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「っはああ……」
「三十八度七分……完全な風邪だね」

 やらかした。今日が午前授業、明日が開校記念日で本当に良かった。

「なにか悪いことしたっけ……?」
「ヒートがなにかに躓いて引っくり返ったバケツの水を被ったせいだと思うよ。あの後しばらく言い合いしてたし」

 体温計をぶんぶん振りながらイトコ兼同居人の鴎は言い放った。
うーん朝からだるいとは思っていたけどまさか家ついた瞬間ぶっ倒れるなんてなぁ。
じんわりと汗で張り付いたわたしの制服に鴎は手をかける。

「うー……鴎、半分脱がして」
「普通は恥ずかしがるもんだと思うのだけれど。私も長年一緒にいるイトコに今さら欲情なんてしないけどさ」

 キョドりもせずに鴎はわたしのネクタイを外して制服のホックをプツンと外した。後は自分で着替えてね、と言いながらわたしに汗拭きタオルを渡した。

「お昼まだだったよね、なにか食べたいものある?」
「なにも食べたくなーい」
「え? 私を食べたい? 何言ってるの雀ってば」
「病人にツッコミさせんなバカヤロウ」

 汗ばんだ体をタオルで拭きながら寝巻きに着替える。
本当にお腹すいてないから食べたくないんだけど。

「うーん……甘いものとかは? プリンとかゼリー」
「あ、それなら食べれるかも」
「分かった。……ちょっと買ってくるから待ってて」
「はやく帰ってきてねー」
「分かってるよ。いってきます」

 バタバタと急ぎ足で鴎は家を出て行ってしまった。基本学校から帰ってきたら早めにお風呂、夕飯というスタイルを取っているわたし達は間食はしないから家に甘いものとかアイスなんてものはない。
たまに学校帰りとかに買ってくることはあるけれども。

「……つまんないなぁ」

 鴎がいなくなってしまったから、空気が冷たい。それに病気のときってやたら孤独感とか消失感大きいよね。
重たいため息を零して、寝返りを打つ。

「……寂しい」

 今さらながら凄く悲しい過去を思い出して泣きたい気分になってしまった。情緒不安定かわたしは。悲しい過去というのは、まあ言いたくないから言わない。想像にお任せします。
不安定な感情を拭い取るように掛け布団に縋りついた。

「っ、……禊先輩……」

 思っていない名前を呟いた瞬間、突如窓が開け放たれた。ああ、言い忘れていました……わたしと鴎の家はマンションの一室で階は五階です。
え、泥棒?

『雀ちゃん大丈夫!?』
「え……禊、先輩……?」

 汗だくになった、禊先輩が律儀に靴を脱いで部屋に入ってきた。
え、待って待ってなにこれどういうこと? ツッコミどころたくさんありすぎて熱あがりそう。

『今朝から様子おかしいと思っていたけど』『風邪引いちゃった?』
「は、い…………ってどころから入ってきてるんですか。ここ五階ですよ」
『愛故だよ!』
「意味、わからなっ……くっ」
『? 雀ちゃ』『うわっ!?』

 言葉を紡ぐ前に、あふれ出しそうだった感情が爆発してしまいわたしは禊先輩に抱き付いた。
会いたかった触れたかった抱き締めたかった抱き締めてほしかった、怖かった一人が凄く不安だった消えてしまいそうだった。あんな短時間なのにわたしの心のモヤモヤは予想以上に大きかったようで、必死に嗚咽を我慢しながら禊先輩の学ランにはりつく。

『えーと……?』『雀ちゃん?』
「禊先輩っ、禊先輩っ……! 来てくれて有難うわたしに会いにきてくれて有難う。凄く嬉しいです不安で不安で堪らなかったんです思い出したくない過去を思い出して死にたかったんです泣きそうだったんです唐突に思い出して本当に怖かったんです鴎がいなくなった後だったから誰にも縋り付けなくてそんな時に禊先輩が現れてビックリしたけど嬉しかったんです。わたし大人だから我慢しようと思ったんですけど無理でした今すごく貴方に抱き締めて欲しいです」
『! ……そんな可愛いこと言わないでよ』『よしよし』

 わたしがガチ泣きだと悟った禊先輩は、優しく私の背中に腕を回して、もう片方の掌でわたしの頭を撫でる。
震える手でわたしは必死に禊先輩の学ランを握り締めて押す勢いで胸に顔を押し当てる。

「先輩、禊先輩っ……」
『ここにいるから』『僕がいるから大丈夫だよ』
「過負荷、なのにっ……」
『今は関係ないでしょ?』

 一理ある。溢れ出す涙を好きなだけ流して、必死に先輩に縋りつく。

「先輩、もう少しこのままでお願いします……!」
『僕は暇だから』『構わないよ』

 いつもとは違う禊先輩、弱っているときなんて好都合だと良いながら押し倒されるかと思ったら全然違った。
先輩の鼓動の音を聞いて、体温を感じてわたしは荒んだ感情を落ち着かせる。

「(好き、なのかも……いや、好きなんだ)」

 禊先輩のことが、わたしは大好きで大好きでたまらないんだ。
不安だった感情が一気になくなって、安心感がふつふつと湧き上がって我慢できなくて抱き付いた、そして抱き締めて欲しいという感情が溢れ出た。
好きです、大好きです先輩。

『雀ちゃん?』
「禊先輩、……」

 好き、と言おうとした瞬間に、わたしは熱のせいで限界が来たのかフッと意識を手放した。
次に起きたときに見たのは、正座している禊先輩と、鬼もとい般若の形相で禊先輩を叱り付けているイトコの姿があった。


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