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グレゴリーホラーショー

 毎朝毎朝俺はいつも教室に一番早く着く。それがどうしてなのかも考えたことなんて特に意識することではない。ただ少しだけ、誰もいない教室は静かで心地がよいと感じる。
なぜか俺一人だけを乗せてくれたバスに揺られながら俺は学園へと向かっていく。
なにも考えずに、教室へ続く階段を上り扉に手をかける。

「っ、ナマエ」
「あ……シェフ」

 教室に入った瞬間、いきなり身体に衝撃が走った。ゆっくり下を向くと、赤い瞳を涙で歪ませているナマエがいた。
何事かと思ってナマエの顔を覗きこむと、ナマエは黙って俯いてしまった。

「……なにか、あったのか……?」
「なんでも、ない」
「……嘘つくな」

 泣いていただろ、と付け足すとナマエは困ったように眉を潜める。黙ってナマエが喋りだすのを待っているとポツリポツリと言葉を発した。

「……教科書、隠されてた」
「……」
「この前は上履き、鞄……なんかイジめられてるっぽい」

 苦笑をするナマエがなんだか居たたまれなくなって俺は黙って彼女の黒髪に頭を乗せる。
最近この学校に転校してきたナマエは、持ち前の容姿端麗さや身体能力の高さから一気にクラスの、学園で一目置かれる存在になっている。
彼女を狙う男共も多くそれが気に入らない女が多々いるってことか。

「ボーイやネコゾンビ、シェフとかって女子にモテるもんね。仲良くしてる私が気に入らないのかも」
「……そんなことない」

 苛められた相手に心当たりは? と問うとナマエは小さく頷いた。話を聞く限りあからさまに陰口を言ってきたり陰湿な行いをすぐしてくるから分かる、とのこと。

「誰かに相談は……?」
「してない。お父さんとか死に物狂いで犯人見つけて病院送りしそうだし」

 この学園の先生をしており娘を溺愛する、あの父親ならありえるな。と妙に納得してしまった。

「いやぁ……ぶっちゃけやり返そうと思ったらやりかえすことが出来るんだけど大事にしたくないし」
「だが、このままだと苛められ続けるぞ」
「そうだけど……」

 見た目は普通の人間なのだから、本気を見せてやればいいだろ。と言うとナマエは唇を尖らせて小さく唸る。

「それで友達いなくなったらイヤだ……」
「その程度でいなくなるなら、しょせんその程度の友情なんだろう」
「あぁ……そう考えるとそうだね」

 でもなぁ、なんて一生懸命考え出すナマエ。時計を見るともうすぐ生徒達がぞろぞろとやってくる時間だ。
未だに考え込むナマエの両方に手を添えて顔をこちらに向かせた。

「シェ、シェフ!?」
「……反撃だ」
「え!?」
「俺も手伝う……いや、クラスの連中巻き込んで反撃してやろう」

 そう言うとナマエの瞳は面白いくらい大きく見開いて口をぱくぱく動かす。
そして暫くした後に、静かにぽろぽろと涙を零しだした。これにはさすがに俺も驚いて、なるべく優しく声を投げ掛ける。

「ナマエ……? どこか、痛いのか?」
「ちが、っ……」
「……大丈夫だ」

 そう呟いて、必死に涙を拭うナマエを抱き締める、小さな身体は震えており時折嗚咽が俺の腕の中から聞こえてきた。
しゃくり上げながらもナマエはポツリポツリと言葉を放った。

「な、んで……シェフ、私のために……ここまでやってくれるの?」
「……?」
「私、ここに転校してきて少ししか経ってないのに……こんなによくしてもらう義理なんてないよ……」

 なんだ、そういうことか。彼女は誰にも迷惑をかけたくなかったから、黙っていたわけか。
身体を離してナマエの涙を親指の腹で拭って俺は本心を告げる。

「友人が困っていたら、助けるのは当たり前だ」
「友人……?」
「俺は、お前の友達だ。だから、友達が泣いているから助けたいと思うのは当たり前だろう」
「シェ、フ……」
 
 一気に溜まっていたものが流れ出すかのようにナマエの瞳から涙が溢れ出した。
目を細めて頭を撫でるとナマエは何度もありがとう、と呟く。

「シェフと、出会えてよかった……友達に、なれてよかった」
「……ああ」

 もう泣くな、そう呟いて俺は泣きながら嬉しそうに笑うナマエの額にそっと口付けを落とした。



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