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君と僕。

「高橋さんと付き合うことになったんだ」
「……え?」

 浅羽悠太、祐希と私は幼稚園の頃からの幼馴染だ。私を含んだ五人の幼馴染の中でも特に仲がよく、家も近いのでこうして家に遊びに行ったりもしているほどだ。
 いつものように悠太と祐希の家に遊びにきて、部屋に入れてもらってのんびりしていたときに放った悠太の言葉によって私は完全に言葉を失った。

「告白された、から付き合うことにした」
「そ、うなんだ……」
「ゆうたもすみに置けないよね」

 ベッドに寝転がっていた祐希が、悠太の頭の上に腕を乗せて言った。ベッドの脇に並んで座っていた悠太と私、しかし今は彼の顔が見えない、否、見たくなかった。

「……名前?」
「お、めでとう。悠太」
「ん……ありがとう」

 声が震える、なぜだか分からないけどカタカタと体も揺れているような感じがした。頭の中で真っ白で、くらくらして、よく分からない。分かりたくない。
悠太に彼女が出来た? 確かにモテる、それは弟の祐希もそうだけど、それ以前に恋愛に興味なさそうな彼に彼女が出来るなんて考えもしなかった。ああ、おかしい、おかしいよ私、落ち着いて。

「あ、の、用事思い出したから帰るね」
「え、名前」
「……送ってく」

 今にも倒れそうなのを抑えて私は意を決して立ち上がった。ふらふらした足取りに気付いたのか、祐希はベッドから出てきて私の肩を支える。俯いているので、二人の表情は分からない。けれど、多分悠太は驚いた顔をしていて、祐希はきっと気付いている。

「ばい、ばい。悠太」
「……うん」

 パタン。扉が閉まる音がした。

「祐希、送らなくて平気」
「え、でも」
「良いから。……大丈夫だから」
「名前……」
「ごめんね。じゃあね」

 逃げるようにして、階段を下りていく。一階にいた悠太祐希ママに挨拶をしてミュールを履き浅羽家を出る。
未だにフラつく体を上手く保ちながら私は今までの出来事を必死に咀嚼する。

「(悠太、彼女……)」

 その後家族の声を無視して、自室に篭った。

*(祐希視点)

 名前の様子がおかしい、と悠太が言った。どうやら自分が原因だと分かってないみたいだ。分かるわけないか。

「ゆうた、俺名前の家行ってくる」
「え、じゃあ俺も行く」
「ダメ。高橋さんに悪いよ」
「?」

 ずるい、わざと名前と悠太を遠ざけようとする自分に自嘲気味に笑う。俺はそれ以上の言葉は言わずに急いで名前の家へ行く。

「名前、帰った早々部屋に閉じこもったんだよ」
「理由は分かるので、上がっても良いですか?」
「おう、え、てかお前が……?」
「違います」

 玄関に出たのは名前のお兄さんだった、そうか仕事が今日は休みと言っていたな。お兄さんの横を通り部屋にいるであろう幼馴染の部屋に入る。

「名前」

 扉を開けると、布団に丸まっている名前がいた。もう一度名前を呼べば不満そうに布団から顔を出した。
 泣いているのか、目が心なしか赤い。

「……ノックしてよ」
「ごめん。泣いてる?」
「……ばーか」

 悪態をついている時は大抵情緒不安定な時だ。そのまま布団に丸まっている名前の隣に座りこちらを睨む彼女の頭を撫でる。

「……祐希、知ってた?」
「なんとなくだけど、さっきので確信付いた」
「そっか……馬鹿だね。関係壊したくないから想い隠してたらこの様だよ」

 名前は、悠太が好き。俺はそんな彼女が好き。だけどその線は歪に歪んで切れてしまった。
 何て言えば分からないけど、とりあえず俺は名前の頭を撫で続ける。

「ゆうたは、名前のこと大切に思ってるよ」
「それは、幼馴染としてでしょ」

 何も言えない。本当のことだからヘタに言葉を口にすることは出来なかった。俺が無言なので気付いた名前は静かに鼻をすすり上げて布団から出た。

「祐希っ、私っ……」
「……うん。おいで」
「うっ、……うああああああああああああ!」

 ぼろぼろ涙を流す名前が見ていられなくて、俺は黙って腕を差し出す。堰を切ったように声を上げて名前が飛びついてきた。痛いくらいに力を込めて俺の腰に腕を回す彼女の頭を撫でる。

「(ずるい)」

 悠太はずるい。名前が、悠太のためにこんなに泣いているなんて、……妙な虚しさが脳内を侵して唇を噛み締める。
 想われることがどれほど羨ましいか、叶うことがないのに想い続けるのがどれほど苦しいか……知らないし、知ることがない。

「好きだったっ、……私の方がずっと好きだったのにっ……!」
「……うん、頑張った。名前は頑張った」
「ゆうたっ、ゆうたの馬鹿っ……!」
「……」

 彼女の口から悠太の名前が出るたびに胸が痛む。それはずっと前からそうだったけれど。他の人には分からないと思うけど、彼女は俺と悠太の名前を呼ぶ回数が微妙に違う。見る目も違う、好きな人のことになるとこんなにも独占的になりおかしくなる自分に嫌気がさす。

「ねえ、名前」
「うぇっ……?」

 名前を呼べば、涙でぐちゃぐちゃになった名前が顔を上げる。悠太のことなんか忘れて、俺の方を向いてよ。悠太のために泣くんじゃなくて、俺のために笑ってよ、俺の名前を呼んでよ。

「悠太より、俺にしてよ」
「……ゆう、き?」
「俺の方が、ずっとずっと名前が好きだった」

 溜めていた思いを吐き出して、泣きそうになる。困惑と驚きが入り混じった名前の手を取り、その小さな掌に唇を押し当てる。

「俺の方を、向いてよ」

 後戻りは出来ない。けれど、もうどうでも良かった。

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君と僕。悠太←夢主←祐希でした。
因みにデフォルト名は七瀬 羽月(ななせ はづき)ちゃん。
もしかしたら続くかも知れない。

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