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GHS
不思議な彼女
「リヴ」
「……?」

 僕と最近付き合い始めた彼女のリヴは放課後、リヴァル先生に頼まれた夏休みの宿題のプリントを纏めていた。
僕が彼女に声をかけると、リヴはさっき自販機で買って来たジュースのストローに口をつけながら、目線だけをあげて僕の方を見詰めた(断じてそのストローに口をつけたいとか思ってない)。
ビー玉みたいな大きな左目が僕を映しだす。

「プリント、終わった?」
「ん、終わった」
「じゃあ貸して」
「はい」

 相変わらずストローに口をつけままの彼女。
無表情でプリントを渡す彼女は可愛らしい。

「よし、じゃあ届けに行こうか」
「あ、いいよ大丈夫! 今日は家に帰るから」

 どういう意味かと言うと、彼女は一応寮生であるがたまにリヴァル先生のいる家に帰って泊まることがある。
一応二人は親子だからな、家族の交流も必要なのだろう。

「そっか、じゃあお願い」
「りょーかい」

 プリントを鞄に入れる彼女。
もうお別れか……なんだか寂しいなあ。

「リヴ」
「どうしたの?」

 長い黒髪を掻き分けて、リヴはやわらかく微笑む。夕日に照らされて少しだけ頬が赤いように見える……やばい、凄く綺麗だし可愛いし……顔を直視出来ない。
ていうか吸血鬼一族って相手の血を吸うために生きているから、その相手を誘惑するために元々美形揃いって聞いた事がある。リヴァル先生だって、男の僕達から見ても凄い美形だと思うし女子生徒もとい女性の先生の人気が絶大だし……。
その血を引くリヴだって凄い美人で可愛い。ファンクラブがあるほどだ。
うーん……吸血鬼一族って色々得だよなあ……。

「……ん? 審判どうしたの?」
「い、いや……えっと……リア充ってどう思う?」
「ん?」

 なに言ってんだ僕は!?意味がわからないよね!? だってリヴすっごいポカンとした顔してるもん!
いや実際会話の内容思い浮かばなくて困っていたけど、なに言ってるの僕!?

「い、いや! ほら僕達付き合い始めたじゃん!? それを一応友人のボーイとかシェフに話しておいたら「リア充爆発しろ」って言われたからさ! 君はどう思ってるのかなーって思って! ね!?」
「ん、うん……?」

 凄い、ポカンとした表情になってる……可愛い……!
ダメだ、ここは平常心を保て。

「で……リヴは、どう思ってる?」

 顔がまともに見れなくて、僕が俯いて言葉を放つと、リヴは声色からして恐らく笑顔なのだろう明るめの口調だ。

「……死ねば、良いと思うよ?」
「…………へ?」

 予想外の言葉を言い放った彼女に思わず情けない声を出しながら思わず顔をあげる。
予想通り、彼女はとっても素敵な笑顔を向けている。
なんてこったい、僕達は死ねばいいのかい?

「一応、僕等もリア充なんだけど……?」

 そう言葉を紡ぐと、彼女はまた髪を掻き分けながら僕の顔を覗きこむ。
赤色の瞳と僕の瞳がぶつかる。彼女の吐息が少しだけかかってくる、彼女はさっきと全然変わらない声色で言葉を放った。

「じゃあ、リア充代表として死のっか?」
「ぅん?」

 よく分からない、否分からなくなって来た。
少しだけ混乱した頭で必死に彼女の言葉を理解しようと頑張ってみる。
だけど、やっぱり彼女の考えていることは理解出来ない。思えば元々リヴって少しだけ不思議な感性を持っているからなぁ……。

「えっと……?」
「ふふ、審判」
「はい」
「幸せ?」
「もちろん、すっごい幸せだよ?」
「なら、いいや」
「えー……? ……っうわ!?」

 よく分からないなぁ……そこが彼女の魅力の一つなんだけどね、なんて考えていると、いきなり目線の少し下が真っ黒に変わった。
それと同時に首筋に痛みが生じる。

「(あぁ……吸われてる……)」

 理解した、僕は今現在吸血鬼一族の血を半分引く彼女に血を吸われていますね、ええ。
血の気が多いから特に問題はない、半吸血鬼の彼女は普通の吸血鬼よりも血を半分摂取すれば問題ないから別に構わないけどさ……。うん……。

「っ……!」

 別に血を吸われるのは構わないさ、だけどさ……うん……だけどさ、だけどね?

「(ちょっと……ヤバいかも……)」

 息が少しだけ荒くなってくる、血を吸われるときって微妙にさ……あれなんだよね、理性がちょっとグラついてくるんだよ……それを彼女も理解しているから人前ではあまり血を吸わないけどさ、……よくよく考えればリヴってたまに他の人からも血を貰ってんだよね……ああダメだ余計なことを考えるな。

「リ、リヴ……!」
「ん……ごちそうさま」

 理性の糸がほつれかけてきた瞬間に、彼女の顔が、身体が離れていく。
口元についた血を舐める仕草が少しだけ怖かった。

「傷口、数時間もすれば塞がるから」
「う、うん、それは知ってるよ」
「ごめんね、本物の吸血鬼は唾液を傷口につけると塞がるんだけどね……」

 リヴが申し訳なさそうに眉を潜める、僕は笑顔で「大丈夫だよ」とだけ言っておく。

「やっぱり、審判の血が一番美味しい」
「……あ、ありがとう」
「審判」
「?」
「好きだよ」

 鞄を持った彼女が、笑顔で言い放った言葉に目を見開きつつも、僕も笑顔で言葉を返す。

「うん、僕も好きだよ?」
「じゃあ、帰ろうか」

 まとめていた荷物を持って、リヴは僕の手を引いて教室を後にする。

「(まあ……いいか)」

 それは多分、僕が一生分かることのない彼女の感性だ。

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