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 昔から惚れっぽい性格だと自負はしていた、瞳先生やめだかちゃん、喜界島ちゃんやら安心院さんに片思いをして結局両思いになることは無かったけど我ながら結構楽しい片思いだった。
けど、今回出会った雀は別格だった。見た瞬間から心臓を打ち抜かれて、理性も崩しちゃうくらい可愛い雀ちゃん。もうね、可愛いしかない。

『雀ちゃ〜ん! おはよう!』
「おはようございま、ってスカート捲ろうとするな!」

 朝の日課、学校へ行く途中の雀ちゃんをストーカ、げふん、追いかけてスカートに手を伸ばせば気配を察知したのかそれよりも素早い動きで封じられてしまった。この子、この短期間で成長してやがる!

『そ、そんな……僕の動きは完璧だったはずなのに!』
「ふふふっ、さすがにここまで来れば貴方の行動は読めますよ!」
『え? 愛してるだって? 僕もだよハニー!』
「耳鼻科行け変態!」

 どうやら僕の耳は雀ちゃん限定で全てが都合よく解釈出来るらしい。嬉しさで彼女に抱きつこうとしたらまたはたかれた。
うーん、ここまで来るとなんで僕も彼女にこんな変態的行為をしてしまうのか凄い気になる、つまりはそれだけ彼女にべた惚れというわけか。
納得。

「はああ……球磨川先輩、一応わたしの先輩なんですからもっと先輩らしくしましょうよ」
『僕が真面目なこと言っている姿見たいの?』
「……見たくないですね」

 難しい表情をして呟く雀ちゃん、それはそれでショックだよ。でもまあ良いか、なんだか前よりもずいぶん顔が優しくなった気がするし。

『てことで、パンツ見せて?』
「意味分からん! ほんともうその変態具合直してくださいよ!」
『少し特殊なだけで輝かしい個性なんだ!』
「なおさら性質悪いですよ!」
『こんなにもあなたを愛しているのに! 君を殺して僕も死ぬ!』
「うわいきなりのヤンデレ! めんどくさいですよ!」

 振り向いてもらえるなら、構ってもらえるならなんでもするよ! と言ってみれば心底呆れたような顔をしてはあ、と重たそうなため息を零す雀ちゃん。ため息を零すと幸せ逃げちゃうよ、あ、その原因は僕か。

『とにかく大好きなんだよ! もう愛してる!』
「はいはい分かりましたから」
『いっそのこと禊って呼び捨てでも良いんだよ?』
「いやいや、他人ですし。友達とかなら呼び捨てにしますけど」

 ばっさり切り捨てられた。あれ、僕友達にも満たない存在? なんか先輩としても敬われていないし……彼女から見た僕ってもしかして赤の他人かなんかうろちょろして変態発言や行動をする生物って認識されてるのかな。

『うわあ、泣きそう』
「いきなりなに言い出すんですか」
『いや、せめて友達になりたかったなぁって』
「……?」

 理解出来ない、と言うように小首を傾げて真顔で僕を見つめる雀ちゃん。あ、今の表情凄く可愛い、写真撮りたかったな。
さり気なく距離を詰めて、抱きつこうとすればやはり隙を突かれて逃げられた、ちっ。今までは隙をつけば抱きつけたのに。
 そんなことが表情に出ていたのか、雀ちゃんは眉間に皺を刻みつつもどこか呆れたような表情で、僕の頭を背伸びして撫でてきた。あ、今凄いきゅんとしてる、純粋な意味で。

「わたしは、禊先輩のことは友達かは分かりませんが、一応先輩として敬ってますよ」
『!』『え、今、禊って……』
「なんだか、最初は他人で行こうと思ってたのに、ここまでアプローチされたらまあ友達くらいなら良いかなって思うようになりましたよ」

 我ながら変わってますね、なんて屈託のない笑顔を向けて僕の頭を掻き毟る雀ちゃん。ちょっと痛いけどまあ良いか。
それよりも、さっき言われた言葉と、すっと言葉に吐き出された「禊先輩」という発言に身体が熱くなって、顔も熱を帯びていくのが分かった。
こういった小さなことで嬉しくなるとは、本当に彼女にべた惚れなんだなぁ。

「禊先輩?」
『すっごく嬉しい!』『これから友達、恋人、夫婦って段階を踏んでいくんだね!』
「は!? 待って意味分からないですから!」
『卒業後すぐ書けるように婚姻届とか用意しておこうか!』
「ちょ、って抱きつくな!」

 堪らなく嬉しい気持ちが溢れ出て、彼女の不意をついてそのか細い身体に絡みつくことに成功した。むにゅむにゅと柔らかい彼女を身体を全身で感じて色々理性がグラついてきたところで、気を紛らわせるために言葉を出す。

「はあはあ良い匂いするね雀ちゃん、もう結婚しちゃおうか!』
「誰がするか! 貴方とは友達止まりですからね!?」
『え?』『わたしも好きだって? 知ってる知ってる!』
「〜黙れど変態野郎!」
『ちょ! 鋏は反則!』

 スキルは繰り出さなかったが、鋭利な刃物が一気に目の前を掠って額が切れた。一瞬まじで命の危険を感じたけど、彼女にはこの時殺意はあまり無かったらしい。

「もう、学校行きます!」
『え、待って僕も行く!』
「五十歩離れてからにしてください!」
『ほぼ他人同士の距離感じゃん!』

 僕を無視して、ずかずか歩き出していってしまう雀ちゃんを僕は必死で追いかけた。
これからも、こうしてたくさん迷惑かけちゃうだろうなぁ、申し訳ない。けど大好きな彼女を見たら行動は制御出来ないから仕方ないか。



『ということがあって、結婚したんだよ!』
「……おとうさんは、昔から変態なんだね」
『息子よなんてことを言うんだ!』

 否定しないけど! なんて良いながら小さな身体に抱きつけば雪は「やめろよー!」なんて言いながらも楽しそうに僕の身体に絡みつく。うーん、どうしてこうも我が子は愛おしいのか。
愛する息子と一緒に戯れていたら、鍵が開く音がして、今までたくさん迷惑を掛けてきてしまった、僕の大切な人の声がした。

「ただいまー、道が混んでて大変だったんだ」
「パパ、雪にぃただいまー!」
「おかあさん、燕お帰り!」
『お帰り雀』

 リビングに入ってきたのは、昔よりかは少しだけ大人びて、髪の毛も腰まで長くなった雀と、雀そっくりの顔立ちに、昔の僕と全く同じ髪型を背中まで伸ばしている大切な娘の燕(つばめ)だった。燕はにこにこ笑顔で僕達の元に走ってきて抱っこをせがむ。ああ可愛い、息子も可愛いけど娘もめちゃくちゃ可愛い、天使なんじゃないかなうちの娘は。世界一可愛いよほんと。

『燕、お買い物楽しかった?』
「うん! ママとたくさんおしゃべりしたの!」
「どんな話をしたんだ?」
「パパとけっこんしたりゆう!」
『え』
「おかあさんはなんて言ったんだ?」
「パパが変態だからだって!」
「あ、こら燕!」

 腕の中でにこにこ笑顔で衝撃的な言葉を放った娘を思わず落としそうになった。驚いた、兄妹で全く同じ質問をしているとは。しかし、我が奥さんの僕と結婚した理由が納得行かないぞ。という意味合いで彼女を見れば、昔と同じように視線を合わせずに必死に弁解をしている。

「い、いやえーと……さすがに昔のことを事細かく娘に話すのはどうかと思ってかいつまんで話をしようかな、なんて思ったんだけどやっぱり禊との馴れ初めを思い出すと貴方が変態だったってことしか印象に無くて結局禊の変態を受け入れられるのはわたししかいないだろうと思って結婚したんだ、って言っちゃった。で、でもそれだけじゃないよちゃんと禊のことは愛してるし今も凄く愛してるから、だからショック受けないでね!?」
「わー、おかあさん鴎おじさんそっくり!」
「すごーい!」
『……ぷっ、はは』

 きゃっきゃっはしゃぐ我が子達を他所に、久々に聞いた雀のマシンガントークに思わず笑ってしまった。するとそれを疑問に思ったのか雀は首を傾げてきたので、燕をソファに座らせて彼女の傍に寄る。

「禊?」
『まあ、輝かしい個性だからね。仕方ないよ』「……愛してるよ」
「ん」

 さすがに子どもの前だから、口には出来ないので括弧を外して頬にキスを落とせば燕は「きゃー!」なんて言いながら小さな手で顔を覆って、雪は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。初々しい反応を見て、僕等夫婦は思わず笑った。

「不意打ちは、ずるいよ……いつもなら変態行動して、攻撃して禊に勝てるのに」
『……やっと勝てたね』
「負けました」
『ふふ』

 おどけたように舌を出して言えば、雀もぺろっと小さな舌を出して言葉を吐いた。

『これからもずっとずっと宜しくね』
「こちらこそ、……って胸を触るな変態!」
「ママつよーい!」
「やっぱりおとうさんは変態なんだ」
『いててて……』

 愛しの雪と燕のためにも、この変態癖は直した方が良いかも知れないけど、多分一生無理だろうな。だって愛する彼女の前だと制御が効かなくなってしまうし、彼女もよく僕を受け入れてくれたものだ。

『雀』
「ん?」
『こんな変態ですけど、これからも宜しくお願い致します』
「……貴方を受け入れられるのは、わたしだけですからね」

 可愛らしい笑顔で、抱きつきたい欲が出て抱きついたら問答無用で殴られた。まあ、でも幸せだから良いか!

END




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