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GHS
君がいるだけで
「審判小僧?」
「……」

 廊下を歩いていたら、いきなり何者かに腕を引っ張られて抱き締められて今の状況に陥る。
見慣れた派手な色のボーダーが目に入ったので誰だかはすぐに判断出来た。
私は声をかけても彼は黙ったまま私の体に絡めた腕を強くするだけだ。

「……」
「……」

 どうしたのだろう、今日は様子がおかしい。
いつもならしつこいくらい話しかけて来るのに今日は抱き締めたまま、ずっと黙っているばかりだ。

「……リヴ」
「はい」
「……あったかい」
「……そりゃまあ、人間? ですから」
「うん」
「……(良い匂い)」

 ふんわりと審判小僧から香るいい匂い、一応言っておくが血の匂いである。私はそんな変態ではない。
まあ、ボーイやガールに劣るけど。

「…………」
「……どうしたの? ゴールドにいっぱいしばかれたの?」
「違う、よ」
「ファーストとか、セカンドに何か言われたの?」
「違う」
「……ジェームスに悪戯されたの?」
「ううん」

 言葉を投げかけても、彼は辛そうに声を発するだけだった。
コテン、と彼は私の首元に頭をもたれかけさせてぽつぽつと、独り言のように言葉を発していく。

「……夢を見たんだ」
「……夢?」
「うん……」
「……どんな、夢なの?」

 ギュッと絡められた腕が心なしか震えているような気がする、何が彼を怯えさせているのだろうか。

「リヴが消えちゃう夢」
「……私?」
「ジャッジをしていたんだ、夢の中の僕は」
「うん……」
「内容は忘れた、だけど僕が出した真実で傷付いたリヴは、泣きながらグレゴリーハウスを出て行ったんだ」
「……」
「怖かった、ただ素直に僕は君が泣いたことに恐怖を感じたんだ」

 震える腕にそっと自分の手を添える。
そんなことだけで恐怖に打ちひしがれている彼が愛おしくて、私は黙って彼の紡ぎ続ける言葉に身を委ねる。

「ねえリヴ。僕は傍観者だから他人に深く干渉出来ないし、真実を伝えることしか出来ない。……その真実で誰かを、君を深くふかく傷つけてしまうことがあるんだ」
「うん」
「怖い、ただそう感じるんだ。真実を伝えることで絶望に落とされたような顔をした君が、黙って俯いて唇を噛み締めて泣いて去っていく君が凄く切なくて、君を失ってしまったという恐怖心が僕の中であふれ出したんだ」

 傍観者だから、他人に深く干渉出来ない。そう伝える彼の声はとても切なく感じた。
私は何を言えばいいのか分からない、彼の恐怖心をなくすために埋めなければいけないパーツとは何なのだろう、否、誰なのだろう。

「私は、いるよ」

 私が静かにそう答えると、彼は驚いたように、静かに声を発する。

「……え?」
「どんなに絶望的な真実を告げられようと、私はずっと審判小僧の傍にいて貴方を支える、支えたい」
「リヴ……」
「ねえ審判。私がいるだけで貴方が安心してくれるなら、私は喜んで貴方に身を捧げるよ? だからさ、」

 泣かないで、愛おしい人。
彼の腕をゆっくり離して向き合うと、既に彼の目は涙で揺れ始めている。
ゆっくりと彼の両頬に触れて、彼と目線を合わせるべく体を浮かせる。
額をくっつけてゆっくりと目を閉じる。

「貴方が悲しいと私も悲しくなるよ。……だから、悲しいこと辛いことがあったらすぐ私に言って。解決することは出来ないかも知れない、だけど一緒に気持ちを共有することだけは出来るから」
「……っ、リヴ……」
「傍にいるよ、例え別れる日が来ようと。私は必ずまた、貴方に会いに行く。……絶対に」

 目を開けて、笑いかけると、彼は静かに涙を流して縋るように私を抱き締める。
私もゆっくりと彼の背中に腕を回す。

「リヴ……ありがとう。その言葉一つひとつで、僕は救われた……いや、君がいるだけで僕は救われるんだ」
「……うん」

 必要としてくれる人がいる。
それだけで嬉しかった、ううん違う。
貴方が私を必要としてくれる事が嬉しいんだ。

「……傍にいるよ
「……うん。君を無意識に傷つけるのが怖いんだ」
「……そんなの、生きているうちには必ずあるんだから」
「……」
「だけど審判、これだけは聞いて」

 背中に回していた手に力を込める。

「私は何があっても、貴方の元からはいなくならない。……違う、私がそんなの耐えられない」

 貴方がいるだけで、私も同じように救われるんだよ。
貴方がいない世界なんて考えられないし考えたくもない、失うのが凄く怖い。

「……ありがとう」
「こっちこそ……」

 抱き締めたまま静かに笑いあう。
それだけで心が落ち着く、安らぐんだ。

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