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短編
グッバイユートピア
翻訳サイトを使ったイタリア語です。

 疲れた。毎日毎日同じことばかりの繰り返し、上司には怒鳴られ終わることのない仕事を前にサービスもない残業ばかり。会社に泊まって何日経った?よれよれのワイシャツとネクタイ、草臥れたスーツ、現代社会を根源したようなこの姿を見て惚れる女がいるわけない。
 毎日が輝いていた新卒時代が懐かしい、大変だったけれどもやり甲斐があり頑張っていた、のに、今では立派な社畜で納税マシーンだ。

「……実家に帰りたい」

 家族は元気にしているだろうか、ああ、帰りたい。全てをまっさらにして帰りたい、それか女の子とイチャつきたい。抱きたい、そういえばこの前したのはいつだ? それすら忘れている、そして何の反応も示さない自分の息子が心配になって来た、なんかもう泣きたい。

「……空が暗い」

 既に暗くなりつつある公園、誰もいないのを良いことにブランコに乗りぼんやりと空を眺める。首になった訳ではなくさすがに会社に泊まりすぎたのか一時帰宅を命じられたわけだ、無論持ち帰りの仕事はある。……思えばちゃんと空を眺めたのはいつだったろうか、……大人になるというのは、本当に残酷なことだ。
 さあ帰るか、早急に仕事を終わらせれば次の出勤まで二時間は眠れるだろう。

「……ん?」

 重たいため息を零してブランコから立ち上がると、灯りがついている電灯の下、声が聞こえた。

「っく、うう……」
「……?」

 なんだなんだ、幽霊? それとも喧嘩? いや喧嘩にしては声は一人だけだし、……幽霊? まさか…。

「うええ……!」
「(……子ども)」

 少しだけ距離を詰めてみると、小学生くらいの女の子が泣いていた。薄紫のドレスみたいなワンピースを着ている、お嬢様?なんでこんな時間に? 既に外は夜の時間帯だしら親はどうしたんだ。
 というかこれ声かけた方が良いのか? いやでも下手したら俺が捕まるかもしれないし……、だけどこんな時間に女の子一人というのも放っておけない、……どうするカラ松。放っておけば二時間の睡眠が確保できる、だが、困っているレディ、子どもを一人にするというのは人としてどうなのだろうか。ええい思い立ったがなんとやら、俺は小走りで女の子の元へ駆け寄り、顔を覗き込むように話しかけた。

「ふっ……。リトルプリンセス、どうしたんだい?」
「……papà(お父さん)……?」
「……ん?」

少し発音が変だな。もしかして日本人じゃない?そういえば顔立ちは日本人離れしたようなくっきりしている。うーん、どこの国の子だ。

「Sono stato perso(迷子になっちゃったの)……」
「……?」

 ダメだ何語だこれ。英語?生まれて二十数年間日本から出たことがない俺にとっては未知なる言語だ。ごしごし擦るとその目をやんわりと止めて指先で拭うと女の子は吃驚した様子でこちらを見る。やばい、捕まる。冷や汗全開ですぐに手を引っ込めようとしたら、女の子はすかさずその手を掴み、赤く腫れた目で不安げに見つめるのでその手を握りゆっくりとたどたどしく喋る。

「大丈夫、きっとすぐ見つかるさ」
「……」

 外来語なんて高度な言葉は話せないので、何とか伝わるようにしっかり目を見て言えば、ニュアンスが伝わったのか女の子は安心したような顔で初めて笑った。ああ、可愛らしい子だ。

「さて、取り敢えず警察に行った方が良いか」
「?」
「えーと、ポリス」
「polizia(警察)?」
「ポリツィア?」
「polizia!」
「シィ、ポリツィア!」

 どうやら通じたらしい。警察という言葉を分かっているのか、案外素直にその言葉を受け入れてくれた。睡眠時間は確保出来なくなってしまったが、一人の人を助けらるんだ悪く無い。

「じゃあ、レディゴー」
「ゴー!」
「(英語もしゃべれるのか……?!)」

 最近の子どもは凄いな。伸ばされた手を取って、俺は赤塚警察署へと向かう。



「Il nome(名前は)?」
「?」
「Your name(あなたの名前は)?」

 最初の単語て理解出来ず首を傾げると、女の子は少し考えた素振りを見せて、ゆっくりとした発音で英語を話した。名前を聞いていたのか、ならば答えなければ。

「カラ松だ」
「カラマツ!」
「ユアネーム?」
「ナマエ!」
「ナマエか、ベリキュートネーム」
「Grazie(ありがとう)!」

 女の子の名前はナマエというらしい。グラッツェ……、ということはイタリア語? なのだろうか、だが英語で問いかけてみれば、英語を使ってくれたりするので何も聞かずにこのままでいよう。
 ナマエは、どうやら日本に旅行に来ているらしい、詳しい内容も話していたが正直9割くらい聞き取れなかった。だがきちんと相槌を打って時折たどたどしくも英語で話しているとナマエも嬉しそうにしていたので良かっただろう。
 さてあそこの角を曲がればもうすぐ警察署だ、迷子になっている多分イタリア人というこも付け加えておこう。

「ナマエ、もうすぐで、」
「Zio(伯父さん)!」
「あ、おいナマエっ」

 通り掛る人混みの中で、誰かを見つけたのかナマエは俺の手をぱっと離してどこかへ駆けて行ってしまった。

「Zio!」
「お! Sono andato dove, e è fatto male? L'ho cercato〜(どこへ行っていたんだ?探したぞ〜)」

 慌てて追いかけてみれば数メートル離れた先の、俺と同い年くらいの男性に飛びついていた。ナマエと雰囲気が似ている、トレンチコートとハットに身を包んでいる男性は流暢な英語で笑いながらナマエを抱き上げている、お父さんか? ふむ、イタリア語ではお父さんのことをああ言うのか。……だったら一番最初に言っていたパーパはなんだったのだろう。
 少し遠くから眺めて悶々とていると、ナマエを抱きかかえた男性が俺の元へ寄ってきた。

「こんちは! ナマエを助けてくれたんだって?」
「え?あ、ああ……、日本語……?」

 英語で来ると思っていたのに彼の口から出たのはこれまた流暢な日本語だった。素っ頓狂な声を出しつつ声に出せば一瞬きょとんとした顔を見せた男性は、すぐに破顔して声を出して笑った。

「あっははは! こいつはまだ日本語喋れないけど、俺は日本語平気だぜ」
「そ、そうか……。ナマエの父親、ということですか…?」
「いんや俺は伯父さん。俺の弟、あ、こいつの父さんはいま外出中。これから会いに行く予定だったんだけど途中でナマエとはぐれちまってな〜。ほんとあんがとな!」
「いや、身内が見つかって良かった」

 夜に会いに行くとはよっぽど忙しいのだろうか、叔父さんと呼ばれる男性にぴったりとくっつきながらもこっちを見るナマエの顔を覗き込んで話した。

「家族に会えて良かったな、ナマエ」

 通じるか不安だったが、俺の表情でなにかを感じたかナマエははじけんばかりの笑顔で俺の手を握った。

「話すの大変だったでショ、ごめんね〜」
「いや、途中で英語に変えてゆっくり喋ってくれたらかなんとか」
「イタリア語は兎も角、英語は何となく覚えたみたいでな〜。日本語も向こうでたまーに使って音を聞かせてるけどまだまだみたいで」
「ということは、イタリア人?」
「そうそう。俺もこいつもね、でも英語は通じるから」
「……すごいな」
「まあ色々あってね〜、とあんまゆっくりしてたら怒られちまう。これお礼」
「? ……!?」

 コートのポケットから何かを取り出し、そのままぽんと渡されたのは恐らく数十枚程の諭吉。あまりの出来事な目をひんむいて男性を見つめればこれまたにっと爽快な笑顔を浮かべ鼻の下を擦りながら、

「いや〜これ使って捜索隊出そうと思ってたんだけどオニイサンのお陰で見つかったからね! 礼金だと思って受け取ってよ」
「いや、だがこれは……!」
「良いのいいの、どーせ端た金だし」
「(こ、この額で……!?)」

 諭吉を持つ手が震える、恐らく俺の給料何ヶ月分の額では……!? というかこれを幾ら姪を助けたからといってぽんと渡すほどとは、かなりの富豪なのか!? いやいや落ち着けカラ松! このまま懐に入れたいがさすがにそれはまずい! というかなんかここまで来ると危ない感じがするし、丁重にお断りしようとしたら、

「カラマツ!」
「お?」
「ん?」
「Grazie per aiutarmi! Inoltre, conversazione(助けてくれてありがとう、またお話してね)」

 ナマエが身を乗り出して、俺のほおに触れたと同時に、ちゅ、とその唇を俺の頬に押し当てた。いきなりのことでなにがなんだか分からなかったが彼女を抱いていた男性は「お」とどこか楽しそうに笑う、俺から顔を話したナマエは照れ臭そうに笑った後はすぐに男性に抱きつきまたこちらを見てはにかんだ。そんなナマエの頭を撫でながら男性はただただ笑う。

「やるね〜ナマエ、オニイサンに惚れたか?」
「はは、まさか……」
「んじゃ、餞別量も兼ねて受け取ってね。日本金はもう使わねーし」
「え、あ」
「じゃーねオニイサン、また会う日まで〜」

 気が付けばよれたジャケットのポケットに札束を突っ込まれる。手を振ったと同時に、彼の後ろから一台のポルシェがやってくる。唖然としている間にも男性は慣れた手つきで扉を開け乗り込んでしまった、慌ててお金について話そうにも既に車は走り出してしまい、窓から顔を出したナマエが手を振って「バイ、バイ!」と声をあげたのでそれに応えてしまった。そして気がつけば車は見えなくなっていた。

「……なんだったんだ」

 うん? そういえば、あの松のマーク……どこかで……。

こうして、数か月後には国を轟かす大手マフィアと親しい中になり、数十年後には逞しくなったそのマフィアの令嬢に恋心を向けられるなんて、その時の俺には知るよしもなかった。

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パパ松書きたいな、と思った結果出来上がったものです。

タイトル:セネカ様

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