メーデ!
「審判、今いいかな?」
コンコンと審判小僧の部屋の扉をノックする。
少しだけ肌寒くなってきた季節のためか、グレゴリーハウスの廊下は冷える。
「どうしたんだい? リヴ」
「シェフがね夕食もうすぐ出来るから食堂にこいだって」
はぁ、と審判小僧の口から白い吐息がこぼれる。
多分私もそうだと思う、うっすら冷えてきた腕を抱くようにして言うと、審判はこちらに気付いたのか。
「あれ、リヴ……そこ破れかけてるよ」
「え? あ、ほんとだ」
そこ、とは服の襟部分だった、どこかに引っ掛けたのか穴が開いている。
「あちゃー……縫い直さなきゃな」
「僕が縫ってあげるよ」
「え?」
審判小僧の発したセリフに、私は思わず目を丸くした。
目の前には「ん?」と言いながら首を傾げる審判小僧、私は疑問を彼にぶつけた。
「審判小僧って、裁縫出来るの?」
そう私が言うと、彼は目を丸くした後に苦笑して。
「やだなぁ、それくらいは出来るよ。こう見えて僕結構器用なんだよ?」
「そ、そうなんだ……」
「すぐ出来ると思うから、縫ってあげるよ」
「え? ちょっ……」
半ば強制的に私は審判小僧に引っ張られて部屋に入室した。
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「はぁ……器用だね」
「言っただろ? 親分に教わったんだ」
器用に針を布に通していく審判小僧、私は黒の丈が短いキャミソール一枚だけだったのを審判小僧が貸してくれたパーカーで暖を取っている。
すぐ食堂に行くから、ストーブはつけていない。
「……なんかごめんね」
「え? なんで?」
「いや、手間かけさせちゃって……」
「全然、気にしないで」
ニコッと笑みを浮かべる審判小僧。
私もつられて笑顔を浮かべる。
「……」
なんだろう、審判小僧がじぃっとパーカーを見つめてくる。
あれ、なんかついてるのかな?
ちょっとパーカーを手にとって見てみると、審判小僧はボソリと。
「興奮するね、……もちろんそういう意味で」
「……はい?」
「だって彼シャツならぬ彼パーカーだよ!? しかもパーカーの上でも分かる胸が強調されてるしなによりそのぶかぶかなパーカーが可愛さを出しているし中にはへそ出しキャミによってエロさが際立ってる! 半ズボンから覗く足を覆う縞々ソックスに丁度いい具合に覗いた絶対領域! はぁはぁヤバイかわいすぎる……!」
「はあ!?」
「はぁはぁ可愛いよリヴ、このまま襲っちゃってもいいかな!?」
縫い終わった服をポイと放り出して、じりじりと審判小僧は私に詰め寄ってくる、ていうか顔赤くして呼吸荒くなってる!?
「よ、寄るなバカ!」
「そんな服着て、誘ってたんだろ? 全く素直に言えばいいのに」
「んな訳あるかああああ! ちょっ、あっ……」
「あ」
手元においてあった雑誌に手を載せた瞬間、見事に滑って私はどさりと倒れた。
……ぎゃああああああ審判小僧が私の上に覆いかぶさってきたあああああ!
「やっぱり、誘ってたんだねリヴ」
「断じて違う! だれかあああああ!」
「しー、あまり大声出すと聞こえちゃうだろ?」
「何をする気だ何を! どけ! 変態!」
「何をって……ナニをだよ」
「いやああああ!」
「愛してるよ……リヴ」
「えっ……」
思わず審判小僧の放った言葉に動きを止める。
いやだって、え? 愛してる?
その瞬間、思わず顔に熱が篭ってくるのが分かる、いやここで照れるな自分!
「リヴ……」
「〜〜〜っ、やめい!」
「ごはっ!?」
渾身の力を振り絞って私は審判小僧の鳩尾を足を上手く曲げて蹴り上げた。
半吸血鬼の力をモロ受けた審判小僧は軽く吹っ飛んだ。
「お前何か嫌いだ! ばーかばーか! ばあああああああか!」
顔を真っ赤にして、肩から息をしながら私は審判小僧を罵りながら部屋を蹴り上げてそのまま逃げるように飛んでいった。
審判小僧から血が見えたけど私は気にしないぜ!
「ごふっ……! い、いい蹴りだったな……!」