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 さあ、いよいよ私で最後だ。集中すると視覚が鮮明に見えて自分の心音が物凄いはっきり聞こえる。

「じゃあ、行ってきますね」

 お菓子を作るときに使うエプロンを使って私は、食堂の奥へと入る。ふっと耳を済ませると、先輩達の声が鮮明に聞こえた。

「なんか新妻みたいだねー」
「新妻といえば裸エプロンだね」
「下品だ、やめろ」

 佐疫先輩と木舌先輩の発言に思わず変な声が出そうになった。とりあえず「聞こえてますよ!」とだけ叫んでおいた。
 でもこうしてはっきり聞こえると言う事は私凄い緊張してるな。

「あれ、聞こえないと思ってたんだけど」
「集中してるんじゃないかな、それで五感もとい聴覚が異常なんだと思うよ」
「まだかな〜!」

 もう無視しよう。私は料理に取り掛かった。



「お待たせしましたー」

 料理は好きだから、作っているうちに緊張状態は柔和された。私は作った料理を置いた。料理を見た平腹先輩の顔がパッと明るくなった。

「すげー! オムレツ?」
「プレーンですけどね」
「凄い……ふわふわだ」

 オムレツとかは久々に作ったから地味に苦戦したんだぞー。玉子のふわふわ加減を出すために何回か失敗しそうになったけれど、最終的にはとても良い仕上がりに出来た。 先輩達が箸を付けて口に運ぶまで、また私の心臓がどくどく鳴った、やばいまた緊張してきた。

「……美味しい……なんか、ため息しか出てこない」
「うまい」
「自然と笑顔が零れるね」
「ああ、そうだな」

 各々食べた先輩達は、感嘆の声を洩らした。おぉ……手ごたえありありだ。安心したのか、私は思わずふっと息を吐いた。
 良かったー、不味いとかって言われたら地味に立ち直れない。

「本当に美味しいもの食べると声も出ないね」
「名前、料理もできたんだな」
「ふふふ、意外でしたか?」

 感心したように言う谷裂先輩に、得意気に言ってみるとなんとも言えない反応を貰った。傷付いた。
 するとそれと同時に食べていた佐疫先輩がポツリと言葉を洩らした。

「これ、優勝は名前じゃないかな」
「だな! すっげー美味いもん!」
「なんでも良い……寝たい」
「これで優勝が決まったな」

 おぉ、満場一致かな? 田噛先輩とかもう寝る体制になっているけれど。けれど優勝した事は嬉しいから笑顔を作る。

「やったー、嬉しいです」
「ご馳走様」
「さて、片付けるか」

 どうやら優勝商品については忘れている雰囲気だ。それで良い、そう思いながら何食わぬ顔で皿を片付けようとしたら、どこからかニュッと手が伸びてきて腕を掴まれた。 いや予感、顔を上げればとても穏やかな笑顔を浮かべている佐疫先輩。

「さ、優勝者には商品があるよ」
「あ、そうだったな!」
「優勝商品ってなんだっけ」
「一日傍にいる人選ぶ」

 あああああ田噛黙ってろおおお! 殺意を持って睨みつければ更に凄い眼力で見られた。怖い、泣きそう。

「で、名前は誰と一緒にいたい?」
「(マジかああああ)」
 
 どうしよう。嫌な予感はしていたがこうなってしまうとは。

「あ、あのやっぱり優勝は佐疫先輩で」
「それでも良いけど、やっぱり公平にしないとね」

 あああやはりダメか。どうしようどうしよう、あ、もういっその事逃げるか?

「あ、逃げるのは無しだよ?」
「ええええええ……そんなぁ……」
「その条件で名前も参加したんだろ?」
「そうですけど……」

 谷裂先輩の言う事は正論だけど、誰か選べって、それ即ち告白みたいなものではないのだろうか。チラッとまともそうな斬島先輩とかに助けを求めようと視線を送るけど、「選ばないのか?」みたいな視線を送り返された。
 今の現状、味方がいない。

「えっと……じ、自分は」
「なんだ、随分賑やかだな」

 誰かの声が、食堂に響いた。