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GHS
薄暗い中に浮かぶ
「……」

 ふっと夜中に目が覚めた、特になにかの気配を感じるわけでもなく、本当に急に意識が覚醒した。

「(……シェフ)」

 ぼんやりとシェフのコック帽の火がちらちら揺れるため、部屋全体は少しだけ薄暗い。
顔をちらりとあげると、私を抱き締めて眠るシェフの顔が見えた。そうだ、今日はシェフの家に泊まりに来ていたんだ。

「(あったかい……)」

 シェフの太く逞しい腕に包まれている私は彼の胸板に擦り寄るように近付く。寝ているためか心音は安定していて、体温も熱かった。
仄かに香るシェフの血の匂いに一瞬理性が揺れ掛けたがそれは眠気によって掻き消される。

「……」
「(端正な顔してるよなぁ……)」

 ちらちら揺れる炎の光でうっすらと見えるシェフの顔を食い入るように見つめる。滅多に外に出ることないから肌は白いし、顔のパーツもはっきりしているのでカッコイイ。薄暗い部屋の中でも主張している金色の髪はさらりと少し動いたシェフの頬に落ちる。

「シェフ」

 ぽつりと名前を呟いて、彼の頬に流れ落ちた髪の毛を払う。しかしそれと同時に、私の身体は彼の方に引き寄せられさらに密着した状態になった。いきなり引き寄せられ反射的に頭は後ろに引いた。そして私の胸は彼の胸下あたりに押し付けられる、うわ心音聞こえなければ良いけど。

「……リヴ」
「あれ……起きちゃった?」

 うっすらと私と同じ赤色の目を覗かせて、眠たげな声で私の名前をシェフは呟いた。未だに身体は密着状態だ。

「いや……眠れなかったら起きてた……」
「……てことは私が擦り寄ってきたの知ってた?」
「……ああ」

 かっと身体全体が熱くなるのが分かった。凄い恥ずかしいことをしていたんだな、と今さらながら痛感する。

「リヴ……眠れないのか?」
「ううん、さっきふっと目が覚めただけ」

 今は少しだけ眠気が覚めてしまったけれど。そう付け足すとシェフは黙って私の髪の毛を空いた手で梳き始める。
その手つきが優しくてさっきまで覚め始めていた眠気がまた再び襲ってきて私の意識は朦朧とし始めた。

「疲れてるだろ……寝ろ」
「ん……や、シェフ明日も早いでしょ? 私が頭撫でてあげる」
「っ……!」

 もう少しで眠れそうだったけれど、私は明日何時に起きても構わない、けれどシェフは朝の仕込があるから起きる時間も早いはずだ。
私なんかを寝かしつけていたらいつまでも彼は眠れないはずだ、私はシェフの大きな手をやんわりどけて身体を少しだけ上にズラす。

「ほら眠れそう?」
「……
「わ」

 シェフのさらさらの金髪を撫でていると、急にシェフは腕を私の腰に巻きつけて胸に顔を埋めた。
いきなりの出来事に困惑していると、シェフは低い声で言葉を零した。

「……こうすると、落ち着くんだ……良いか?」

 子供みたいに擦り寄ってくる彼が可愛らしくて、その大きな身体とは似ても似つかないから思わず笑みが零れそうになる。

「大丈夫だよ、おやすみ」
「……ああ……」

 普段は撫でてもらっている立場だけど、こうして撫でる立場も悪いものではないなぁ、なんて考えながら私はシェフの頭を撫でたり背中をぽんぽん叩いたりする。
母性本能ってこういうのだろうか、なんだかとても穏やかでシェフがより一層愛おしく感じる。

「(良い夢を、見ますように)」

 少し身体を離して、穏やかな寝息を立て始めたシェフの寝顔を見つめる。
私はシェフの頭を抱え込むように包み、薄暗い意識の中に溶け込むのを待った。

そして、次の日。

「んー……、あれ、シェフ!?」
「仕込行きたい……けど、動けな〜い……」
「……? うわ火消えてる!」

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