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GHS
背伸びしただけで届くと分かっていたから
「タクシーさんタクシーさん」
「ん? どうしたんだいお嬢ちゃん」

 グレゴリーハウスの外に出て、私は迷わずにタクシーさんがいる場所へと向かう。
案の定近くに彼はいた、彼がいつも吸っているタバコのニオイで分かった。
自慢の黄色いタクシーの後部座席を開けたまま彼は後部座席の席に座っていた。

「会いにきましたよ」
「ん。ありがと」
「……どうしたんですか?」

 彼が嬉しそうにしているので、私は思わず彼に聞いた。

「いや、お嬢ちゃんみたいな可愛い子が来てくれるなんて嬉しいなぁって、ね」
「……タクシーさん、私のこと好きですか?」
「んー? 好きだよ」
「じゃあ、血を吸わせてください」
「じゃあってなにかなぁ?」
「愛故です」
「……ちょっとお兄さんには分からないなぁ」
「タクシーさん……。ん」
「はいはい。了解致しましたお嬢様」

 パッと私が両手を広げると、タクシーさんは笑顔を浮かべて私を抱き締めてくる。
タバコのニオイが私に纏わりつく、彼の匂いとタバコのニオイが、私の鼻腔を擽る。
急に不安な感情に駆られて、私は両腕をめいっぱいタクシーさんの背中に回す。

「今日は積極的だね、なにかあったかい?」
「不安なんです……遊ばれてるんじゃないかって、思うときがあって……」
「!」

 グレゴリーハウスに滞在して消えていったお客さんの中には、タクシーさんに惚れる女性客は少なくない、ていうかグレゴリーハウスの大半の男性陣はカッコイイから、惚れる人が多い。
私とタクシーさんが両思いってことを知ったお客さんの中には「遊ばれているだけだ」とか「子供のくせに」とか「まだ気付かないの?」とか陰口とか面と向かって言われることが多かった。
言われた後は凄く不安になってよく部屋で泣いていた、(そして次の日私を泣かせた女性客が消えていたのを知って私は少なからず恐怖を覚えた)。

「……」
「タクシーさん。……私、ちょっとのことくらいなら我慢出来ます、出来ることならなんでだってやります……だから、だからっ……!」

 “見捨てないで下さい”という単語を言おうとしたときに、タクシーさんに体を引っ張られた、背中に衝撃を感じつつ、衝動で瞑った目を開ければ、苦しそうな顔をしたタクシーさんが私を見下ろしていた。
背中に硬い布の感触、押し倒されたんだと直感的に判断する。

「お嬢ちゃん。大人の事情も分かってくれよ」
「っ!」

 それはどういう意味ですか? って言おうとしたときには、タクシーさんは貼り付けた笑顔を私に向けて言葉を続ける。

「お嬢ちゃん、どうしてそんなことをいきなり言い出すんだ? なにか言われたのか?」
「っ……。不安、なんですっ……だって、だってタクシーさんっ……ふぐっ……」
「えっ!? ちょっ……」

 声を紡ぐたびに鼻の奥がツーンとして来て、目じりに涙が浮かび上がって私の頬を伝っていく。
嗚咽をしながら私は両手で顔を覆い隠しながら言葉を続ける。

「名前、呼んでくれないからっ……、それになんか急に不安になってきてっ……急に寂しくなって、そしたらっ、前にお客さんに言われた言葉思い出して……うぅっ……」
「…………そうだったんだ」
「タクシーさん、抱き締めてくれるし、好きって言ってくれるけど……なんか不安で、たまに愛されていないんじゃないか? って思うときもあって……」
「……」
「タクシーさんは大人だから、……きっとこういうこと言い慣れてるだけだから調子に乗らないで。って言われちゃったときから、急に不安になりだして……わたし、わたしっ……〜っ」
「……そっか。ごめんね、不安にさせちゃって……」
「わ、わたしが子供なだけですっ……」

 壊れ物を扱うように私の体を起こして抱き締めて頭を撫でるタクシーさん。
私はぽろぽろ涙を流しながらタクシーさんにしがみ付く。

「……お嬢ちゃん……いや、リヴ。ごめんな、ほんとに辛い思いさせちゃっていて」
「タクシーさんは、悪くありません……」
「リヴは見た目よりも大人っぽすぎたから、平気だろうと思っていたのかも知れない。俺。……不安にさせててごめんな」
「タクシーさん、好きですっ……大好きですっ……」
「うん……俺は愛してるよ……誰よりも、お前のことが好きなんだ」
「っ……」
「はぁ……あんまり可愛いところを見せられると、手放せなくなる」
「?」
「なんでもない。……出来ればこのまま俺と一緒にいて欲しいけど、それは出来ないことだからなぁ……俺もホテルに滞在しようかなぁ」
「タクシーさんが?」
「そうだよ、日に日にリヴが好きという気持ちが大きくなってくると、ずっと傍にいて欲しいって思うから」
「独占欲強いですね……」
「大人はみんなそうだ、上辺では平気なフリしてるけど、心の中は独占欲の塊だ」
「タクシーさん、大人の事情も分かってくれよ。ってどういう意味ですか?」
「ん? あぁ……歳の離れた彼女がいると、色々からかわれて大変なんだよ、大人は。まあ別の意味でいうと、若い子の方が演技が上手いから遊ばれているんじゃないかって不安だったんだ」
「……タクシーさんが?」
「そう。リヴはあまり俺の目を見てくれないし大体好きっていうのも俺からだろう? だから本当は好きじゃないんじゃないかって不安でたまらなかった」
「……お互い様だったんですね……」
「そうだな、大人は若い子よりも心が不安定だから、ちょっとのことですぐ心配になったり不安になったりするんだ」
「……スミマセンでした……私、元々人と目を合わせて話するの苦手で……そ、それに好きな人だと絶対顔とか見れないからっ……」
「……まったく、敵わないな君には」
「いっ!」

 タクシーさんの顔が私の首もとに降りてきて、耳元で囁かれた後に首にチクリと痛みが生じた。
なんの痛みだろうと首を触ってみるけど、よく分からない。

「……?」
「いずれ君にも分かる時がくる」

 痛みが走った場所に触れて、タクシーさんは笑みを浮かべて言った。

「タクシーさん、意外と子供なのかも知れませんね」
「はは酷いなぁ。……リヴ」
「はい」
「あまり背伸びしなくてもいいんだ、俺はどんな君でも愛してるから」

 真剣な顔で言われて、私の顔は真っ赤になったのが分かる。
体全身が熱くなって反射的に俯いた。
余裕そうな笑みを浮かべる彼がちょっとイヤで、仕返ししたいという気持ちが溢れ出て来る。
一目ぼれに近かった、一番最初に血を吸って、別れてまた会って、話ていくうちに段々惹かれて行って、いつしか告白されて付き合うになった。
大人な彼だから、私なんて対象ではないだろう、と思っていたけど。だけど……たまに見え隠れする彼の子供っぽさで気付いた。

「タクシーさん」

 私は彼の首元に腕を回して抱き締めて、彼の名前を呟いた。

「ん? どうしたの?」
「あのね、私……最初は子供なんて見てもらえないだろうと思っていたけど、たまにタクシーさんが見せる子供っぽさで気付きました」
「だけど、歳の差ってものがあるだろう?」

 彼の言葉に対して、私はゆっくり首を降る。
そして自然と出た色気のある声色で囁いた。

「背伸びしただけで届くと分かったから、私は全然そんなの気にしませんでしたよ?」
「……お嬢ちゃんには適わないな……ほんとに」

そう嘆くように言って彼は、顔を真っ赤にして私を静かに押し倒した。

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