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短編
未成熟のまま駆け抜けて
「んっ……」

 意識していないはずなのに、口元から零れる甘ったるい声にくらりと眩暈がした。開け放たれた口の中で、火が出そうなほど赤く熱を孕ませている彼が目に映り、きゅんと胸が擽られ、声が抑えられない。制服の上を脱がされて外気にさらされたヒートテックのみの肌は鳥肌が立つくらい寒いはずなのに、身を焦がしそうなほど熱い。
 保健室の一角に置かれたソファの肘だけで身体を支えている名前の背中に鴎は手を回しさらに引き寄せる。豊満に膨らんだ胸が鴎の胸板に当たり右と左、双方を埋めつける心音が重なった。
 喰らいつく勢いで唇を貪っていると、名前は快感の中にどこか息苦しさを覚えて顔を顰めながら空い手で鴎の頬に弱々しく触れる。

「んぅっ……! くるっ、し」
「ん……ごめ、ん……」

 殆ど場が作った雰囲気と、途切れそうになりながらも制御を覚えた理性に身を任せ愛しい彼女の唇にがっついていた鴎は、その苦し紛れの声に気付き慌てて唾液で濡れた唇を離す。背中に回された腕が離れ、名前は口の端から輪郭へと伝う透明な唾液を乱雑に拭い身を落としていたソファから起き上がり背もたれに身を沈み込ませた。互いに荒くなった呼吸を鎮めながらソファに身を埋め暫く口を閉ざす。が、静寂は長くは保たずに名前は火照った頬に手を添えてはっと息を吐き出した。

「…………熱い」
「熱、上がっちゃった?」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「あー……良かった……って、いたたたたたた! 痛い! 髪引っ張んないで!」
「そういうこと普通は言わないよ」

 身体のダルさを訴えて保健室にやって来た名前、しかしそこには保健委員の赤青黄は居らずに静かな空間と鼻をつく薬品の匂いが名前の身体に絡みつく。恋人と来ていたらまさにお約束の展開とでも言ってそのあとは少年漫画では描き尽くせないような甘く甘美で濃厚な時間が待っている。と思うが残念ながらというか、好都合というか、今は愛しの彼と共に来たわけではない。勝手ながらプラスチックで出来た四段くらいの小さな引き出しから体温計を取り出し熱を測っていると何故か待ってました、とでも言いたいのかガラリと扉が開いて名前の恋人であり愛しの鶴喰鴎がどこか別の方向に視線を泳がせながら入り込む。なんだどうした、訝しげや意味合いで体温計を腋に挟んだまま名前が彼を見つめると「風邪は人に移すと良いらしい」なんて自信満々に言い放ち気が付けば服を剥かれソファに押し倒され口吸いを営んでいた。思春期真っ只中の男子校高校生、しかし鴎はどこかピュアで脳内だけでそういった事を行っていると思ってバードキスで終わらせようと思っていたのが間違いだった。

「こんな漫画みたいな展開になるとは思わなかった……」
「ジャンプだからね、ご都合主義だよ」
「ジャンプで片付けるのはどうかと思うよ」
「良いの良いの。終わり良ければ全て良し」
「殴るよ」

 別に恋人同士だから問題なんてさほどない、保健室という場所で恋人同士の営みが出来るかどうかの違いの問題だ。どちらかというとこの二人は二人だけの空間を作り出し周りが見えなくなる事があるから気にするか気にしないかで問い掛ければ、暫しの沈黙ののち気にしないとでも答えるだろう。

「……ねえかもめ君」
「なあに?」
「なんで制服脱がせたの?」

 ぱちりと一回瞬き。素朴な疑問を未だ多少なりとも朱色を孕んだ熱を引かせるためにはたはたと手で仰いでいた鴎は彼女の問いかけを耳に流し込み、暫し考えたのち、相も変わらず視線を泳がせて語りだした。

「私としては別に制服でも良かったんだよね。けどさ、よくよく考えればヒートテックって結構ムラっと来ない? あれ身体のラインはっきりしてるからいいと思うのよねー個人的に、あれって一見すれば長袖のシャツに見えるけど実際は下着なんでしょ? どうせなら下着姿拝みたいじゃん? さすがに全部脱がせたら名前の体調悪化しちゃうと思ったから我慢しただんだよ、ほら私大人だからさそういう気配りも出来るわけ。大人の私としては別にそこまで姿形に拘り見せるほど子どもでは無いんだけどほらシチュエーションって大事じゃん? この私が直々に大人としてエスコートしたわけ、それに名前は私のツボを的確についているニーソに今すぐにでも喰らいつきたいほど可愛い上履き履いてるしさどこまで魅力を見出せるか試したかったんだよ」
「全然分かんないけど分かったよ。……っくしゅん!」
「あ、ごめん寒かった? 私の上着着ていーよ」
「いや、自分の着るよ……」
「ムードって大事だよねー?」
「ああはいはい……分かりました、彼ブレザーって奴ですね」

 複雑な構造の制服の上着を脱いで鴎はヒートテック一枚だった名前に掛けた。鴎はどこか口調に女性らしさも感じながらも一応は男性だ、体格もがっしりしているし背も高いので小柄で小さな名前の身体に上着はすっぽりと収まるが袖を通せばだいぶ裾が余りもはや萌え袖どろこかただサイズを間違えた人、という印象を思わせるほどだらしない格好になっている。
 のにも関わらずそれが鴎のときめきポイントに触れたのか引いていた熱が再び急上昇、うっそりとしたように瞳を細め熱くなった吐息を吐き出し苦し紛れに言葉を落とす。

「……かわい」
「え、ちょっ……ん!?」

 名前に再び覆い被さり、鴎は問答無用で赤く熟れた其れにぱくりと喰らいつく。

「っふ…………っ……」
「はぁ……」

 微熱だった体温が上がり、脳内が蕩けぬるま湯に浸かったようなどこか心地良い感覚が襲いこみ7涙で潤った瞳で鴎を見上げる名前、薄く開かれた唇から透明な唾液を漏れており女子高生とは思えないほど、扇情的で官能的な姿がさらに愛おしく思え鴎の理性は限界寸前。もはやちょっとの刺激ですぐにでも途切れそうなほどまで来ている。

「名前、かわいい……」
「ありがと……けほっ」
「あれー? 熱上がっちゃった……? おかしいなー」
「かもめ君の唇冷たい……きもち……」
「…………」

 ふは、と感嘆の声を上げて弱々しく伸ばした腕を鴎の首に絡め、身体を密着させた名前、開け放たれた制服の前からは熱く柔らかいものがむにりと当たり壊れるのではないかというほど大きく鳴り響く心臓が伝わってくる。
 完全に、鴎の理性は崩れ落ちた。「名前」と名を呟いて抱き締めようと背中に腕を回そうとした瞬間、低く呻った声が聞こえた。

「うっ……頭ぐらぐらする……」
「!? と、とりあえず横になろうか!」
「ん……」
「(やめて、やめてそんな目で見ないでえええええええええ、私ちょっと色々危ない状態なんだよ!?)」

 女性の涙目なんてたかが知れているだろうと思っていたのにこれは想像以上の破壊力。未だ知らない道の世界に飛び込もうとしたが赤いどころか青白い名前の顔を目に移し慌てて身体を持ち上げ保健室には必ず置かれているベッドに肢体を沈み込ませる。
 憑き物が取れたようにどこか楽な表情を見せた名前を見て鴎は彼女の唇を指でなぞった。

「かもめ君……?」
「……ね、もう一回、いい?」
「い、よ……」
「ん」

 止める気なんて無いらしい。もはや二人を咎めるものなんて何一つ無く二人が作り上げた甘い空間と痺れるような快感を求めどちらからでも無く唇を合わせ震えながらも舌を絡める。

「ふ……っ……はっ……」
「っ…………ぅ……」

 唾液の絡み合う音が静かな保健室に響き渡る、覆い被さっている鴎のシャツをキュッと握り締めて名前は熱で犯された甘い快感に身を震わせ何故か零れた涙で輪郭で濡らす。

「……はぁっ……」
「ごちそうさま」
「かもめ君、やらし……」
「涙目頬赤い唾液が垂れて乱れた格好してる妖艶な名前に言われたくないなー、私ちょっと色々危ないんだけど」
「高校生活、大事にしようね?」
「……はい」

 卒業したら良いのかな。と思春期男子学生は素朴な疑問を感じたが苦しそうに顔を歪めている名前を前にさすがに自重を覚えた。
 シーツを掛けて滲んだ汗を拭い、頭を撫でながら鴎は名前は優しい声色で言葉を彼女に投げかける。

「名前、私君が目覚めるまで傍にいるから眠ってていいよ、ていうか寝て? 熱悪化したら大変だし」
「かもめ君のせいだよ……」
「ごめん。ちょっと調子乗りすぎたね」
「別に良いけど……」

 熱が悪化した名前の熱い額にふわりと鴎の大きな手が舞い降りた、別に冷たいわけでも無いのにどこか熱が引いていくような感覚を覚えた同時に突然の眠気が名前に襲い掛かり瞼が開かない。

「名前、好きだよ」
「……」

 なんて、漫画みたいな事をしてみる。小さな声で愛の言葉を吐き出すも既に眠りの世界に入り込んだ名前に聞こえるはずなんてないのに。

「(やだなー、私ってこんな性格だったっけ? まあ私大人だからそういう細かいことあまり気にしないけどちょっとなんか不思議だなー……名前に会ってなかったらどうなってたんだろう)」
「かもめ、君」
「え、起きてたの?」
「好き」
「…………」
「んぅ……」

 もういっそ襲ってしまおうか。後で半殺しにされても良い、いやけど嫌われたくない。どうしたら良いんだ。
 わずかに繋がった理性と欲望の葛藤に、男子高校生鶴喰鴎は一人悩んだ。

題名:scald様

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