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- ナノ -
短編
お兄ちゃん(?)は家庭教師
夢主は例のサイフォニスト。

 たまにふらっと寄るカジノで気になったのがあったから取ってみた。ハート型の鍵、どうやら名称は「愛の鍵」という妙に情熱的な名前だ。説明書を読んでも今一分かんないし、まあでもインテリアの一つとして飾るのでいいかな。夜も遅いし、早く寄宿舎に戻って眠ろうと足を急いだ。

「苗字さん」
「天海くん」

 寄宿舎の扉を開いたらそこには天海くんが立っていた。どうしたんだろうこんな夜更けに、天海くんって妙にミステリアスで未だにつかみどころがないんだよね……。

「こんばんはっす、散歩ですか?」
「うん、まあ……ね」

 さすがにカジノに行っていた、とは言い辛かった。曖昧に答えた私を見て察したのかなんなのか、天海くんは笑顔を浮かべて言葉を紡ぐ。

「そうっすか、余計なお世話かもしれませんけど夜遅く歩いてるのは感心できないすよ」
「う……、ごめん」
「まあここは顔馴染みばかりだから大丈夫ですけどね。それじゃあ俺は失礼するっす」
「あ、うん。おやすみ」
「はい」

 ……そういえば、天海くんは何をしていたのだろうか。まあ良いか、早く寝よう。
ポケットに入った鍵を机に出すのを忘れたまま、私はベッドにもぐりこみ眠りについた。

「おお勇者よ! 眠ってしまうとは情けない!」
「!?」

 眠っている最中にいきなりの声が響いたかと思って飛び起きる、展開が理解できないまま呆然としていると、パッと部屋が明るくなり異質な存在がそこにはいた。

「おっはよー! まだ夜だけど、さわやかに目覚めてくれた?」
「……は? え?」
「いやぁ、まだ頭の中寝てるのかな。苗字サンは寝起きが悪いが女の子かな? まぁ、ボクの好みじゃないけどね。ボクは人の寝起き顔にはうるさいからね」

 ? なに、なんでモノクマが部屋にいるの。夢現の中私が大人しくしているのを見てモノクマは喋り続ける。

「(えっと、とりあえず、来客だから……)」
「それにしてもさー! “愛の鍵”手に入れておきながら寝ちゃうとかどういう了見、……ってちょっとー! なにコーヒー淹れようとしてんの!? ここでサイフォニストしなくていいから!」

 べらべらしゃべるモノクマを放っておいてとりあえずコーヒーでも出そうかとカップと豆を出そうとしたら更に大きな声で叫ばれた。うるさい。

「お客様だから……もてなし」
「なにこの天然記念物扱い辛……。って違うちがーう! いいからとっとと“愛”と“性”が渦巻くラブアパートへいってこーい!」

 そのあとご丁寧に説明をしてくれたけど、半分寝ぼけていたから今一理解できなかった。けどとりあえず「相手の妄想に付き合え」らしい。しかも拒否したりしたら相手がとても傷付くとのこと。なんで愛の鍵なんか取っちゃったんだろう。



 言わるがままにカジノ横にあるずっと気になっていたラブアパートいう、妖しい名前の建物に入ってしまった。
 ピンクの照明、回転木馬、目に優しくない色と、やけに主張しているベッドの存在。突っ込みどころ満載な部屋には、

「……」

 天海くんが立っていた。
天海くんの理想のシチュエーションって、一体どんなものだろう。なんて、どこか他人じみた考えを持ちつつも私は彼の動きを待つ。

「……」

 しばらくすると天海くんはいつもと変わらない笑顔を見せたかと思ったら、そのまま私のところにきてぽん、と頭に手を置いた。

「?」
「名前ちゃん、聞きましたよ。テスト、この前よりも点数上がったらしいですね」
「……え?」

 思わず変な声が出てしまったがすぐに慌てて口を閉ざす。途中で間違ったり、やめてしまったら相手は夢から目覚めて苦しい思いをしてしまう。

「苦手な科目だったから少し心配でしたが、うまくいったようで安心したっす」
「う、うん。頑張ったおかげ、かも」
「そうっすね、俺も家庭教師として嬉しいすよ」

 家庭教師。ということは私は天海くんの生徒ということかな。それでどうやら私はテストで、苦手な科目で好成績を残した、らしい。お礼を言った方がいいだろうか。

「天海くんのおかげだよ……、ありがと」
「……」
「天海くん?」

 どうしたのだろう。普通にお礼を言ったつもりだったのだけれども、天海くんはぽかんとした表情のまま動かない。

「……」
「あの、」
「どうしたんすか名前ちゃん、今更天海くん。なんて他人行儀な呼び方」
「えっと……?」
「いつもみたいに「蘭にーちゃん」で良いんすよ?」
「!?」

 ら、蘭にーちゃん!? なんていう呼び方しているんだ私。しかも天海くんそれを当たり前だと認識しているみたいだし……。なら呼ばないとなおさらまずいだろう。

「蘭にー、ちゃん」
「はい。一瞬嫌われたのかと吃驚しちゃいましたよ」

 嬉しそうにほほ笑む天海くん、ああ、そういえば前に妹がいる、という話を少しだけ聞いた気がする。同年代の友達を「お兄ちゃん」と呼ぶのに違和感があるけれど、嬉しそうだから良いの、かな。

「じゃあテストの答え合わせをしていきましょうか。ここに座ってください」
「……そこに?」
「どうしました?」

 ぽん、と叩かれて案内されたのは先ほど似つかわしくないと思っていたベッドだった。なんだか非常にまずいような気がするけれども、天海くんの夢だろうから余計な心配はいらないだろう。
 私も天海くんの隣に座ると、天海くんは何かを思い出したかのように声をあげた。

「あ」
「?」
「君のお母さんから聞きましたよ。この前教えた数式のところ、また間違えたみたいすね」
「あ、うん……。難しくて……」
「そうすね……なら少しだけおさらいしてみましょうか」
 
 言うや否や天海くんは恐らく私が苦手としているであろう数式を使った問題文を提示してきた。数学なんて久方ぶりだからか答えにつまってしまう。紙とペンがあればなんとか行けそうだけどあいにくそんなもの持ち合わせていないから余計に混乱してしまう。

「……分からないすか?」
「ご、ごめんなさい」
「仕方ないすね、じゃあ今から説明しますね」

 どこからか紙とペンを持ち出した天海くん。モノクマがわざわざ用意したのだろうか。綺麗な字で数式を書き上げていく天海くんの手元を見つつ、ちらりと彼の方へと視線を向ける。

「いいすか、まずは、」
「……」

 天海くんの顔を間近で見たことがあまりないからか不思議な気分だ。横顔も整っていて少しだけ羨ましい。……けど、嫌でも目に付くきらきらしたオブジェとピンクの背景と合ってないのが気になるけど。

「……あの、名前ちゃん、そんなに見つめられると照れるんすけど」
「! ごめんなさい。あま……、蘭にーちゃん」

 見つめすぎたのか、天海くんは少しだけ照れたようなそれでいて困ったような笑顔を浮かべる。まずい、全然説明聞いていなかった。怒られるかもしれない。

「……もしかして、集中できなくなっちゃいましたか?」
「っ、」

 先ほどとは、全然違う、どこか艶を秘めた声が聞こえたかと思ったら、天海くんはそのまま私の手の甲をつぅ、と撫でた。
 わけが分からないまま顔をあげれば目を細め笑顔を浮かべる天海くん、な、なに……?

「今日はご褒美として最後に、と思ったんすけど……。集中できないんじゃ仕方ないすよね」
「天海くん……?」

 なに? よく分からないまま、熱っぽい声で囁く天海くんの声に背中が震える。気が付いたときには手の甲にあった彼の手は私の両肩に触れる。まって、今座っている場所はベッドであって、……これって、すごく大変な状況なんじゃ。

「、」

 声を出す前に肩を押されて、私と天海くんはベッドに倒れこむ。そして、天海くんは身体を起き上がらせて私の顔を覗き込んで耳元で囁きだした。

「……一回だけですよ、名前ちゃん」
「え、え」

 一回だけ、押し倒される。……つまり、モノクマが言っていた“性”が渦巻くってこういうことなの……? さすがに、というか絶対だめだよね。あ、でも拒んでしまったら凄く傷付くって……どう、しよう。
 そういえばさっきの天海くんの話を深読みすると、今日が初めて、じゃないんだよね。

「あ、あの、いつもしてるんだっけ……?」
「? いきなりどうしたんすか。……恥ずかしいですけど、会うたびにシちゃうのはやっぱりまずいすかね……?」
「?!」

 天海くんの夢の中の私、破廉恥すぎない……? 私と天海くんは家庭教師と生徒という関係なのにそういう事してるって、大丈夫なのだろうか。ああでも夢の中だから問題ないのかな……。

「名前ちゃん、嫌ですか?」
「蘭にーちゃん……?」
「すみません。実は俺がシたくて……。いつまでこうしていられるか、分からないですし」
「……え?」

 一体、どういう意味なんだろう。物言いたげな私に答えるようにもう一度微笑んだ天海くんは、右手を私の指に絡ませて、左手を首の後ろを持ち上げておでこにキスをする。

「ん」
「ダメっすか?」
「天海くん……意地悪……」
「あ、また他人になったっす」
「……蘭にーちゃん」
「はい」

 愛おしさしかない優しい眼差しを向けられたら拒めるだろうか。夢だしいいかな、……私ってこんなに流されやすいっけ。答えるように絡められた手に力を込めれば、それを合図にしたのか天海くんはにっこりと笑って私の身体を撫ぜ上げた。
 ……正直、覚めないで欲しいと思ってしまうのは内緒。

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対夢主ラブアパ。これ以上は裏案件。

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