GRN48 22.首輪

[注意!]
GRN48提出品のため鍵はかけていませんがR-18です。













瞼の上に落ちた白っぽい光が眩しくて薄っすらと瞳を開ければ、目の前に広がって見えた天井は昨夜と同じ、見慣れたものだった。
起きたばかりで回らない頭をゆっくりゆっくりと稼動させながらも昨晩の疲労感や身体に重たく圧し掛かるだるさからか、再び襲ってくる睡魔に素直に従う瞼は徐々に重くなってきたので、耐え切れずにごろりと寝返りをうって彼の匂いが微かに香るシーツに顔を埋めた。
胸いっぱいに彼を詰め込もうと目を閉じて大きく息を吸い込めばぐっと僅かに詰まる呼吸。気のせいか、少しだけ息苦しいと感じた。不審に思って苦しいと思った原因の首元へ手を恐る恐る伸ばせば、そこにいつもと違う少し重たい皮製の輪が付けられていた。

「……なんだよ…これ…」
「おはよう、グリーンさん」

ぼそりと呟いた言葉の返事は思いの外すぐに軽々と返ってきて、思わずビクリと肩を揺らしてしまった。
この部屋で声をかけてくる主はただ1人しかおらず、既に分かっているのだが、一応声のほうへ振り返ろうと再び逆方向へ寝返りをうつと、ベッドサイドに頬杖をついて、にこにこと柔らかい笑みを浮かべているトウヤと目が合う。
驚いている自分とは裏腹にどこか楽しそうな表情で、どうしたの?なんて軽く首を傾げる彼に、何だか拍子抜けしてしまいそうになった。

「お、おう、おはよ。…あの、これ、」
「あぁ、グリーンさん欲しいって言ってたでしょ、ネックレス。ほら、この前一緒に買い物行った時に」

自分は確かにネックレスが欲しいんだ、と口にした記憶がある。しかし、今どうしてこのような物で首を括られ、事後とはいえ多少は身につけていた衣服までも全て剥がれているという状態でベッドの上に寝ているのか、そしてそれをトウヤがじっと眺めているといった妙に異様な事態になっているのか分からず曖昧に頷けば、トウヤは嬉しそうに笑いながら「だから、プレゼント」なんて言った。
今の状況をなるべく冷静に考えるべく未だぼーっとする頭をフル回転させながら、上半身を起こす。胸元までかけられていたシーツが腰周辺までパサリと落ちた。
白と黒を基調とした部屋をぐるりとゆっくり見渡すと、何度も何度も訪れ見慣れたはずの室内が知らない部屋のように見える。見知らぬ場所へポツンと置かれたような孤独感、いつもは感じられない首元への重圧感、ベッドサイドから見上げる彼さえも誰か知らない赤の他人の様な、そんな錯覚さえも覚えた。
目の前がぼやけて見え、頭がくらくらし、軽い眩暈を起こした。一体、自分達の間に何が起こっているというのか。
寝起きでいきなり頭を回転させたせいか痛む頭を抱えていると、ギシリとベッドが重さに耐えられずに鳴いた。そのおかげでトウヤがベッドに乗り上げてきたということにやっと気付くも、次の瞬間には両手首をやんわりと掴み上げられ、そのままボスンとベッドに再び沈まされてしまった。
今日のトウヤはいまいち何を考えているのか理解しきれない。それは、彼が必要以上ににこにことした微笑を貼り付けているからかもしれない。

「…トウヤ?どうし、んっ…」

どうしたのか、そう問おうと開いた口はあっという間にトウヤの唇に塞がれてしまった。吸い込まれた言葉、奪われていく酸素、流れ込んでくる唾液。おまけにくちゅくちゅと厭らしい水音まで奏でてくるものだからフラッシュバックをするように昨夜の情事を思い出してしまい、一気に身体に熱が付くのが自分でも分かった。
しかし、頭の片隅にある不信感は消えるはずもなく、とにかく様子がおかしい彼のしっかりと着込まれた服の裾をぎゅっと握り、そのまま腕を伸ばして彼を押し返した。

「んっ、はっ…な、なんだよ。急に」
「……」
「なんで首輪なんか…」
「……グリーンさんが悪いんだよ」
「は?」
「もう黙って」
「どういう意…ん、あっ!」

反論する間も与えずに覆いかぶさったトウヤの少し眺めの前髪の間から覗く瞳は、冷酷なまでに見えてしまう冷めたような印象の中から垣間見える甘く優しいチョコレートブラウンの色は少しも見えなかった。代わりに見えたのは、あまりにも冷たく、それでいてひどく悲しそうな、汚れてしまった捨てられたモノのような荒んだ色だった。


身体中をくまなく愛撫され、耳から耳の裏、顎のライン、そして首筋へとねっとりと舌を這わされながら胸まで落ちていく。愛撫はすんなりと全身したくせに、舐めるとなると焦らすようにゆっくりとするものだから本当にたちが悪い。身体はすっかり火照ってしまっていた。
トウヤの舌がピンと勃ち上がってしまった胸の突起にようやく触れた時には情けないながらも「ひゃうっ!」なんて、まるで女のような声を出してしまい、顔から火が出そうだと思ったが、昨夜もその前も何回もこのような行為をしているので今更かとも思ってしまった。
胸を重点的に攻められ息を上げていると、とろんと落ちた瞼の隙間から見えたゆらゆらと揺れるトウヤが不意にニヤリと片方の口角を上げて笑っているのが見える。
胸から顔を上げ不敵に微笑んだトウヤの長い腕は、俺の腹部から下にかかっている白いシーツの波間へと伸び、ゆっくりとその細い指で掴まえる。そして、シーツをきゅっと握ると、バッと勢いよく後ろへ向かって引っ張った。

「……へぇー」

その行為によって眼下に晒されてしまう自らの自身。それは勃ち上がりとろとろと零れた先走りによって淫らに濡れていて、トウヤの冷めたような、でも非常に熱っぽい視線にまじまじと見つめられてビクビクと小刻みに震えた。それが、羞恥のせいか、それとも興奮しているせいかなんて考えなくても分かっていた。

「俺まだ下は全然触ってないよ?なのにもうこんなにしちゃったの?」

クスクスクス。トウヤの笑い声が室内に反響する。恥ずかしさのあまり口が小さく震えるように動くだけで何も言い返せない俺に満足したのか否か、トウヤは苦しい程までに勃ち上がった俺自身を指でピンッと弾いた。

「あぁっ、ん…っ!」
「イ・ン・ラ・ン」

首に付いた首輪の隙間を下から掬い上げるように人差し指を絡めて握り、ぐいっと彼の方へと引き寄せられながら耳元で甘く、妖艶に囁かれた言葉は、俺の身体の芯からかぁっと熱すぎるくらい熱い熱を沸き上げるのには十分すぎる程であった。
真っ赤に染まった耳から移動する唇。軽く口付けられながら下へと下りていった柔らかい唇は、首筋へと優しく触れられ、そして強めに噛み付いてきた。あまりの鋭い痛みに、はっはっと短い呼吸繰り返していた息が一瞬途切れる。

「っ、いっ…ぁ、はっ…!」

トウヤ歯が肌に突き刺さるような感覚に無意識にじわりと涙が目に浮かぶ。そんな痛みを伴ってまでも一向に治まらない熱と、勃ち上がった自身を見て、本当に自分は淫乱なのではないかという考えが頭を過ぎった。
そんなおぞましい自分が怖くなり、思わず目から溜まった涙がぽろりと零れ落ちてしまった。トウヤはその雫を舌で掬い取ってから瞼に軽く音を立てて口付けた。

「……逃げないの?」

頬を撫でられながら掠れた声で紡がれた言葉はひどく不安定で、彼の心の中の不安という要素をしっかりと覗かせるものであった。明らかに傷付いているようなその表情、トウヤのこんな顔は初めて見た気がした。

「首輪はすぐに外せるし、そもそも繋いだりしてないんだからいつだって逃げられるんだよ?」

視線を合わせないように逸らされた瞳。落とされた瞼の先には僅かに震える長い睫があった。
不意に頬に触れていた手が離れる。冷たい空気に触れた頬は、なんだか寂しかった。

「…逃げない」

最初から分かっていた。トウヤには何の悪気も、悪意もなかったなんて。そんなこと、身体に指先が触れた瞬間から分かりきっていたのだ。だって、その指先はあまりに温かかく、ひどく優しかったから。
ハッキリと伝えた言葉に、トウヤの瞳が開かれる。少し不満げに寄せられた眉間には皺が寄っていた。

「……逃げてよ、じゃないと俺、」
「逃げねぇよ」

だから、そんな泣きそうな顔をしないで。俺のせいで歪む顔なんて見たくないから。
いつもいつも自信たっぷりで、余裕綽々で、強い性格から少し冷たく見られてしまうところもあるかもしれないけど、根はとても優しくて。そんなお前の笑顔が大好きなのに。俺が笑顔にさせたいのに。ずっとその笑顔に寄り添っていたいのに。
そっと手を伸ばして先程トウヤがしてくれたように頬を優しく包み込んでこちらを向かせ、ぎゅっと抱き付きながら反対の頬に擦り寄る。密着した身体に感じる熱は何なのかということはお互い理解しているだろう。
ぱくりと口を開いてトウヤの唇を啄ばむように口付けてから舌を挿入させ味わうようにキスを楽しむ。
吸い込まれるように大きく開いた甘そうなチョコレートブラウンの綺麗な瞳は、ブランデーを入れたような大人の艶やかな光を帯びたような色をしていた。

「トウヤが好きだから逃げねーよ」




歪な愛さえも従順に従えて
(だからずっと繋いでて)
(その不器用な愛情表現で)





暫く舌でトウヤの口内の甘い味を楽しんでいると、突然トウヤの舌が動き、あっという間にこちらの舌を掴まえられ彼のペースで口内を犯されていく。
薄くなった酸素を取り込もうと口を開いたのとほぼ同時に勃ち上がった自身を触られ、待ちに待った快楽にいつになく甘ったるい声を上げてしまった。
昨夜の名残で慣れてしまっている蕾も早急に解され、いよいよトウヤ自身が中に入ってくる頃にはもう前も後ろも頭の中までもとろとろになってしまい、ただただ盛りのついた猫のように甘い声で鳴く事しか出来なくなっていた。
あぁ、そんな自分まで愛してくれるというのなら、いっそ首輪でも何でも付けて縛り付けてほしい、だなんて思った思考を伝えるようにその柔らかな唇に再び口付けてトウヤに酔い潰れていった。




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