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コレの続き。

「は〜……終わったぁ」

 持っていたシャーペンを筆箱に戻して思い切り伸びをする。放課後の部室は既に誰もいない、部員には、明日も朝早いからゆっくり休んでください。とだけ言って寮に帰ってもらった。
書き終えた部誌をファイルに入れて職員室に持っていくべく私は立ち上がった。室内点検もきちんとして部室から出ると、一つの影が私に覆い被さった。

「苗字さん!」
「え、真波くん!?」

 そこには荷物を持って愛車であるLOCKに跨っている真波くんがいた、彼の姿を見ると額にうっすらと汗をかいているからこんな時間まで山登りをしていたのだろうか……? 
いきなりのことに頭が付いていかずにただただ呆然と真波くんを見つめた。

「良かった、間に合った!」
「間に合う?」
「待ってたんだよ。ついでに時間もあったから山に登ってたんだ、距離を短くしてね、それで戻ってきたらちょうど苗字さんが出てきたところだったから……タイミングが良かった」
「うそ……」

 だって解散をしたのが六時くらいで、今の時刻は七時前……それまで彼は山を登っていたけど私をずっと待っているつもりだったのだろうか。
ときめきよりも、彼の貴重な体力温存時間を私なんかのせいで削ってしまったことに凄く罪悪感を感じて思わず頭を下げる。

「ごめん! 真波くん疲れてるのにわざわざ待ってもらっちゃって!」
「え!? べ、別に……俺が勝手に待ってただけだよ?」
「でも、もう七時になるよ? 明日も早いのに……」
「それはマネージャーだって同じだろ?」

 にっこりと爽やかな笑顔を向ける真波くん。……そういえば、私以前彼にキスをしたことあるんだよな……瞼だけど。あの後気まずくなったと思ったけどそれは私の思い過ごしで彼は全然気にしていなかったし。
ま、女の子大好きかつモテモテだからそんなの慣れているだろうしね……。

「(なんか惨めだなぁ)」
「苗字さん?」
「ん、なんでもない。帰ろう」
「うん」

 自転車を押して歩き出す真波くんに続いて私も歩き出す。外は既に真っ暗になりつつあり、目線を落として道を見下ろすと影はほとんど見えなかった。
コツコツとローファーの響く音だけが木魂してなんだかちょっと沈黙が気まずくなって来た。

「……そういえば、俺分かったよ」
「なにが?」

 沈黙を破った真波くんは、ポツリと言葉を洩らした。耳に入ってきた言葉に疑問を感じて私はすぐに質問を投げ掛ける。
真波くんは、こちらを見ないで地面を見つめたまま、唇を動かして言葉を紡ぐ。

「この前、君が俺にしたキスの意味」
「っ!?」

 いきなりの発言に絶句した。ていうかあのキス事態に意味があるということを彼は分かっていたのに驚きですよ! この前の行いを思い出して私はただただひたすらに無言を貫く。

「苗字さんは、俺に憧れてたんだね」
「そ、うだね? 前も言ったと思うけど」

 瞼のキスは、憧憬。真っ直ぐできらきら輝く真波山岳という男に私は憧れていて、いつか彼と同じような話をしたいと思っていた。
その思いは今でも変わらなくて、今でもやりたいことや興味があるものには積極的に行っている、今では、少しだけ料理に興味がある。
ちらりと真波くんに目をやると、こちらをチラッと見て口元を緩ませる。

「苗字さんは、俺に対して憧れしか向けてないの?」
「……?」
「俺、キスの意味たくさん覚えてきたよ」

 照れ臭そうに、片手で頬を掻く真波くんを見つめる。彼が言っていた言葉の意味がよく理解できなくて、ぐるぐると私の中で回っている。
目線を動かしながら言葉の意味を必死に理解しようとしていると、彼が不意にポケットからハンカチを取り出した。

「真波くん?」
「……苗字さん、キスする場所によって意味があるのは知ってるよね?」
「うん、前に本で読んだし」
「だから俺にもしたんだよね」
「……」

 なんか、凄い恥ずかしい会話をしているよねこれ。ただただ熱を帯び始める体をぱたぱたと制服の襟で仰ぎながら私は彼の手の中でひらひら踊るハンカチを見つめる。
きゅ、彼のLOCKが静かに止まった。それに伴って私の体も自然と足を止めた。流れ出彼の顔を見上げると、真波くんは少しだけ難しい表情をしている。

「どうしたの?」
「……じゃあ、これの意味も分かるよね?」
「え、っ」

 口元にハンカチが押さえつけられたと同時に、布越しに伝わる生暖かく妙にふにゃりとした感触が唇から伝わった。

「これ、返事聞かせて欲しいな」

 一瞬の出来事だったが、彼の顔は凄く真っ赤で、だけど楽しそうに笑っていた。離された唇に触れると思わず唇の、キス……。と言葉を呟いて必死にどういう意味だったかを思い出すため記憶の引き出しを探る。

「(唇の、キス、唇……は、確か……)……え!?」
「分かった、かな?」

 彼の大胆な告白に思わず上ずった声を上げつつも、私は照れ臭そうに笑う真波くんの顔に手を当てる。
答えはもう、分かりきっている。

「苗字さ、ぅわっ!?」

 今度こそ、二人の間に立ちはだかる壁なんてない。さきほど唇に当てられたハンカチを握り締めて、私は彼の唇に自分の唇を静かに押し当てた。

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