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 今日は斬島先輩と任務だったのだが、思いのほかすぐに終わり私達は予定の時間よりも早く館に到着し肋角さんにも報告を終えることが出来た。本来ならば午前中をほぼ使い切る予定だが時間はお昼前、どうせならこのままお昼を食べてしまおうかと言うことで私達は特務室からそのまま食堂へ向かって廊下を歩いて行く。

「……疲れましたね」
「大丈夫か」
「体調に問題は無いです。斬島先輩は?」
「平気だ」

 表情はいつも変わらずに無愛想だが、口元だけが少しだけ柔らかく弧を描いたのを私は見逃さなかった。鬼である私達は、現世に住まう人間達に比べて感情と言うものが少なく下手をしたら喜怒哀楽すら持っていないものもいる。けれども長年別の存在の人と係わり合い共に要る事で培っていく者も多いのだ、私の場合は元から感情と言う液体のようなものはこの器に備わっているのか周りに比べるとかなり豊かな方だと思う。けれども人間に比べると希薄に思われるかも知れないけれど、それでも全然構わない。
 同じ足取りで食堂へ向かっている最中、曲がり角から一つの影が差し掛かり私達はその場に足を止めた。

「やあ二人共」
「佐疫か」
「こんにちは」

 透き通るような水色の瞳を細めふんわりと柔らかい笑顔を浮かべたのは同じ課に所属する佐疫先輩だ。彼は斬島先輩に比べると私と同じように感情もしっかり形成されそれに伴い表情の変化も多い、人当たりが良く気遣いがしっかり出来る絵に描いたような優等生タイプの彼は異性にも人気が高い、けどそれは一緒に時を過ごしている中ですぐに納得出来る物だ。まあ私達が所属する特務室は顔立ちが整っていたり、十人十色な性格を持つ者が多いので人気が高い。

「今仕事が終わったの?」
「ああ、今から飯を食うところだ」
「佐疫先輩もご一緒にどうですか?」
「そうだな、お言葉に甘えようかな。あ、そうだ、あと平腹が、」

 平腹、その言葉を聞いて思わず佐疫先輩の後ろを覗き込めば向こう側から破顔一生した平腹先輩が走ってきた。彼の場合は感情が豊かというか、本能のままに行動して暴走するといえば良いのか……、けどとにかく明るく何でもプラス思考に構える傾向がある。ただ本能のままに生きているようなものだから時折とんでもない事を仕出かす時もあるけれど……。

「平腹せんぱ、」
「ちっす斬島、佐疫! ふぉ、名前ー!」
「ん!? え、うわああああああああ!?」

 突進する勢いで走ってきた平腹先輩は、笑みを絶やすことなく大きな声で言葉を発したかと思ったら、私の言葉を遮ってそのまま長い腕が伸び私の身体に絡みついた。気がついたときには既に平腹先輩の胸の中に顔を埋めていて、彼も彼で遠慮無しに私の首元などに顔を埋めて擦り寄ってくる、なにこの人犬、ってか猫……!?

「んっ、んんー!」
「ん〜、名前めっちゃ良い匂いするな!」

 骨を折られるんじゃないか、というくらい強い力で抱き締められて呼吸をする空間を失った私は必死に彼の背中を叩くがそんな事はお構い無しに平腹先輩は私の身体に擦り寄るだけだ。息苦しさだけが脳内を侵していき酸素を求めるべく身体を離そうと足掻くものの力の差で勝てるはずも無く、段々と身体の感覚がおかしくなっていく。

「……平腹?」
「何をしている」

 既に意識は朦朧とし始めているにも関わらず、鼓膜を揺るがした二つの重く低い声色はピシリと空気を凍らせ、平腹先輩もそれに少なからず驚いたのか私に絡ませていた腕の力が弱まり、混濁していた意識は外から入ってきた空気を肺にしっかり送り込んだ瞬間に鮮明に色を取り戻した。
 チラリと上を見上げれば見事なまでに気色を無くし中途半端な笑みを浮かべている平腹先輩、彼の背中越しに怒り言葉の持ち主であろう二人組みを見れば、怒り心頭なのが変化していない表情でも手に取るように分かりカナキリをしっかり構えている斬島先輩と、穏やかな笑みを浮かべているように見えるが目元だけは鋭く敵を射抜き拳銃を構える佐疫先輩が居た。よほどの馬鹿ではない限りこの二人が怒っている事は安易に分かるだろう、私はこの二人の仕草や表情を見て悟った。

「(死んだなコレ)」
「あ、え、ちょ、ごめんなさいいいいい!」
「何々なにやってんの!」
「うるせぇぞ平腹」
「貴様等うるさいぞ!」

 鋭く尖れた日本刀が獲物を斬り裂く音と、耳をつんざくように響いた発砲音がほぼ人が居ないであろう館内に響き渡った。そこから、どこから聞きつけたのか楽しそうに目を輝かせている木舌先輩、気だるげに部屋から出てきた田噛先輩、鍛錬終わりなのか汗をハンドタオルで拭いながら叫ぶ谷裂先輩の三人は、見るも無残な姿で横たわっている平腹先輩と敵を殲滅し終えどこか満足気な斬島先輩と佐疫先輩を視界に捉えると見事なまでに綺麗に重ね合わせ、ため息を零した。



 お昼ご飯よりも先に平腹先輩の尋問になってしまった。娯楽室へと連行される平腹先輩と何故か特務室で比較的良く一緒に行動する先輩達も一緒で。部屋へつくなり平腹先輩は正座させられてその目の前には仁王立ちを構える佐疫先輩と斬島先輩、私は田噛先輩と一緒に娯楽室に備え付けられているソファに身を沈みこませ谷裂先輩と木舌先輩は丸テーブルを囲うように椅子に座り木舌先輩は楽しそうに、谷裂先輩は呆れながら平腹先輩たちを見届けている。なんだこれ。

「平腹、何でいきなり名前に抱き付いたのかな?」
「答えろ」

 抱きつかれること自体はスキンシップだと思うから構わないんだけど、と口にしようと思ったがこれを言ったら絶対に事を荒立ててしまうので私は黙って口を噤む。チラリと隣の田噛先輩と見れば飽きたのか欠伸を零し今にも眠りそうなくらい身体をソファの肘掛に齎せている、寝るなよ先輩。
 さて、いつ止めに入ろうかともう一度正座させられている平腹先輩を見れば子どものように頬を膨らませたかと思えば唇を尖らせて不貞腐れたように投げやりに言葉をぽろぽろと零していく。

「だって名前柔らかいしー、いい匂いするしー……見たら抱きつきたくなんねぇ?」
「ふぅん?」
「あ、ちょ、佐疫待ってごめん! ごめんって!」
「お前のせいで名前は死にかけたんだぞ」
「ま、まあまあ自分は全然大丈夫ですからそこまで怒らなくても……」
「でも触りたい気持ちは分かるかも」

 十分すぎるくらい怒ってくれている先輩達を見ているとやはり平腹先輩が可哀想になって来てしまう、彼が言葉に先ほどと全く同じ表情を浮かべ外套から取り出した銃を平腹先輩の額に突き付けトリガーに指を掛けているn
 なんかここまでして二人が怒ってくれたから怒気が無くなった。ボソッと呟いた木舌先輩の発言は無視して、今にも引き金を引きそうな佐疫先輩を宥めて平腹先輩にデコピンする。

「名前?」
「苦しかったですし、もうこんな事しないでくださいね」
「だってよー、女って砂糖とスパイスと素敵な何かでできてるって聞いて、本当にそれで出来ているのか気になって調べたかったんだよ〜」
「それと抱擁に何の繋がりがあるのだ馬鹿者!」
「いってえ!」

 つらつら羅列された言葉にかたまった、なんだその言葉は。と思い小首を傾げいる間に呆れ果てていた谷裂先輩は怒鳴り木舌先輩と同じように大きな拳を平腹先輩の頭に打ちつけた。
 吐き出された謎の言葉が気になり私は頭を悩ませていると、やはり他の人たちも気になったのか各々に顔を見合わせる。

「それよりも、なんだその長い言葉は」
「現世で流行ってるのかな?」
「うーん……?」
「……気になりますね」

 平腹先輩が起こした行動なんて二の次で、私達は“女は砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ている”という謎の単語にただひたすら頭を悩ませる事になった。

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中編予定で放置していたものです。
ネタが思いつかないので、これで一区切りとして短編へ収納します。
基本オールで出す時は後輩卒は愛され傾向……。