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短編
救いようがない愛すべき馬鹿へ
 ドンドンドン。

「……」

 ドンドンドンドン。

「……」

 ドンドンドンドンドン。

「だあああああ! うっさい!」

 昨夜は日付が変わる時間帯ぎりぎりまで店に居て、待ちに待った休みの日を睡眠に費やそうと思った矢先に! 誰だよこんなじか……と思って昔から愛用している目覚まし時計を見れば、既に時計の針は十一時過ぎを示していた。やばい、完全に寝すぎた。
 そして今も尚家の扉を叩かれて、このままだと扉を破壊されかねないので私は「はーい! 少し待ってください!」とだけ叫んで、急いでパジャマを脱ぎ捨て手元に置いてあったハーフパンツと、片割れが洗濯籠に入れ忘れたものかと思われるラグランを身に纏い扉を開けた。

「どちらさ、」
「名前ちゃーん! どかーん!」
「きゃああああ!?」
「おはよー名前ちゃん! あさだよあさ! あそぼ!」
「じゅ、十四松……!」

 もしや、とは思っていたが予感見事的中。お隣に住む、二十代で今だ定職についていないらしい松野家の六つ子、えっと……五男だっけ? の十四松だった。松野家の六つ子達は本当に見た目が瓜六つ過ぎて、引っ越してきた当初は全く分からなかった、まあ今も分からない時が多々あるけど。その中でもとにかく一番元気でどこかお馬鹿さんのような、純粋さを持った子どもがそのまま大きくなったかのような十四松だけは私の中で一番印象が強い。
 扉を開けた瞬間にロケットの如く飛びついてきた私はそのまま背中を床にぶつけ滅茶苦茶痛い、にも関わらず私の上で「遊ぼ! 野球! 野球しようよ名前ちゃん!」と喚く成人男性。なんだこれ。

「十四松、ちょ、重い……」
「あそぶ!? きのぼり! きのぼりしよう!」
「おいお前野球はどうした! っていうか! 遊ばないから!」
「なんで?!」
「私寝起きだしまだご飯食べてない……というか今日久々の休みだからねかせ」
「俺もご飯食べる!」
「うわー聞いてないよこの人」
「わー名前ちゃんのご飯!」

 聞いてねぇ、仕方ない、あまり寝過ぎても夜眠れなくなるから起きるか。くそ……適当にカップラーメンでも食べようかと思ったけど、客人にそんなものを出すわけにはいかないし……冷蔵庫の余りもので簡単に作っちゃうか。ていうか私寝起きのままじゃん! 着替えるために一回外に出て貰おうかと思ったけど何時の間にかパワフルボーイ十四松はずかずかと部屋に入り込みテーブルの上でご飯を待っている。
 まあ、十四松だから良いか。と謎の言い分が出来たので私は一応洗面所で髪を梳かして、私にとっては朝御飯だけど時間的には昼御飯を作る事にした。でも、一人でご飯食べるよりかは誰かと一緒の方が楽しいから、私は部屋に転がっているぬいぐるみで遊んでいる十四松に見られないように笑みを零す。



「はい、出来た」
「うおー! 美味そう! 名前ちゃんすっげー!」
「だてにシェフやってませんからね!」

 と言っても見習いだけど。言葉には出さず、なぜか大量にある玉子を使って出来たふわふわオムライスを二つ並べる。街にある料理屋で見習いシェフとして働いている私にとっては有り余りのものでご飯を作るなんて朝飯前だ、仕事で料理を作っている分正直言えではあまり作りたくないのも本心ではあるが、こういう風に喜んでくれる人が居ると素直に嬉しいし作りがいがある。
 いただきます。と互いに手を合わせたと同時に十四松がオムライスにがっついた、豪快だ。

「うま! すっげーうまい! 名前ちゃん天才!」
「うふふー、ありがと十四松!」
「名前ちゃんのご飯毎日くいてー!」
「え」
「うまー!」

 口に含もうとしていたスプーンを、思わず止めてしまった。え、今の言葉って……。毎日くいたい? 変な勘違いがぐるぐると頭の中を駆け巡って、オムライスにがっついている十四松を見つめていると、視線に気付いた十四松が漸くこちらを見た。

「名前ちゃんどうした!」
「十四、松……今、なんて?」
「うまー! って!」
「違うその前」
「まいにち名前ちゃんのご飯くいたい!」

 にぱっと輝かんばかりの笑顔を見せた十四松の言葉に、きりきりと頭が痛くなった。こいつ、分かってないや……いや、まあそんな気はしていたけどさ。あの十四松にプロポーズなんて言葉一生似合わないだろうし、というか私達付き合ってないし……なに勝手に勘違いしてるんだ私は。

「作れるものなら作ってあげたいねー」
「ほんと!? じゃあ名前ちゃん俺ん家住もう!」
「は!?」
「あははー!」

 あははーじゃねぇよ! と叫びそうになったが予想外の言葉で私の身体は熱いしもう心臓バクバクだし……落ち着け名前。多分十四松は所謂専属シェフみたいな扱いで言っているのだろう、それ以外の何者でもないに決まっている、うん、そうだ絶対。
 五月蝿いくらい鳴り響く心臓を沈めるべくコップに入ったお茶を飲み干して、一息つく、当の本人はとりわけ落ち着いた様子でオムライスを頬張っている。なんだろう、私だけ取り乱している感否めない。

「まあ、十四松が働いたら専属シェフ考えておくわ」
「ううん! およめさん!」
「……え?」
「名前ちゃんは俺のおよめさん!」

 ぶっ飛んでる。ぶっ飛びすぎてて思考回路が追いつかないんだけど! 「ご馳走様!」と元気良く挨拶をしている十四松の口周りがケチャップで酷い有様だったので、とりあえず私は無かったかのように、冷静さを保ってティッシュを彼の口元に近づけた。

「口元汚れてる」
「名前ちゃーん、およめさんなる? なる?」
「そうだねー、なりたいね」
「じゃあ今日から名前ちゃんおよめさん!」
「え、ちょっ、きゃあ!」

 弾けんばかりの笑顔を向けたかと思ったら、そのまま十四松は私に飛びついてそのまま体重をかけて来る。突然の重さで耐え切れなくなった私はそのまま床に倒れこんでしまった、こいつ大型犬か。

「名前ちゃんだいすきー!」
「……はいはい、私も好きだよ十四松」

 これは、まあ一応恋人同士になれたということで良いのかな? この方はちょっとお馬鹿だからどうなのか些か不安だが……。けれど嬉しそうにすりすり擦り寄る十四松の頭を撫でて、私は大きくて温かい、色んな意味で救いようがない可愛くて愛らしい十四松の身体に腕を回した。

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(静かに沈んでいく。
十四松が可愛くて死にそうです、けど口調があやふや……。あーもう十四松可愛いです、可愛い。
夢主には双子の弟が居る設定。

題名:Mr.RUSSO

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