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短編
昼下がりの出来事
「あー……」

 縁側で横になってボーっとしている時間が私は好きだ、何も考えなくて良いし、ただこうやって時間が過ぎていく感覚が心地良い。
今日は由と黒狐は椿達の元へ行っており、狭塔さんは境内を掃除しているので暫くはこちらに戻ってくることは無いだろう。嵐昼も買い物に出てるし、正真正銘今この場には私が一人、のはずだった。

「……ナマエ」
「ん?」

 縁側の外から声が聞こえたので、身体を捩って見上げればそこには昔からの付き合いがある見慣れた顔が映った。
あれ、随分帰ってくるの早いな。

「かげっちゃん……、どした?」

 幼馴染の一人、架月だった。普段から堅物気味で無表情で無愛想だ、それは現在進行形で続いている、相変わらず不機嫌そうな顔をしているな。ウサ耳フード付きの外套を被せてやろうかと思ったけど後で多分酷い目に遭うから止めておこう。この心地良い縁側で寝転がっている方が断然良い。
緩みきっている私の声が気に入らなかったのか、眉間に皺をぐっと寄せつつも私の近くに座り込んだ。コイツ、怒っているときは怒ってないときの差がたまに分からなくなる。

「今日は一日家にいる気か?」
「だるいもん。そろそろ疲れたよ私」

 由が嵯我野と出会い事態がややこしくなっているから、“掃除”をより一層頑張った、と思う。そして最悪なことに嵯峨野と鉢合わせして戦った事により身体もぼろぼろで限界に近かった。傷の治癒具合は妖の中でも早い血筋の私だけれども、体力は男の架月と眞白の方がだんぜんある。

「元気があまり無いから眞白が心配してたぞ」
「眞白は私がいないことによって掃除が大変だからでしょー」
「……ごもっともだな」
「そういえばこの前の戦いで、傘ボロボロになってたけど平気だった?」

 眞白と架月の傘は嵯峨野の技に耐えられなくて見事にボロボロになってしまった、私のは結構丈夫に出来ているので柄が折れるくらいだったけれども……、知り合いの修繕屋に頼んで前の寄りも結構丈夫なタイプにしてもらったのを思い出して座っている架月に言葉を投げ掛けた。

「お前が雇った修繕屋の腕が良かったからな」
「そっか。……よっと」
「って、おい何してる」

 頭を持ち上げて身体を移動させると、そのまま縁側に座っている眞白の膝に頭を乗せる、おおこれが俗に言う“膝枕”って奴か! 薙や朔が漫画を持ってきゃーきゃーしたのを覗いて依頼興味があったから出来て良かった。
嬉しくなって下から、何してんだコイツ、という目線を向けている架月に笑いかけた。

「これ“ヒザマクラ”って言うんだって」
「だからって何で俺の膝で……」
「落ち着く」
「……」
「(あ。顔赤い)」

 いつもは人を見下したような冷徹冷淡な架月さんも照れることがあるんですね。
赤い顔が物珍しくてじいっと下から見上げていると、架月は耳まで真っ赤にしてすっと右手を出したと思ったら私の視界を塞いだ。

「え、ちょっと」
「あまり見るな。穴が開く」
「なんだそれ」

 久々に過ごす二人だけの休日が楽しくて意味も無く笑えば「阿呆か」と言葉を投げ掛けられてしまった。まあ、確かに阿呆かもしれない。
平和が好きだ、最近ミコ様も忙しいみたいだし、ユエも食事の準備とかであまり話せてないし……掃除も最近は量が増えてるし見回りする回数も増えた。そういえば、嵯我野って、

「嵯峨野ってさ」
「ん?」
「中身は違うけど、体はシンなんだよね?」
「ああ。で、その中身は今、」
「ユエの中にある……ややこしいなあ」
「どうすれば元に戻るんだろうな」
「それが分かれば苦労しませんよ。かげっちゃん」

 本来は今嵯峨野が持っている体の中に、ユエの中身があるはずだけど……なんらかの理由でゴチャゴチャになっているらしい、と狭塔さんが眉間を揉みながら話していたのを思い出す、ミコ様自身も難しい顔をしていたし、そろそろユエの食事相手を絞らなきゃいけないし……。食事と言えば、椿はともかくあのトオチカという人間はどこか怪しい気がしてならない、勝手に神社内にずかずかと入ってくるし。けれど女慣れはしていないみたいで私が近付いただけで顔を赤くしていたのは面白かった。

「考えればかんがえるほど分からなくなる」
「ない頭で必死に考えてみろ」
「うわ性格悪い、女の子にモテんぞ」
「うるさい」

 ほんと口が悪いな、黙っていればカッコイイからモテるだろうに。ああでも、モテられても困る、私がヤキモチ妬いてしまう。

「かーげーつー……」
「どうした?」
「好き」
「は」
「好きだよ」
「……」

 あれおかしいな、反応がないぞ。ていうかいい加減に手をどかして欲しいんだけど、なにも見えないから今架月がどんな顔してるか気になるし。

「架月? どうし、ぐっ!?」

 架月の手に自分の手を重ねてどかそうとしたら、物凄い力で制止された。なんだこれおまっ、どっからこんな力出してんだよ。

「ナマエ」
「なに?」
「お前、凄い顔が赤いぞ」

 確かに無意識に告白してしまったから、身体が熱いわ顔も熱が溜まるわで散々だけど、きっと告白された架月も赤いだろうに。実際見えないから分からないけどさ。

「今、絶対に俺の顔を見るな。見たら潰す」
「ちょ、昔からの親友になんて事言うの。この外道め」
「親友に好きなんて言うか普通」
「眞白にはよく言われるよ?」
「……」

 あ、黙った。多分不機嫌なんだろうな。
だけど眞白から良く好きーといわれるのは事実、まあ友達としての好きだけど。私が架月に言ったのは、多分おそらく恋愛的な意味合い。

「ナマエは眞白が好きなのか?」
「好きだよ」
「……へえ」
「友達として、ずっと付き合って行きたいなーって思ってる。もちろん架月とも」
「……そうか」
「うん、けど架月とは別の意味で付き合いたい、かも」

 さすがに好きとは言ってくれないか。架月は見た目からしてそういう甘い言葉は儚いと思うし。まあ別に良いけどさ。

「ナマエ」
「なに?」
「起きろ、膝っつーか、太もも痛い」
「はいはい、っ!?」

 ゆっくり起き上がると同時に、両肩を掴まれて無理矢理架月の方に体を向けさせられた。
地味に腰辺りがボキッと言ったのはスルーして置こう。

「今、俺に告白したんだよな?」
「……」

 ジッと架月が私を見つめる。
……その聞き方の裏には一体どういう意味合いがあるのだろうか。
そして、私はどう返せば良いのだろうか。

「おい、聞いてるのか」
「聞いてるよ……てか、何でそんな事聞くの?」
「別になんだって良いだろ」
「良くないよ、教えて」
「お前が先に答えろ」
「……」
「ナマエ」

 ぐっと距離を縮められて顔が近くなる。薄い赤色の瞳とばっちり目が合って気まずさで逸らしそうになるが、身体が動かなかった。
体がなぜか少しだけ震えだして、唇が乾く。

「し、したよ」
「……そうか。……なら良かった」
「え?」

 予想外の発言に目を丸くする。てっきり無視されるかと思った、いや無視はないかもっと別のことを言われるかと思っていた、のに。

「それなら良い」
「え、ちょっとどういう意味?」
「さて、そろそろ行くか」

 架月は満足そうに笑った後に立ち上がって外へと出る、取り残された私はポカンとしながらそれを見ていたが架月は私の手を引くと。

「ほら行くぞ、ナマエ」
「ま、待って架月」
「なんだ」
「えっと、」

 なんて言えば、なんかもう頭の中パニック状態で全然整理出来てない。どう言葉を投げ掛けようか、と思い悩んでいるとふっと笑った架月がこちらを見る。

「ナマエ、俺のこと好きか?」
「……うん」

 何が言いたいんだよ、てかさっき好きって言ったじゃん。
ふわふわした意識の中で言葉を発すると、架月はまた満足そうに笑って私を静かに抱き寄せる。

「か、げつ?」
「うん、俺も好きだ」
「……」

 ギュッと抱き締められて、架月の顔が見えないけど多分絶対に真っ赤だ、普段こんな事言わない奴だもん。
てか照れ隠しのつもりなのだろうけどさ、凄く腕に力が入りすぎて痛いんだけど。
どうしたんだろう、こんな素直に物事を言う架月珍しい。

「……今日は家でゆっくりするか」
「うん……良いけど」
「こんな事言うの、今回で最後だからな」
「……ん」
「じゃ、部屋入るか」

 架月は部屋にまた上がっていくから、私も同じようについて行く。
すると架月は急に止まって、こちらを振り向いた。

「そうだ」
「え? なっ……」

 腕を引っ張られ気がついたら唇に温かいモノが触れている。
驚いていると、すぐに架月の顔が離れてまた抱き締められる。

「なんで俺がこんな恥ずかしい思いしなきゃいけないんだよ……!」
「……お疲れ様」

 架月の反応が可愛くて思わず笑みが零れてしまう、私は静かに彼の背中に腕を回して抱き締め返す。

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架月でした! 架月可愛い。
今度は眞白と架月でほのぼの書きたいなー。

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