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貴方が見つめる世界は
「リヴァルさん好きです」

 アタシが、食堂でのんびりコーヒーを飲んでいたリヴァルさんの背中から言葉を投げかけると、彼はゆっくり後ろを振り向いて困ったような、曖昧な笑顔を向ける。

「そりゃ嬉しいな。こんな可愛いお嬢さんに好きなんて言われるなんて」
「リヴァルさん。アタシは本気です」

 彼がこんな事を言われて、困るのはアタシが一番分かっていることなのに、あふれ出す想いが抑えきれない。
好きな人に困らせるようなことなんて言いたくないのに、だけど想いが口からこぼれる。
アタシは知っている、リヴァルさんには妻がいて、溺愛している娘がここにいる事も、結婚していることなんて知っているのに、アタシの想いは溢れ出て来る。

「リヴァルさんが、好きなんです」
「……」

 リヴァルさんはとても優しい、分け隔てなく誰にでも同じように接して、大好きな娘に何かあるとすぐに表情をコロコロ変えるところが子供っぽくて可愛いと思う。
そんな性格だからアタシは惹かれていった、引力に吸い付かれるように惹かれていった。
ボーイに言ってみたら、困ったような顔をして、「それがどういう意味か分かっているのか?」と投げかけられた。
分かってる、だってリヴァルさんは今でも奥さんのことだけを想っている、いつも左手の薬指にはめてある指輪を欠かさず磨いている、奥さんから貰ったと聞いたピアスもいつも肌身離さずつけている。
その愛情は、娘のリヴにも注がれている、愛しの愛娘と話している時の彼は絶対にアタシ達には向けない幸せそうな笑顔をしている。

「……お嬢さん」
「聞きたくないです。アタシ、本気でリヴァルさんに恋しています」

 最初そう言ったら、彼は笑って『ありがとね』なんて言って頭を撫でられただけだった、本気にしてもらえなかった、ショックだった。
だからいっぱいアピールしていたら、本気だと分かってもらえたけど、決して『俺も好きだよ』なんて言葉はもらえなかった。

「……お嬢さん、恋と憧れは違うんだよ? お嬢さんは俺に憧れているだけだ」
「違いますっ、アタシはそんな子供じゃありません。真剣に、リヴァルさんのことが好きなんです」
「……そうか」
「アタシは、一途に貴方を想っているんです。こんなの憧れなんかではないです。絶対に」

 重たいため息を零して、リヴァルさんはコーヒーカップを置くと、立ち上がってアタシの目の前に来る。
アタシは自然と彼を見上げる、リヴァルさんは困ったような、苦しそうな顔を浮かべる。

「お嬢さん、君が本気なら俺も本気で君に向き合わなきゃいけないね」
「……! それって」

 もしかして、と思った自分がいた。
アタシは純粋に彼がすきなのだ、大好きなのだ、やっと彼にも思いが届いたのかな?
……しかし、やっぱり現実は甘くなかった。

「俺は、これから先一生、恋愛対象として愛していきたいのは妻だけだ……そして大切にしたいと思っているのは娘だけなんだ……他の女性を愛する気持ちなんて一生ないと思う」
「っ……」
「俺が心から愛することが出来るのは妻だけだ、後にも先にも……人を愛する心なんて生まれたからずっとなかった、だけど妻を愛して、愛する娘が出来た。俺は生涯妻だけを愛して、娘を大切にしていくつもりだ。……だから、君の気持ちには残念だが答えることは出来ない」
「……」

 見たことがない真剣な表情で、リヴァルさんは淡々と言葉を発していく。
アタシは必死で唇を噛み締めて涙を堪える。
言葉を遮りたかったけど、彼が凄く真剣なのでアタシはただ言葉を呑みこむしかなかった。

「もう、奥さんはいないんですよ……?」

 言葉が震える、体が震える、唇が震える。
言ってはいけないことすら自制がきかないまま出てくる。

「妻はここにはいないけど、妻が残し、生きた証が俺の傍にいる」
「っ、おかしいですよ……リヴァルさんは」
「ああおかしいだろうな。何度も俺に寄ってきた女性はいたが、愛したいと思う気持ちなんてこれっぽっちもなかった」
「……」
「俺は愛した人がいなくなったその後、別の誰かを愛する余裕なんてないみたいだ』
「……」
「君が俺のことを好きでいてくれるのは凄く嬉しい。だけど、俺の心が君に振り向くことはないだろう」
「……そう、ですかっ……」

 ぽたぽたと涙が出てきた、凄く悲しい。
このまま消えてなくなりたかった、みんなの記憶からアタシの存在を消してほしいくらいだ。

「諦めてくれとは言わない、だけど、それだけは分かってほしい」
「……だけど、リヴァルさん」
「……なんだい?」
「気持ちが届かないのは分かりました。だけど、……貴方のことを好きでいていいですか?」

 あなたが見る世界にアタシがいなくてもいい、アタシが見る世界に貴方がいるだけでアタシは幸せだもの。

「……もちろんだとも、嬉しいよ」
「……リヴァルさんは、天然タラシですね」
「?」
「いえ、なんでもないです」

 貴方が見る世界は、いつも遠くて私には分からなかった。
どこを見ているのかすら分からない。
心の隅では分かっていたのかも知れない、決して届かないことなど。

「リヴァルさん。アタシお腹すきました」
「だったら、シェフに何か作ってもらうといい」
「リヴァルさんと甘いモノシェアしたいです」
「しぇあ?」

 きょとんとするリヴァルさん、なんだかそれが凄い可愛くて私は思わず口元を緩ませる。
若者の言葉が理解出来てないところがとっても可愛い、鼻血出そう。

「半分こって意味です」
「ああ、そうなのか。いいよ、俺でよければ」
「甘いモノは平気ですか?」
「ああ、苦手っていうほどではないよ。たまに食べたくなるよね」
「じゃあアタシ、シェフに言ってきます」

 パタパタと厨房付近へと走っていく、じわりと視界が歪んで私は黙って涙を流した。
リヴァルさんからアタシが見えない位置に移動して、アタシはただひたすら声を殺して泣き続けた。
貴方が見つめる世界は、アタシには一生みえることなんてないのでしょうか。
……こんなに苦しい想いをするなら、いっそのこと消えてなくなりたい。……なんて、ね。

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