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「……肋角さん」

 声の主に気付いた斬島先輩が口を開いた。どうやら食堂へとやって来たのは、私達獄卒の上司である肋角さんだった。
 相変わらず身長でかい。肋角さんは煙草をふかしながら何となく状況を察したようだ。

「料理対決か、中々賑やかなことをやっていたな」
「知っていたのですか?」
「名前が優勝した、というところからしか見ていないがな」

 ニッと笑って肋角さんは私達のテーブルまでやって来た。いきなりの大物の登場に私達はピンと背筋を伸ばした。

「名前が作った料理はこれか?」
「は、はい」
「……ふむ」
「あ」

 まだ少し残っていたオムレツを一瞥した肋角さんは、新しい箸を手に取ると私のオムレツを口に含んだ。みな行き成りの行動に目を見張る。
 そりゃ吃驚するわ、上司が私の料理を食べたんだから……さっきよりも激しく心臓が早鐘を打っていく。
 オムレツを食べた肋角さんは笑顔で私の方を向いて口を開いた。

「……美味いな」
「は、あ、有難う御座います」
「ですよね! 名前、他にもお菓子とか作るんですよ!」
「あ、おい平腹っ!」

 褒められたのが嬉しくて、笑顔を見せると平腹先輩が肩に手を置いてさらに畳み掛けてきた。ちょっと何言ってるんですか、と思って平腹先輩の方を見ようとしたが、肋角さんは平腹先輩が言ったことに「ほう」と興味深そうに呟いた。

「良かったな名前」
「もうお嫁さんみたいなもんじゃない? 名前」
「ちょ、なに言ってるんですか」

 木舌先輩の言葉に思わず顔が赤くなる。でもそんな事言われたことないから嬉しい。すると肋角さんはさっきよりも破顔した顔で私の頭に手を置いた。ちょっと驚きつつ彼の顔を見れば凄く穏やかだった。
 呆然としていると、肋角さんは笑顔を崩さずに言葉を発した。

「確かにそうだな。嫁に欲しいくらいだ」
「……!」

 思わぬ爆弾発言に言葉を失って、さっきの木舌先輩の言葉よりも更に頬に熱が溜まっていくのが分かった。
 ああああヤバイ、嬉しすぎてなんだか脱力しそうなのを必死に耐える。何も言わずに突っ立っていた私に疑問を抱いたのか肋角さんが首を傾げる。

「……名前?」
「ろ、肋角さん!」
「どうした?」
「自分を一日貴方のお嫁にして下さい!」
「なっ」

 冷静な田噛先輩が珍しく表情を崩した。それと同時に他の人たちも表情が凍り付いている。けどそんな事よりもさっきの発言が嬉しすぎて、勢い余って変な事言ってしまったけど大丈夫かな。おそるおそる肋角さんを見上げると、彼は凄く優しそうな笑顔で私の頭を撫でた。

「ああ。名前が俺で良いなら、喜んで」
「ありがたきお言葉……! 不束者ですが一日宜しくお願いします!」
「そうだな、明日と言わずに今からでも構わないが」
「ええええええええ……! 良いんですか?」
「もちろんだ」

 嬉しすぎる、なんでこんなに嬉しいのか分からないけれどとにかく嬉しい。何度も首をぶんぶんと縦に振っていると肋角さんは「くくっ、落ちつけ」と喉を震わせ笑った。

「あ、あのじゃあ今日の夕飯とか夜食とか作ります! 明日ももちろん! 全部ご飯とか作りますよ!」
「助かる。他にも色々頼むかも知れないが大丈夫か?」
「貴方の嫁ですから!」
「……頼もしい嫁さんだ」

 楽しそうに笑う肋角さんに、私も輝かんばかりの笑顔で返す。ちらっと先輩達を見るとなぜだかみんな死人のようだった。

その後

「肋角さんに取られたね……」
「あーぁ……まさかああいう展開になるとはねぇ……今夜はやけ酒だよ」
「別に良いんじゃねぇか?」
「でも田噛、名前が肋角さんに頼み込んだとき吃驚してたじゃん」
「黙れ」
「いってぇ!?」
「……あの人は凄いな、やはり」
「俺たちよりも上手だったな」

 ほぼやけ酒状態の獄卒達。そして全員が思った。

「(肋角さん……叶わねぇ)」

終わり