手を出すなと何度も言っているだろうが、この阿呆が!」
「分かった! 分かってる! ごめん、ごめんなさいいいいいいいいいいいいい!」
「(あちゃー……)」

 鬼人の如く怒り狂う谷裂が軽々と金棒を振りかざした。必死に平腹先輩が謝っているが、それは怒りで我を忘れている谷裂には聞こえておらず、瞬きした瞬間平腹先輩は血飛沫を飛ばして肉塊へと成り果てた。……再生まで待つのか。

「名前!」
「は、はい!」
「貴様も貴様だ! あれほど平腹には注意をしろと言っているだろう! 少しは身の危険を感じろ!」
「っ、ごめんなさい……」
「……」

 谷裂の言うことが正論過ぎてぐうの音も出ない。確かにちょっと油断しすぎかも知れない、私だって谷裂が他の女の子に抱きつかれたり頭撫でられたりされてたら絶対嫉妬するし。

「う……」
「……ったく、」

 自分が情けなさ過ぎて目に涙が溜まるのが分かった、泣くものかと俯いて拳を握り締めると、身体を引っ張られた。

「え」
「……少しは、俺の身にもなってくれ」
「あの、谷ざ」
「見るな。見たら殺す」
「(なんと物騒な)」

 あのストイックな頑固者の谷裂さんがデレてる。ぎゅっと抱き締められているのを察知したとき、思わず彼の顔を見ようとしたけどそれは彼の手によって遮られてしまう。 頭を固定されるように押さえられて、成す術もなかったので私はとりあえず目を瞑る。

「(……凄い心音)」

 どくどくと彼の心音が早鐘を打っているのを自らの身体で感じる。一見普通に見えても緊張しているのか、なんだか普段の谷裂からは考えられなくて頭がボーっとする。

「その……言い過ぎたのは謝る。……すまなかった」
「私の方こそ、ごめんなさい。もっと気をつけます」

 ちょっと緊張しつつも、彼の背中に腕を回せば更に強く抱き締められる。徐々に熱くなる彼の体温が心地良くて笑みが零れた。
 こうして抱き締められるのって初めてかも知れない。思えば手を繋いだことも数えるほどしかない。好きな人に抱き締められるのってこんなにも心地良いものなんだ。

「、帰るぞ」
「え、平腹先輩」
「放っておけ」

 いきなり身体を引き離されたかと思うぞ、今度は手を握られ私は引っ張られるように歩き出す。谷裂は顔を見せてくれない、否、見せられないのだろう。
 帽子から覗く耳元がとても赤いのを見て、私は思わず笑みを零した。

「任務に名前がいると、気になって集中できん」
「……えへへ、大丈夫です。私谷裂しか見えてないから」
「……」

 握られた手に力が込められる。昨日よりも彼が好きになる。それは多分、彼も同じだろう。
 変化は色んな意味で怖い、けれどとても面白い。