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GHS
恋い慕う相手の血は此の世で格別なものなんです
 薄暗い部屋の中に溶け込む黒髪は肩口で揃えられ、僅かに左に寄った前髪の奥は白い包帯で巻かれており目は見えない、けれどももう片方のめは鮮血のように真っ赤で、現世では見たことがない色は俺の中で深く印象を植え付ける。
 僅かに弧を描く赤い唇からは他の人たちとは違う鋭く鋭利な犬歯が覗き見て、その犬歯が僕の首の肉を裂きそこから流れる僕の血を味わうのだろう。

「ボーイ、良いの?」
「良いも何も、顔色悪いんだから飲まないと死んじゃうでしょ」

 座っている僕の上に跨り申し訳無さそうに歪な形を描いていた大きな眼は僕の一言で一気に爛々と輝きを見せた。リヴは吸血鬼の父親と人間の母親と持つ吸血鬼と人間の血を持つ女の子、半端な存在のせいか一ヶ月に数回血を取れば長らえる吸血鬼とは違い一週間のうち数回は血を採らないと倒れてしまう体質。だから彼女は良く誰かの血を貰っている、血は人によって味が違うらしく彼女の性質をこのホテルの連中も知っているので基本的に断る事はない。基本的と言うのは、ホテル内でも何人か知らない人がいるからだ。

「ありがと。……言ったっけ、このホテルの住人の中ではボーイの血が凄く美味しいの」
「そういえば、そんな事言ってたね。褒められてるのかな」
「褒めてるよ、吸血鬼一族にとっては凄く貴重だよ。いただきます」
「っ、」

 うっとりと細められた赤色の目は数回瞬きを繰り返して目を閉じると、口を大きく開き僕の首筋に噛み付いた。リヴの尖った犬歯が僕の首筋に刺さり、プッと皮膚が裂ける音が耳に響く。吸血鬼の吸血方法って何だっけ、ああ確か、一度犬歯で皮膚を裂き血を噴き出させ犬歯を抜いて舌で舐めるように味わったりそのまま吸ったりするんだっけ。噛んだまま吸血なんて出来ないもんな。吸啜音が響き、血を吸われる感覚が脳内を襲いこみ少しだけ目の前が霞む。

「んっ……」
「……美味しい、もう少しだけ」

 ああ駄目だ。身体が熱くてくらくらする。吸血鬼族は相手を誘惑するためにそれ相応の美貌を持っている、それはリヴも彼女の父親である純粋な吸血鬼の血が流れる吸血鬼族最後の末裔リヴァルも、男の僕から見ても目を見張るほどの美しさだ。仲間を増やすために吸血されている相手も痛さだけではなく、吸われる度に性的快感を伴うなんて前までは知らなかった。それはリヴも重々知っているが生きるために必要なことだ、と言っても普段は輸血パックで採血しているが生身の者から貰う血とは違うらしい、あー身体が、熱い。

「っ、リヴっ……」
「ん。有難う、もう大丈夫」

 熱が爆発しそうになって、彼女の肩に手を載せようとした瞬間にリヴは離れた。傷口を舐めて、少しだけ零れた口元の血を舌で拭うと僕の顔を見上げにこりと笑みを浮かべる、本当にタイミングが良いのか悪いのか。じくじく痛む首筋の傷は吸血鬼の唾液ですぐに塞がるらしいが彼女は半端な血筋のため傷が治るのは時間が掛かる。

「はああああ……もう色々ヤバイ」
「あれ、痛かった?」
「違う。つうかタイミング見計らってる?」
「……バレた?」

 ぺろりと舌を出ししたり顔で笑うリヴを見て思わずため息を零してしまった。思えば僕等は一応は恋人同士だ、勿論ある程度の段階は踏んでいるし最大の敵であるリヴァルからも一応了承は貰っている。毎回ホラーショーをやられそうになるけれど。
 魂集めも、リヴという大切な存在が出来てからは続ける気が無くなり僕はこれから先一生ホテルに永住する覚悟も決めている、それは現世からここに迷い込んだリヴも同じ気持ちで承知している。

「ほんと……リヴって意地悪だよね」
「今日はあまり体調が良くないから、ボーイも気持ちはあっても多分体力あまり無いと思うよ」
「否定出来ない。キャサリンの採血すら慣れないもんなー」
「でしょ? ボーイって血の気多そうに見えて意外とそうでもないもんね」
「あ、傷付いた。僕傷付いた」
「魂は渡さないよ」
「なんでそうなるの」

 魂集めはしないって言ってるのに。まあしないと言っても、取ろうと思えば取れるけれども彼女のホラーショーで一回死に掛けたからそれ以来はやっていない。まさか目元を覆う包帯と吸血行為を一気にされるなんて誰が思うだろうか。まあ彼女の父親はそれ以上におぞましいけれど、あ、やばい、思い出したらトラウマが。

「ボーイ?」
「ああごめん。なんでもない」
「もしかして吸いすぎて気分悪い?」
「平気だよ、大丈夫」

 不安げに僕を写す赤色を見つめ髪を撫でればふっと安堵のため息を零すリヴを見て思わず笑みを浮かべた。
 僕の血と唾液で湿った赤い唇に目が行き、思わず生唾を飲み込む。。

「……」

 思えばキスしたりする回数よりも、こうして僕がリヴに血を提供している回数の方が多い気がするのは毎回思うが僕はそれから目を逸らす。いや、そんなことしなくてもリヴが僕のことを好きなのは知っているし、気にすることなんて何一つ無い。うん。

「……リヴ」
「なに?」
「キスするから目瞑って」
「ふふっ、良いよ」

 恋人は僕が初めてらしいが、どこか大人びている。余裕綽々に見えて、実は結構余裕が無くて戸惑ってしまう可愛い一面も知っている。あー、やっぱり僕の彼女って凄い可愛い。
 恥ずかしそうに目を瞑ったリヴの頬に手を添えて、そのまま柔らかい唇に自分の唇を押し当てる、時間にしては数秒程度。彼女の唇に付いた僕の血の味が僕の口内にも入り込み少しだけ鉄臭いがそれよりもリヴから香る甘い香りの方が勝っている。顔を離してぺろりと自分の唇を舐めれば、仄かに舌に広がる自分の血の味。

「……鉄臭い」
「血が付いてたからかな?」
「毎回思うけど、よくこんなの飲めるよね……」
「あはは……人間にとっては不味く感じるかも知れないけど、私達吸血鬼の血を持つ者にとっては凄く美味しく感じるんだよ。人によって血の味も違うし、至高の一品に出会えばその血しか飲めなくなる人もいるくらいだし」
「リヴ、も?」
「ううん、私は特に拘りないよ。まあ半分人間の血も入ってるからそこまではいかない」
「へえ……」

 そうなる人は極少数だけどね、と付け足した彼女の言葉を頭に入れる。ほんと、吸血鬼って聞けば聞くほど奥が深い生き物だ。ニンニクとか十字架が苦手とか極ありふれた一般知識しか持っていなかった僕にとってリヴとリヴァルは凄く大きな存在だ、今まで知識として蓄えていた吸血鬼という概念を見事に覆すことばかりで、今でも全てを知れているわけではない。

「やっぱり、リヴは凄いね」
「なにそれ。私は凄くなんて無いよ」
「ううん凄いよ。どんどん好きになっていく」
「……有難う。私もボーイが好きだよ」

 はにかんだリヴの頬を撫でて、彼女の白い頬に唇を当てれば嬉しそうに身体を僕に摺り寄せる。
 ああ、もうっ、本当に可愛い。

「じゃあ、もう少しだけ血、貰っても良い?」
「え」
「ボーイの事大好きだから」
「え、え? 意味が分からないよリヴさん」
「知ってる? 好きになった人の血って、さっき言った至高の味よりももっと最上級で一度飲めば病み付きになるほど病的な味なんだよ?」
「そ、そうなの?」
「嘘」
「!?」
「いただきます」

 言葉を吐き出す前に、彼女の犬歯が僕の首元に刺さった。

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ボーイが審判っぽくなって困惑してます。
ボーイ可愛いよボーイ。

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