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獄卒のモットー:残さず全部食べましょう

 平腹先輩が練成した暗黒物質のせいでみんなが回復するのに一時間ほど掛かりました。そして作った本人も食べたのだけれど、ケロっとしていたのがみんなの逆リンに触れたのか平腹先輩は総出でフルボッコにされ死んだ。だろうな。さて次は斬島先輩です。

「行ってくる」

 ばさりとエプロンを付けて、斬島先輩は消えて行った。そして私達はさきほどの出来事で心底疲れている。

「くそ……なんなんだよアレ」
「お酒の味が分からなくなりそう」
「名前、大丈夫?」
「なんとか……」

 トラウマ、平腹先輩の料理が完全にトラウマになった。未だに舌がぴりぴりしている感覚が拭えなくて泣きそう。



「できたぞ」

 コトリと置いたお皿の上には、それはそれは綺麗な目玉焼き。あれ、なんだろう涙出てきた。

「ふぉお、美味そうだな!」
「平腹先輩の後だから神々しいですね」
「目玉焼きで感動する日が来るとは思わなかった」

 なんか遠回しに平腹先輩侮辱されてるけど、本人は気にしてないみたいだから平気か。とりあえず神々しい斬島先輩の目玉焼きを一口取ってみんなでパクリ。

「っ……美味しい」
「ちょっと焦げてるけど、家庭的だね」
「お酒と合いそうだ」
「うまいな」
「斬島すっげー!」
「……イケる」

 凄い美味しい。良かった舌が麻痺してなくて。「斬島先輩さすがです!」と言うと照れ臭そうに頷いた。嬉しそう。

「でも、なんか普通だな〜」
「平腹先輩が言えたことじゃないです」
「普通だからこそ良いんだろ」

 まあ、半熟気味でとても美味しい、これ普通に高得点じゃん。

「昼に作ってくれたお兄ちゃんの目玉焼きみたいな」
「意味わかんねぇよ」
「自分も分からないです」

 きりっと言うと田噛先輩にデコピンされた。地味に痛い。

「可も無く不可も無く……かな?」
「でも平均以上は言ってるから、高得点だよ斬島」

 佐疫先輩が言った言葉にみんなが頷く。ていうか一般的にはこういうレベルの料理が一番無難かも知れない。先輩真面目だから料理とか覚えれば絶対上手になりそう。

「さすがだね、おれも頑張らないと」
「優勝したらごほーびあるもんな!」
「優勝、か……」

 平腹先輩が目玉焼きを食べ終えて、言い放つ。するとチラリと斬島先輩の視線が私に向く。それと同時に他の人たちの視線もなぜか私に注がれた。
いきなりの出来事に思わず声を失った、怖いんだけど。

「優勝商品は名前だもんね、俺も頑張るよ」
「オレもオレも〜!」
「貴様は判定外だろ。……商品が欲しいわけじゃないが、勝負事は負けたくないしな」
「おれは頑張るよ、名前といると楽しいし」
「……ちっ」
「いや、あの……自分なんか貰っても嬉しくないかと」

 キラキラした目で見る先輩達に慌てて両手を振って否定すると、隣に座っている斬島先輩がポツリと言葉を洩らした。

「名前だからこそだろ」
「え」

 どういう意味ですか斬島先輩。そういう意味合いを込めて先輩を見つめるとも、斬島先輩は何も言わずに私の頭を撫でる。
ああどうしよう、なぜか他の先輩達はお互いを見合っているし、あれ火花見える……そんなにサンドバックにしたいのか私を。

「みんな、名前が好きなんだね」
「……だったら嬉しいですけどね」

 みんな仲良くやりましょうよ、と私の呟きは殺伐とした空気の中に溶けていった。

結果:普通に高得点