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GHS
真夜中の食堂で
 誰もが眠りにつき部屋から出歩いているモノは誰もいない時刻、深夜の十二時過ぎ頃に食堂にぼんやりと灯が灯っていた。

「……出来た……」

 テーブルの一席に座っていたシェフは、ペンをコトリと置いて体を椅子の背もたれに全て預けた。
シェフが書いていたのは料理の新レシピだった、様々な材料とイラストが描かれている。

「(あとは、これを作って寝る……)」

 時計を見て時刻を確認する。現在十二時三十分、材料は全て揃えてあるしそんなに時間がかかる料理でもない、どんなに遅くても一時半に寝られることは確かだった。

「(始める……)」

 そう心の中で呟いてシェフは席から立ち上がろうとしたとき、キィッと食堂の扉は開いた。

「……?」
「……あの、……シェフ?」
「……リヴ……」

 眠たそうに目を擦りながら、両足を軽く後ろにまげて、上半身を前のめりにした格好で浮きながらリヴは食堂の扉を開けた。

「……どうした?」
「いや、お腹すいて眠れなくて……何か夕飯余ってたらくれないかな?」
「……」

 シェフは暫く今日の夕飯のことを思い出した、確かにリヴはいなかった、というより貧血が酷い状態になってしまい昨日から寝たきり状態になっていたのだ、キャサリンが付きっ切りで審判小僧付きのもと(何でかって? キャサリンが欲望に負けて血を採血してしまうかも知れないからだ)で血を少しずつ注入していたのだ。

「……もう……体調はいいのか……?」
「うん。快調だよ!」
「そうか……」

 会話をしながら、シェフは夕食の残りがあったかを思い出す……案の定、今日の夕食の残りはなかった。

「リヴ、そこに座ってろ……」
「え? 何で?」
「今から作る、すぐに出来ると思うから待ってろ……」

 シェフは外していたエプロンを再び付け直しながらリヴに言った。
それを聞いたリヴは目を見開いた驚いた表情を見せると、慌てて。

「えぇっ!? いいよ、シェフももう寝るでしょ? 私、一日なら我慢出来るからいいよ!」
「お腹すいて……眠れないんだろ……?」
「ぁ……」
「……新料理のレシピ、作ろうと思ってた……夜食のついでに、味見しろ」
「……はい」

 シェフの言葉に流されるがままリヴは椅子に腰掛ける。
シェフは厨房へと入っていき新料理の調理を始める。



「出来た……」
「おぉ……美味しそう……」

 出されたのは魚料理だった、夜食用ということで少なめに盛り付けられている。

「……食え……」
「いただきます」

 ナイフとフォークを使って、リヴは魚を口に運ぶ。
暫く咀嚼して飲み込む、シェフの視線がリヴに痛いほど突き刺さる。

「…………どうだ」
「…………おいし…………! 凄い美味しい……これ……!」
「そうか……」

 シェフは分かる人にしかわからない笑顔を出した、リヴもそれに気づいたのかニッと笑みを浮かべる。

「……でもさ、シェフ。これみんなに出すんでしょ?」
「……ああ」

 リヴはちょっと考えるような素振りを見せて、遠慮がちに言葉を発した。

「だ、だったらさ……ちょっと味付けが濃すぎると思うなぁ……私とか大人組は平気だと思うけど、子供達はちょっと濃すぎると思う、よ……?」

 料理の材料にされるんじゃないか、とリヴはびくびくしながら言うと、シェフは眉間に皺を寄せながら料理を見詰める。

「…………」
「…………」

 数秒の沈黙の後、リヴは魚の身を切ると、フォークに突き刺してソッとシェフの口元に運んでいく。

「え……っと……あの、食べてみて……?」

 リヴがそう言うと、シェフは黙って口元に運ばれた魚を口に含んだ。

「……」
「(あ。死んだなコレ)」

 シェフの眉間の皺が更に深くなったのを見てしまったリヴは、いろんな意味で覚悟を決めた。だがそれは違っていた、シェフは水を口に含んだ後。

「……確かに、濃いかも知れない……」
「……ぁ、え?」
「子供には……濃い……かも知れない……」
「あ……うん……そっか……はい。……役に立ててよかったです」
「……今度は……味を薄める……」
「うん。味見手伝うからね」
「……ああ……」

##

「ごちそうさまでした」

 綺麗に食べられた料理を前にして、シェフも満足そうにしている。

「満足したか……?」
「うん、ありがとうシェフ」
「……」

 シェフが眠たそうにしていることをリヴは気づいた。シェフはこっくりこっくりと頭を揺らしつつ意識を飛ばさないようにしていた。

「片付け、してくる……」
「あ、シェフ私がやるよ! お皿洗うだけでしょ? シェフ少し寝てなよ」
「いい……お前はもう寝ろ」
「いやいや私は大丈夫だから! シェフ凄い眠そうだもん!」
「お前も……人の事言えない……」
「私は平気だよ」
「いいから…………ほら」
「あぅっ……」

 シェフが立ち上がろうとするリヴを押さえてまだ力ずくで座らせた。
リヴはムッとした表情をしつつもこれ以上言うとシェフにミンチにされそうなので何も言わずに彼の言葉に従った。

「(一時半……)」

 シェフは厨房に行きながら時計を見て、心の中で呟いた。

###

「…………!」

 手を拭きながら厨房を出てきたシェフは、驚きで目を見開いた。

「スー……スー……」

 自室へ行かずに、シェフを待っている途中で寝てしまったのか、突っ伏して寝息を立てているリヴがいた。

「……(ここで寝てしまったのか……)」

 シェフは呆然と寝息を立てているリヴを見つめる。

「……」

 シェフは濡れたエプロンを外してリヴの体を抱き上げようとするが、ふと時計が目に入った。

「……二時……」

 今からリヴの部屋に彼女を連れて行き、またここに戻るのは正直億劫だった。
仕込みもあるからもう寝ないと体が持ちそうになかった。

「……」

 シェフはどこからか掛け布団を出し、それをリヴにかけた。
シェフは自身も楽な格好をして、食堂の明かりを消す。

「……おやすみ。……リヴ」

 シェフは頭の明かりを頼りにリヴの隣に静かに座って彼女の頭を撫でて自身も眠りについた。

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