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「じゃあ、作ってくるね」

 斬島先輩の次は佐疫先輩。佐疫先輩はうきうきしながら食堂の奥へと消えて行った。

「佐疫はどんなの作るんだろうな〜」
「佐疫先輩器用ですもんね」
「ねみぃ……」
「お店に出てくるようなものかもねー」
「だとしたら凄いな」

 あり得そうで怖い。



「お待たせー」

 出てきたものを覗くと、思わず「わっ」と声が出てしまった。

「これは……本当に料理か?」
「料理がキラキラしてる」
「佐疫先輩……凄い」

 出てきたのは、シンプルな玉子焼きだった。けれど色合いとか焼き加減とか見てるだけで素晴らしいのが分かる。ていうかキラキラ光ってるもん、なにこれ佐疫マジック?
 箸を付けるのが凄く勿体無い気がする。けれど問題は味だ、そう思って玉子焼きを半分に切り口に含む。

「美味いな」
「……普通に店に出せる味だろう、これは」
「おぉ……美味しいですね」
「……美味い」
「うっまー! やべーよ佐疫!」

 絶賛の嵐。だってこれ本当に美味しい。玉子ふわふわしてて程よくトロリと半熟気味。美味しい、なんだか感動する。
こんな料理上手な佐疫先輩って、しかも優しいし温厚だしオマケにイケメンだし、いや他の人たちもカッコいいけれど。なぜだか変にテンションが舞い上がり私は佐疫先輩の手を握り締める。

「佐疫先輩……嫁に来てください……!」
「っ!?」

 嫁だ、婿というよりもこれは絶対に嫁だ。食い気味に先輩にプロポーズもどきをすると、他の人たちの表情が凍り付いた。あれ、なにかまずいこと言ったかな? 思わず小首を傾げながらも佐疫先輩を見ると、彼はにっこりと笑って私の手を握り返す。

「もちろんだよ、毎日美味しい料理作ってあげる」
「わー、やったー!」

 茶番に付き合ってくれる佐疫先輩優しすぎる。軽くその場でぴょンぴょン跳ねてると真上から谷裂先輩に押さえつけられた。え、動けないんですけど。

「おい貴様等、今はふざけている時間じゃないだろ」
「うぜぇ」
「名前、佐疫が好きなのか?」
「え、今のはノリというかおふざけというか」
「んだよ吃驚させんなよ〜!」
「心臓に悪いよ……名前」

 冗談なのに谷裂先輩と田噛先輩諸々他の先輩達の顔怖い。口は笑ってるけど目は笑ってない。斬島先輩に至ってはいつもの真顔だけど。
おふざけなのに〜、とむっと頬を膨らませると、手を握っていた佐疫先輩が私を引き寄せて腰に手を添える。

「俺は結構本気だけどね。……名前は違うの?」
「え?」

 顔を覗きこまれて、問い掛けられる。え、なにこれどういうこと? 意味が分からなくて、必死に頭の中で理解しようとするが、その瞬間に後ろの方向から肩を引っ張られて誰かの胸元にトンとぶつかった。
そのまま顔を上げると、そこには今にも怒りだしそうな田噛先輩の顔があった。明らかに睨んでる。そして低い地を這うような声を出す。

「佐疫、いい加減にしろ」
「ごめんごめん、そんな睨まないでよ田噛」
「……ちっ」

 ぴりぴりした空気が少し怖い。どうしようどうしようと狼狽していると、その空気を壊したのは他でもない平腹先輩だった。

「なあ点数きめよーぜ!」
「そうだな。佐疫は何点だ」

 助かった、そう安堵のため息を零すと田噛先輩は黙って私の肩に添えてた手に力を込める。え? と思って彼の顔を見つめるが、当然答えは返ってくることはない。

「今の段階では一位だと思うよ、美味しいし」
「確かにそうだな」
「よかった、嬉しいよ」

 佐疫先輩がにっこり笑う。天使だ。

「佐疫、ふざけるのも大概にしろよ」
「ふふ、やっぱり人気者だね。名前は」

結果:暫定一位。