オイラは今、自分が世界で一番幸せだって、言える自信がある。
少し前までは、こんな風には思えなかった。大好きなサソリの旦那との愛のないセックス。オイラは「玩具」なんだと、それでも旦那に触れてもらえてるんだ。もうそれだけでいいじゃないか。そんなことを思って、自分自身に言い聞かせ続けていた。
実際は旦那も、オイラがいつか離れていってしまうのではないかって、怖くて仕方がなかった。だからどうしても繋ぎ止めておきたくて、オイラを抱いたんだって。想いがすれ違う日々を送って半年。やっとお互いの想いを確認し合った時に、そう旦那が教えてくれた。
あの夏の昼下がりに交わしたキスは、今までで最高に満たされた時間だった。
*****
「ぁ、…ぅん、むぐ…!」
「こら。口を塞ぐんじゃねぇよ」
「だ、だって…っ、やぁん!」
ぺろりと、淡く可愛らしい突起を片方舐めてやれば、とたん甲高い声が上がる。そのまま舐め続けて、もう片方を指で転がす。押し寄せる快感に悶えながらも、それでも声を抑制しようとするのだから、こちらを余計に煽るばかり。
「お前のいいところは、どこだったかな?」
「…っ、わ、かってる…っくせに、ぅぁ…!」
「ん?ここか?」
「ちが、っ…ぁ、ぁ」
「それとも、ここだったか?」
「だん、な…っ、いじわる…しな、い…でぇ!…っ、ぅぁ!」
こいつは本当に、オレの理性を飛ばさせるのが上手い。情事の際の表情はまた別物だが、これに限らず、こいつが周りで振り撒く言葉や仕草は、無意識なのだから油断がならない。悩みの種でもある。
わざと敏感な部分を外していた中の指を、くっ、と折る。するとビクッとデイダラの身体が跳ね、腰が浮く。
以前は全く慣らすことはなく、オレの欲望のままに押し広げていたデイダラの蕾。この存在を繋ぎ止めておく為に、労りもしなかった身体。想いが通じ合った今では、少しの痛みも与えたくない。あまり前戯に時間をかけ過ぎると、最近は流石のデイダラも痺れを切らしてくる時がある。
だが、雄を挿れて欲しいって言う時の懇願の仕方が、また何とも言えねぇ程にオレをそそらせてくれる。だから最近はわざと焦らすことが多い。その時の顔次第で、オレは多分イケる。
「ふぁ、…ん、ぁ!」
「もっと、声出せよ」
「はぁ…ぁ…」
「聞きたい」
「ぁ、ぁ、…っ、あぁん!」
少しずつ腰を沈め、少しずつ動く。受ける側も男故に、どれだけ慣らしても最初はやはり違和感は否めない。それでもできうる限り、痛みのないようゆっくり。
慣れさえすれば、後は昇り詰めるだけ。突き上げるように、自らの雄を奥深くに。同時にデイダラの雄にも触れ、絶頂を促す。しばらくすると限界なのか、デイダラの中がオレの雄を締め付ける。少しでも気を緩めれば達してしまいそうなくらい、こいつの中は本当に最高の快楽を与えてくれる。
「っ、はぁ…デイダラ!」
「はぁん!ぁ、ぁ、ぁっ…!」
「愛してる」
「オイラも…ぁん!だ、なぁ!」
嗚呼、オレは今世界で一番幸せな男だと、自信を持って言える。
先に白濁を散らしたのはデイダラで、その快感でさらに収縮した中のものに締め付けられ、オレもデイダラの中にそのまま白濁を散らした。
その時だった。
バキッ、と。鈍い音がオレ達の耳に届いたのは。
*****
「まったく、何をやっているんだ。お前達は…」
「ごめんなさ〜い…」
「まあ、謝る必要はないが…」
銀杏の木が色付き始め、秋も深まり出した頃。オイラは大学の医務室で、イタチにお小言を喰らっていた。
「さあ、これでいいぞ」
「ありがとう、イタチ」
「痛みはどうだ?」
「平気!うん」
昨夜、旦那のベッドの脚が壊れた。達した瞬間、っていうのがバッドタイミング。ふたり揃って見事に傾いたベッドから転げ落ち、受け身を全く取れなかったオイラは利き手を捻るし、旦那は旦那で咄嗟に手は付いたものの、踏ん張り切れずに顔をしこたまフローリングに打ち付けていた。
オイラが捻った利き手は一晩でぷっくりと腫れ、旦那は病院に行けと心配してくれたけど、面倒くさかったオイラはとりあえず湿布を貼って包帯だけは巻いておいたけど、どんどん痛くなってきて、熱も持ってきたみたい。そうしたら、それを見たイタチに怒られて、怪我をした経緯を白状させられ、今のこの状況という訳だ。
イタチはオイラが適当に巻いた包帯を巻き直してくれて、その腕を首から布で支えるように保護してくれた。何とも大袈裟に見えて仕方ないけど、実際こっちの方が痛くない。さすがイタチ。
「今日はオレがお前を預かることになっているのは、知っているか?」
「うん。旦那が朝うるさいぐらい言ってたから…」
今日から旦那はセミナーの為に、家を二日程空けることになっていた。普段ならそれぐらい別に大したことじゃないんだけど、問題はオイラが今、利き腕を使えないこと、らしい。そこで心配性の旦那は、オイラを今日と明日、イタチに預けることにしたみたい。大丈夫だと言ったんだけど、旦那は断固として譲らなかった。
*****
「デイダラ?お前どうしたんだ、その怪我」
「ちょ、ちょっと転んで…あはは」
「転んだ?そんな腕を吊るぐらい派手な転び方したってのか?」
「……まあ…うん」
「どんぐせぇ」
「う、うるさーい!」
今日、明日とデイダラを預かってほしいと朝早くにサソリから連絡があった。ああ、サソリは今日からセミナーで地方へ出かけるんだったなと思い出し、その間デイダラを一人部屋に置いておくのは心配なのだろう。それに、夏休みに父の実家へデイダラを連れて行った時、母が大層喜んでいた。可愛い子だ、と。また連れて帰れば母も喜ぶだろう。そう思い、二つ返事で了承した。
しかし、大学のキャンパスでデイダラに会えば、右手にはとても綺麗だとは言えない巻き方で巻かれた包帯。加えてデイダラの顔は赤く熱っぽい。問答無用で医務室へ連れて行き、包帯を外せば見事に腫れた右手首。理由を聞けば、昨夜ベッドが壊れて落ちたらしい。しかも真っ最中に。馬鹿らしいことこの上ない。思わず溜め息が出た。
「サスケ、デイダラは調子が良くないんだ。あまり興奮させるな」
「…そんなに酷いのか?」
「大丈夫。さっきまで横になってたから」
「どれ…熱も大方引いたな」
「いつも迷惑かけてごめんね、イタチ…」
「迷惑だなんて思っていないから、そんな言い方は止せ」
「いたち…」
ああ、もう。そんな潤んだ瞳でオレを見上げるな。オレはお前のそんな表情を見ても甘やかしたくなるだけで、邪な感情は微塵も生まれたりはしないが、大抵の男はソレでそんな感情を抱くのだ。サソリもその一人。
まあ、サソリのことは置いておいたとして。そのような不埒な輩が、目を離した隙にお前をどうにかするのではないかと、毎日気が気じゃない。
そしてサソリがデイダラを無理に抱いた原因もソレだということに、この子は気付いてすらいないだろうな。
「デイダラ!」
「うん?何だい?サスケ」
「…ゲームやろうぜ」
「いいけど、オイラ片手…」
「Wiiなら片手でも、」
「サスケ、デイダラは調子が良くないと言ったろう?」
「熱下がったんだろ?」
「イタチ、大丈夫だぞ。サスケ!ゲームやろう!うん」
「何がしたい?好きなの選べよ」
「え〜っと…」
デイダラはオレの心配を余所に、サスケと遊び始めた。スポーツ系全般が収録されたものを選んだようで、テニスをしながら身体を動かし始めた。あれは間違いなく夜には振り返すな。
しかし、それよりも問題なのはサスケか。先程のあの態度はオレに対しての嫉妬なのか、それに今の楽しそうな顔といい、これは確実にデイダラに気があるな。
田舎でデイダラと遊んでいる時も珍しく表情に出す程楽しそうにしていたし、今朝も出かける前に「デイダラが泊りにくる」と言ったら、やたらと嬉しそうにしていた。これはどちらも他人にはわからない変化だが、兄のオレにはわかる。そして最近やけにサソリに突っ掛かっるようになったから、まさかとは思っていだが…
愚かなる弟よ。お前もデイダラに想いを抱く一人になってしまったか。
*****
『道理で…電話しても出ねぇ訳だ』
「すまなかったな、サソリ。もう少しきつく止めればよかった」
『気にするな。調子に乗ったデイダラの自業自得だ』
熱が下がったからと、サスケとスポーツゲームをやりつくしていたデイダラは案の定、夜になって熱を振り返した。今は宛てがった部屋で辛そうに床に着いている。
一日目の講義が終わって、デイダラに連絡をしたのはいいが、まだ寝る時間でもないというのに応答がないのは何故だと、サソリからオレの携帯に着信がきたのはつい先程。
経緯を話せば憤慨するだろうと思っていたのだが、予想に反してサソリの言葉は冷ややかだった。
「怒らないのか?オレはお前にデイダラを頼まれているのに…」
『話を聞いた分じゃ、お前に非ない。オレもそこまでデイダラを甘やかしてる訳じゃねぇしな』
「意外だな」
『どちらかと言えば、イタチ。お前の方がデイダラを甘やかしすぎだぜ?』
「ふ…自覚しているよ」
木陰からずっと、サソリを見ていた小さな子。ちらちらと覗くその姿は可愛らしく、微笑ましかった。一ヶ月、二ヶ月経っても一向に消えないそれに、痺れを切らしたサソリが声をかけたのが始まり。人懐っこく素直なデイダラは、すぐにオレにも懐き、サスケに対する弟への愛しさとは違った意味の想いを感じた。それが恋愛感情かと言われると、そうではない。
この子が幸せならそれだけで、オレも幸せになれる。
そんな存在。
「サスケ。氷枕を敷くから、少し場所を代わってくれるか?」
「あ、ああ…」
息苦しそうな呼吸を繰り返し眠るデイダラの頭を持ち上げ、用意した氷枕を敷いてやる。消えそうな程の小さな声で、譫言のようにサソリを呼んでいる。汗で額にへばり付いた金糸を梳いてやると、ふっ、と目を覚まし、うつろな瞳でこちらを見た。
「…ごめんなさい。いうこと、きかなくて…」
「そうだな」
「おいら、いつも…いたちにめんどうばっかり…」
「オレはお前の面倒がみられて嬉しいよ」
そう言って頭を撫でると、デイダラは笑みを浮かべて、また瞼を閉じた。
「あと一日だけ辛抱しよう。そうしたら、サソリも帰ってくるからな」
「……ありがとう、いたち」
その言葉を最後に、先程とは打って変わって穏やかな寝息が聞こえてくる。氷枕が効いているのか、具合も幾分ましになったようだ。
それから一晩、自分が無理に誘って運動させたせいだと責任を感じたサスケと一緒に、デイダラに付き添い夜を明かした。朝になれば熱もすっかり引いて、いつもの元気なデイダラに戻っていた。けれど同じ鉄を踏む訳にはいかない。今度は安静にさせた。
そして一日が経ち、翌日、やっとサソリが帰ってきた。
「旦那!おかえりなさい!」
「おう。ただいま。具合はもういいのか?」
「うん!右手も痛くなくなったぞ!」
「そりゃ良かった」
「旦那、さみしかったぞ…うん」
「今夜はたっぷり可愛がってやるよ。新しいベットも買ったしな」
「玄関でいちゃつくんじゃねぇよ。鬱陶しい」
「うらやましいのか?サスケ」
「だ、誰が!」
出迎えそのままに、玄関口で甘い雰囲気を隠そうともせずいちゃつき始める二人。それにサスケは不機嫌に突っ掛かる。勘のいいサソリのことだ。サスケがデイダラに好意を寄せていることにはもう気付いているだろう。それでも以前とは違って余裕の表情。普段から、デイダラとはきちんとコミュニケーションをとっているようだな。
「イタチ、世話をかけたな」
「いや、こんな可愛い子どもの世話ならいつでも大歓迎だ」
「オイラ子どもじゃないぞ!うん!」
「頬を膨らませて怒っている内は、まだまだ子どもだよ」
感情豊かに色々な表情を見せ、明るく元気なデイダラ。いつまでも子どものようで、ずっとこのままなのだろうかと思う反面、ずっとこのままでいてほしいとも思う。それはきっと、この子を知る誰もが願っていることなんだろうな。
やっぱりみんなが大好き!
(いつかあんたからデイダラを奪ってやる!)
(上等だ。やってみろクソガキ)