×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
短編
あるべければなり。
※主人公が居ます。訳ありで本堂に一時的に暮らしている設定。

「お兄さん、かき氷食べますか?」
「……かき氷?」

 肩上で切り揃えられた髪を揺らしやって来たのは、確か……ナマエだったか。この暑さにも関わらず彼女は汗一つかかずにけろりとしている。細い腕に抱かれているのは色取り取りのシロップが入った瓶だ、赤、青、黄、緑、桃、白、この色はどうも彼等を連想させる。しかし瓶が重たそうだ、大丈夫だろうか。

「アドムが食べたいと云ったらカホルが張り切ってしまい……。宜しければご一緒に如何ですか?」
「……そうだなご相伴に預かろう」
「では食堂へ参りましょうか」

 私の肩ほども届かない小柄なナマエに近付き、私は彼女の腕の中に抱かれているシロップの瓶を自らの腕に納めていく。行き成り成された私の行動に驚いたのかナマエは呆然とした表情を見せ、すぐに私の腕の中にある瓶に手を伸ばした。

「だ、大丈夫ですよ、これくらい」
「女性にこんな重い物を持たせるわけにはいかないからな」
「ですが、」
「私では不安か?」
「……ふふっ、いいえ。では、お言葉に甘えて頼りにさせて貰います。ですが全てを持って頂くのは気が引けるので一本くらいは持たせてください」
「君がそう云うなら仕方ない」

 少し屈んで彼女に瓶を差し出せば、自らの髪や双眸と同じ桃色の瓶を取り腕に抱いた。花が咲くような控え目な笑顔を浮かべたナマエを見て私も少なからず笑顔が零れ出た。本堂から入り食堂へと続く階段を降りていく最中、右腕を三角巾で吊るした青い色の髪と双眸を持つ少年が壁に寄りかかるように立ちナマエを目に入れると顔を顰めた。

「……遅いぞナマエ」
「貴方が全種類のシロップを持って来いと云わなければもう少し早かったですよ。カホル」
「……六種類もあったのか」
「少し申し訳ないと思いましたか?」
「調子に乗るな」

 青い髪をしたカホルは、手にしていた聖書を置きナマエの腕に抱えられている瓶を取った。彼は右腕を欠損しているからあまり沢山の数は持てないだろう、五本の瓶を抱きかかえている私を見てカホルは口を動かした。

「ナマエが世話になった」
「私は私が出来ることをしただけだ」
「……フンッ。アドム達が待っている、行くぞ」



「やあ、有難うねナマエ」
「いいえ、其方こそ準備は出来ましたか?」
「万端さ。ヤロクとツァホヴが今砕いている」
「ヤ、ヤロク……後に、にに、二個」
「おいツァホヴ、交代だ。やれ」
「ひい!? な、なんで……!?」

 煙管を吹かしながら妖艶な笑みを浮かべるアドムはナマエの髪に頭を乗せ優しく梳いていく。彼等は私よりも幾分年が下なはずなのにどこか大人びた妖艶さが出ている。視線を移せばツァホヴとヤロクが一生懸命に氷を砕いている。既に食卓の上には五つの砕かれた氷が透明なカップに乗っており見ているだけで身体が涼みそうだ。

「おいお前等、早くしろ。氷が溶けてしまうだろう」
「あ、あああと一個……!」
「わたしはもう疲れた。後はツァホヴに任せる」
「ひっ!? ぼ、僕には出来ないよ! ……あ、ナマエ!」
「全く……。貸して下さい」
「や、やってくれるの?」
「そういうことでしょう、シロップをお兄さんに持たせたままなので並べて下さい」

 かき氷機の前に来たナマエが、ゆっくりとレバーを動かし氷を砕いていく。杖を付いたままのツァホヴは私から瓶を一本取り食卓へ持っていく、それに続きヤロクも残りの瓶を私から受け取ると並べた。「大丈夫か」とカホルの声が耳に入り振り替えれば包帯が巻いてある方の手に力が入らないのか覚束ない様子のナマエに並び、左手でかき氷機を支えるカホルの姿が在った。如何やらそこまで仲が悪い、ということは無いのは確かだ。

「カホル、有難う御座います」
「……アドムに早くかき氷を食べさせてやりたいだけだ」
「ええ、そういう事にしておきますね」
「っ、さっさと食べるぞ」

 ナマエは女性、ということもあるのかやはり他の彼等よりもどこか大人びた思考を持っている。すっと柔らかい笑みをカホルに向ければカホルの耳はほんのり赤らみ砕き終わった皿を持って早足で彼女から去って行った。
 彼等に続き私も食卓の前に立つと、アドムが私を見て言葉を発した。

「お兄さん、好きなシロップをかけてね」
「あヽ……、有難う」

 各々無意識なのだろうか、自分と同じ髪色のシロップに手を伸ばし取っていく。しかしラバンは違った、様々な色のシロップを見分け、不思議そうな顔で隣に立っていたナマエの服を掴み小さく言葉を紡いだ。

「……ねえさま、いろんないろがある……」
「ラバンは白にしますか? 他の色もありますけど」
「……しろ……」
「ではみぞれ味ですね、わたしのと一緒に半分こしましょうか」
「……うん」

 私は余ったもので云い、そう思いどの瓶が空くのを待っていようと思ったがすぐに自分の目の前に桃色の瓶が差し出された。
 視線を下に下げれば、私の目の前に瓶を掲げふわりと柔らかい笑みを浮かべるナマエが居る。

「わたしは掛け終わったので、宜しければどうぞ」
「有難う」

 赤は苺、青はブルゥハワイ、黄色は檸檬、緑はメロン、桃は桃、白はみぞれ、色とりどりに並べられたかき氷と、自分と同じ色の氷を食べる彼等はどこか不思議な感覚に陥る。

「お、おおおお美味しい……」
「たまにはこういう贅沢も良いものだな」
「ア、アドム! 美味いか?」
「あヽ。暑さが吹き飛びそうだ」
「……おいしいね」
「アイスクリンとは違う美味しさですね」

 満面の笑みを浮かべかき氷を頬張る彼等は子供其の物だ。不思議な部分が多い彼等も甘味を前にすればあっと言う間に年相応になる、とはこういう事か。私もスプーンでかき氷を掬い口に含めばひんやりとした冷たさが舌を襲い甘いシロップが舌に染み込む。

「この氷、ふわふわしていますね」
「どうせなら上手いものをと思って、」
「さ、さささ砂糖氷を、ま、混ぜたんだ!」
「おいツァホヴ、わたしの話を遮るな」
「ひぃっ!? ご、ごごごごめんなさい!」
「貴様ら五月蝿いぞ! せっかくアドムがかき氷を堪能しているというのに!」
「貴方も十分五月蝿いですよカホル」
「ねえさまの、いうとおり……」
「まあ良いじゃないか、たまにはこうして賑わうのも」

 色とりどりに動く赤、青、黄、緑、桃、白を持つ彼らの瞳は時折細められたかと思えばつり上がったりと忙しない動きをしている。嗚呼、私が彼らほどの年だった頃もこのようにころころ表情を変えていたか、奥底に眠った記憶を呼び起こそうにも、そこにはただ無の世界が広がるだけで記憶と思(おぼ)しき光など射す気配が無かった。

「(……私にも、このような時は本当にあったのか)」

 彼らを視界に写している中、再び甘いシロップが掛かったかき氷を口に含めばソレは一度舌を刺激し再び溶けて行く。なんとも儚く甘美な食べ物だろうか。
 思えば、彼らも似ている。どこか儚く淡く、狂おしいほど妖艶さを其の身から放ち、この手で触れれば恐ろしいほどあっと言う間に崩れ果ててしまいそうな程。真夏に浮かび上がる蜃気楼の如く揺らめき幻覚さえ見てしまいそうなほど耽美で美しい。だが、彼らも私と同じ人だ、……似た血肉で形成され、人格を与えられ生きている人なのだ、きっと、そうだ。

「お兄さん?」
「っ」
「どうしたの?」

 すっと眼帯で覆われていない方の緋色が、緩やかに細められ口元を綻ばせるアドムが問うた。いかん、暫く夢現になっていたようだ。

「いや、なんでもない」
「なにかあったら、遠慮なく云ってくださいね」

 近くまで来ていたナマエが両手首に付いたロザリオを揺らし、撫子を髣髴とさせるその双眸を緩やかに細める、ぷっくりした口唇は悪戯をし終え満足した子どものように弧を描きその表情一つが少女とは思えないほど可憐で美しかった。

「……さっさと食うぞ」
「溶けてしまうからな」
「お、お腹、壊さないと良いけど……」
「にいさま……おなかよわいの……?」
「さあ、お兄さんも食べましょう?」
「あ、あヽ……」

 美しく耽美な色を持つ彼らは、本当に人間なのかと時折私に疑いを持たせる。いや、人間だ、きっとそうなのだ。

 そうで、あるはずだ。

----------------------------
ナガツミ初夢です。本当に彼らが可愛い、個人的にツァホヴが大好きなのですが如何せん夢主とカホルを絡ませたくなる。
夢主は既にツイッターは紹介していますが、デフォルト名は「撫子のイノリ」両手首にロザリオのブレスレットを付け、左手に包帯を巻きつけています。
あるべければなり、は明治時代の言葉で「あるに違いない」等という意味です。

back