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GHS
ひと時の楽園は一瞬にして崩れ落ちた
「疲れた……死ぬ……」

 訓練を終えたので、僕は鉄球に寄りかかり部屋に戻ろうとしてた。

「とにかく眠い……はやく寝たい……」

 朦朧とする意識の中鉄球を走らせていると、目の前に謎の人影が現れた。

「うわっ!?」
「っ!?」

 結構なスピードが出ていたから僕は慌てて鉄球を止めた、がったんと鉄球が揺れ体が傾いたが何とか相手にぶつからずに済んだ。

「だ、大丈夫か……い?」

 思わず声が裏返ってしまった、いやだって、……僕の目に映ったのは。

「あ、ごめん審判……ボーっとしてた」

 吸血鬼と人間の間に生まれた半吸血鬼のリヴだった。
赤い双眸に中途半端な長さの犬歯、それ以外はほとんどボーイやガールと変わらない人間の姿だ。
だけど吸血、浮遊、その他色々出来るらしい。
って違う、今はそんな状況じゃない。だって明らかにいつも見ている彼女と全然違う、というか違和感がある。

「リヴ……だよね?」
「う、ん……さっきグレゴリーにも驚かされたよ」
「なんか、すごい新鮮……」

 そっと彼女の両頬に触れる、少しだけひんやりとしている。
彼女の容姿は、大きく変わっていて赤い目は普通の人間と同じ黒になっており歯もない、包帯も取れて両目に光が宿っている。

「ミイラパパの薬飲んだ瞬間これだよ……容姿が完全に人間になってるし、能力全部使えない」
「ああ、だから靴を履いているのか」

 基本浮遊で移動するリヴは靴を履いていないけど、さっきぶつかりそうになった時も歩いていたし珍しく靴も履いてあるのは新鮮すぎる。

「力が全然出ないし、輸血パック飲んだら不味すぎて吐いちゃったし」
「リヴァルは?」
「さっき会ったよ、凄い吃驚してた。元に戻る方法をキャサリンとかに聞いてるよ」
「そっか、大変だね」
「すごい変な感じ、人といても血の匂いを全然感じないし浮遊できないから歩くの大変」

 困ったように小首を傾げるリヴが凄い可愛くて思わず抱き寄せる。
……うん、抱き心地は全然普段と変わりない。

「抱き心地は普段と全然変わりないね。……他になんか変化とかある?」
「いや、特に……あの、離して」
「いーやだ。最近訓練ばっかりで疲れてたからさー……あー落ち着く」

 小柄なリヴの肩口に顔を寄せてさらに腕の力を強める。
たまに体とか触ると問答無用で殴られるから最近は自重してるけど。

「(……やばい、興奮してきた)」
「あの、審判……?」

 あまりにも久々の感触にちょっと理性が揺れ動いてきた。
……うん、まあ一発殴られるか蹴られるかだから良いや。

「リヴー……」
「え、あ……っ!?」

 片方の腕でリヴの体を抑え付けるとあいた手でそっとリヴの体を指先でなぞるとピクリと彼女は体を震わせる。

「ちょっ……! やめっ……!」
「いやだ。イヤなら反撃すればいいじゃん」

 彼女の声を無視して理性に身を委ねているけど、なにかが可笑しい。

「(反撃してこない?)」

 いつもならここら辺で鉄拳制裁喰らっていたのに今日のリヴは一切の抵抗をしてこない。
何か毎回まいかいやられてるから逆に仕掛けてこないとこっちが何か調子狂うんだけど。

「……リヴ、どうしたの?」
「え、な、なにが?」
「いつもなら殴ったりしてくるじゃん……今日大人しくない?」

 僕がそう言葉を告げるたびに、リヴは表情をどんどん難しそうに歪めていく。
そういえばさっき僕の手を掴んでいたけど全然痛くなかったし。
……あれ、そういえば今のリヴって普通の人間なんだよね? てことは。

「もしかして、力でないの?」
「う、うん……全然でない」

 俯きながらリヴは言葉を落としていった、なるほど今はただの人間の女の子だから力も人間並みなわけか。

「さっき腕掴んだでしょ? あれ全力だったんだけど……これどう?」

 そう言いながらリヴは僕の腕を掴んで思い切り力を込める、……まあ多少は痛いけどそこまで悶絶するほどではない、普段なら多分骨折れる、悶絶もん。

「全然痛くない、え、これ全力?」
「うん……思ったように力でないよー……」

 困ったように項垂れるリヴ、なるほど今は非力、ということは抵抗してこられても今ならやりたい放題か。

「僕の部屋行こうか」
「なんで!? あ、ちょっ!」

 じたばた暴れるリヴを僕は抱えるとそのまま僕の部屋へと一直線していく。
うん、なんか騒いでるし抓られたり叩かれたりしてるけどあまり痛くないから気にしない。

「し、審判! 怒るよ!?」
「ごめん、男は本能のままに生きる生き物だから」
「意味わからん! 誰かあああああああああ!」

 リヴがそう叫んだと同時に僕は部屋の扉を思い切り閉めた、うん大丈夫誰にも聞こえてないはず。
顔を真っ赤にしている彼女をベッドの上に座らせる。

「ね? 良いでしょ?」

 彼女の上に覆いかぶさると同時に押し倒すと、リヴは未だに眉間を皺を寄せている。

「ちょ、本当にダメだから! 落ち着いて? ね?」
「だから無理だってー……ね? お願いだよ」
「ああもう、やめっ……ん!?」

 必死で僕の体を押すリヴの腕を片手で抑えると僕は彼女の首もとに顔を埋める。

「んー……」
「っ、やめっ……!」
「え……?」

 いきなりリヴの体が熱くなった同時に、何か変な違和感を覚えた。思わず体を起き上がらせると彼女は明らかに怒っているようだ。……あれ、心無しか、リヴの目が赤くなって牙も若干見えるような……あれぇ? これってもしかして死亡フラグ?

「審判のバカアアアアアアアア!」
「(あ。死んだな)」

 悲鳴を出す前に、僕の意識は一瞬の痛みと共に途切れた。

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