こうなった過程は全て忘れてしまった、そういえば嘘になる。
こうなった過程なんてどうでもいいので忘れてしまった、そう、この表現は一番しっくりとくるだろう。
そう思いながらグリーンは首筋に埋まる黒髪に指を通した。
しっとりと汗ばんだ身体のせいか、互いの肌は吸い付くように重なり合う。首筋から耳裏にかけて丹念に舌を這わすゴールドの少し荒くなった息遣いさえもグリーンにとっては甘く融けるように聴覚を犯す媚薬のようなものになっていた。

「んっ…はぁ…ゴー、ルド…」

遠くのほうでバタンと重たい鉄のドアが閉まる音がする。
その音にハッと我に返ったグリーンは慌てて抵抗をするように片手でゴールドの肩を押し、もう片方の手を宙に大きく仰がせた。空を切った手は勢いよくざらざらとした壁にぶつかり、グリーンの指を赤くする。ひりひりと痛む感覚にグリーンはより一層眉を顰めた。

先程まではこうなった過程なんてどうでもいいので忘れてしまった、などと思ったグリーンだが、こうなるとそうもいかない。ここは、グリーンの済むトキワマンションの玄関なのだ。いつ、誰に物音が聞かれても、最悪誰かが訪れてもおかしくはないのだ。
「待って」と静止の声をかけるが、勿論ゴールドは聞く耳を持たない。それどころか耳の裏に這わせていた舌を中に挿し入れ、耳朶や耳の穴にまで舐めてくるから堪ったものでない。小さく声を上げぶるぶると震えるグリーンは、出せる限りの力を出して、渾身の力でゴールドを押し返した。

「…何、するんすか?グリーン先輩」
「なっ、何、じゃねーよ!ここ何処だと思って…」
「グリーン先輩の家の玄関ですけど。それが何か?」

それだけぴしゃりと言い放ったゴールドにグリーンは口をぱくぱくと動かし、唖然とした表情を作るしかなかった。
何か?じゃないだろう。誰かに聞かれたらどうするんだ。そう言い返したいのは山々だったが、生憎今のグリーンにはそんな言葉を紡ぐ余裕もなかった。

「んっ…ふ、ぅ…はっ…」

唖然とし、ぱくぱくと開かれた口にするりと舌が挿し込まれる。生暖かいそれはグリーンの歯列を丁寧になぞり、上顎を擽り、舌の裏筋を舐め上げ、咥内を着実に犯していった。
ぞくぞくとした感覚が背中に走る。体内でこぽりこぽりと沸くような熱は、毎朝起動するコーヒーメーカーの音のようだ、などと脳の片隅で考えた。
咥内を犯され薄くなる酸素に徐々に頭がぼーっとしてくるのを感じる。上手く働かない頭でゴールドを見つめていると、不意に下腹部に強い刺激が走るのを感じた。

「あっ!あ、あ…っ」
「何だ、待ってなんて言ってるくせに」

興奮、してたんだ?
既に勃ち上がり苦しげにズボンの中で主張している自身を膝でぐいぐいと押し上げられながら、耳にダイレクトに吹き込まれた言葉は、グリーンを更に身体の底から興奮させるのには充分過ぎるものであった。




そんなのもどかしいだけ
(ここが何処とか関係ない)
(早く早く、先に進めて)





- ナノ -