手塩にかけて育てた娘を、どこぞの馬の骨に持っていかれる。
娘を嫁に出す父親の気持ちを理解する日が、まさかこのオレに来ようとはな…

最近、デイダラの様子がおかしい。いつもなら「旦那、旦那」とオレの後ろをちょこまかと、どこへ行くにもまるで金魚の糞のように付いくるというのに。


「イタチ、イタチ!」
「何だ?デイダラ」
「あのな…」
「…ああ、構わないぞ」
「大丈夫かな?うん?」
「任せておけ。」
「やったぁ!ありがと、イタチ!」

何故かここ何日かで、イタチと一緒のところをよく見かけるようになった。何やらこそこそと話しをしていることが多く、オレが声をかけると、イタチはともかくデイダラは挙動不審に会話を中断させる。何を隠しているのか…
まさかとは思うがデイダラの奴、イタチに惚れたとか言い出すんじゃねぇだろうな!?いや、まさかな。あいつに限ってそんなことはないか。何たって、オレにべったりなんだからな。


「だーんな!遊んでおくれ」
「一人で粘土遊びでもしてろ」
「むぅ…」
「……散歩でも行くか?」
「行く!うん!」


思えば。大蛇丸が暁を抜けて、リーダーからデイダラを任された時は、正直嫌で嫌で堪らなかったな。元来、オレはガキが大嫌いだったし。すぐにでも殺してやろうと思っていた。どうせ任務で足手まといになることは、実際に見なくてもわかることだ。理由なんて「目障りだった」それだけで充分。

の、はずだったんだが。


尾を振る犬っころのように懐いてくるデイダラを、オレは思いの他邪険にできず。生意気なところは多々あるが、基本素直で無邪気で、むしろ可愛いじゃねぇか、と思ってしまったのが最後。


「ひっく、うぇ…だんなぁ…」
「デイダラ?まだ起きていたのか?こんな夜中にどうした?」
「怖い、夢見た…うん」
「…で?」
「一緒に、お願いだよ。ひっく、怖くて眠れない」
「仕方ねぇな。今日だけだぜ」


そう言って、自らの懐へ入れるのはこれで何度目だろう。いつまでも甘えたで。本当に手のかかる。まあ、甘やかす側にも問題はあるがな。
こいつとコンビを組んで、もう何年目なるか。まだまだ小さいが、あの頃よりは大きくなった。オレの可愛い子ども。
一生どこにも嫁にはやらん。


「ね?サソリの旦那」
「何だ?」
「オイラが寝るまででいいから。手、握ってて?」
「寝るまででいいのか?」
「……ずっと…うん」


無自覚ってのは、一番厄介だよな。実際のところ、嫁に出す出さないの問題ではない。むしろオレがもらいたいぐらいなのだ。オレの胸に顔を埋め、すやすやと安心しきって眠る姿に、何度理性がぶっ飛びそうになったことか。今ではそれなりに耐性がついたが、最初の頃など一睡もできなかったものだ。できることなら、今すぐにでも襲いたい。が、さすがに無理強いはしたくねぇし、何よりまだ10を過ぎたばかりの子どもだ。そういったことは、やはりもう少し大人になってからとも思う。それに、オレも別の意味で犯罪者になりたくはないしな。道徳的な意味で。





「どうしました?随分と不機嫌ですねぇ」
「…別に」
「デイダラさん、ですか?」
「だから、別にって言ってんだろうが」
「素直じゃないですねぇ、貴方も」
「鬼鮫」
「はいはい。黙りますよ」


イラつく。愚鮫の癖に。
オレが昨夜寝付けたのは、結局朝方だった。深く寝入ったつもりはなかったのだが、デイダラが布団から抜け出たことには気付かなかった。姿が見当たらないので、ちょうど出くわした鬼鮫に聞けば、朝早くにイタチと出かけたと聞かされた。出かけるのは構わないが、二人で、ってのが気に喰わない。何故オレに声をかけない。やはりデイダラはイタチに惚れているんだろうか?


二人が出かけた先から帰ってきたのは、それから2時間後。やっと帰ってきたと思ったら、デイダラにいきなり閉め出さた。「覗き見厳禁だそ!うん」と釘を差され、一瞬ポカンとしてしまったが、すぐに我に返って中へ戻る。もう我慢ならねぇ。


「旦那!覗いちゃダメ!」
「デイダラ、オレに何か隠してるだろ」
「………べ、別に、何も隠してないぞ。うん」
「ならオレといるより、イタチと二人の方がいいのか?」
「そ、そういう訳じゃ…」
「なら、オレが今ここにいても、文句はないな?」
「え、そ、それは…」
「駄目なのか?そういう訳じゃないんだろう?」
「うぅ〜…」
「やっぱり何か隠してるな?」
「サソリ、それぐらいでいいだろう」


もう少しで口を割らせそうになったのに、イタチがそれを遮る。やんわりとデイダラを後ろへやり、オレの前に立つ。デイダラも助かったという表情を浮かべ、イタチの服の袖を掴む。その一連の、違和感のない動きにムッとくる。オレは不機嫌を隠すタイプではない。思い切り顔に出し、それを見たデイダラは、もっとイタチの後ろへと隠れてしまった。すぐに嗚咽が聞こえてくる。しまった。泣かせた。そんなつもりは微塵もなかったのに。すぐにデイダラに近寄ろうとしたが、鬼鮫に連れ出されてしまった。


「何しやがる!」
「サソリさん。大丈夫ですから」
「デイダラがか?それとも、イタチのことを言ってんのか?」
「私が言っているのはデイダラさんですが…イタチさんと何かあるとでも?」
「…最近、ずっと一緒にいるだろうが」
「嫉妬なんて、人間くさい感情が貴方にもまだ残っていたんですねぇ」
「お前、今日はオレに殺されたい日なのか?」
「まさか。デイダラさんは確かに貴方に隠し事をしていらっしゃいます」
「何を隠しているのか知っているんだな?」
「はい。ですが、それは貴方にとってとても良いことですから、信じて待っていてあげてください」


それだけ言うと、鬼鮫もまた中へ戻ってしまった。何だってんだ。あんな言い方をされたら、これ以上強くは出れない。デイダラの隠し事が、オレにとって良いこととは、オレの為に何かをしているということなのだろうか?それとも、知らない方がオレの為ということなのだろうか?全く検討がつかない。オレは待つのが嫌いだってのに。溜め息をひとつ、オレは仕方なく、自室へと引き上げた。






「旦那。サソリの旦那!」
「……ん…?デイダラ?」


いつの間にか眠ってしまったようだ。昨夜は欲求を押さえ込むのに、あまり眠れなかったからな。デイダラに起こされ時計を見るともう夕方だ。随分長い間眠り込んだ。おかげで、もやもやしていた頭が、幾分すっきりしたように思う。


「昼間は悪かったな。睨んだりして」
「ううん。元はオイラが隠し事したのが悪いんだし」
「もう、イタチとの用は済んだのか?」
「うん」
「聞いても、いいか?」
「…オイラ、イタチに教えてもらってたんだ」
「幻術でも教わってたのか?」
「違うよ。これ」


差し出されたのは、皿。正確には、皿の上に盛られた和菓子。デイダラとそれを交互に見比べ、よくわからないと、眉を潜める。


「イタチ、甘い物が好きでよく甘味処に行くんだって」
「だから?」
「和菓子の作り方とかもよく知ってるって。だから教えてもらってたんだ」
「わらび餅、食べたかったのか?」
「これはオイラ用じゃなくて、サソリの旦那に。甘い物は嫌い?」
「いや、だが…何故オレに?」
「だって、今日は旦那とコンビを組んで3年目だから!手作りで感謝の気持ち。うん」


デイダラはにっこり笑ってそう言った。イタチとのことで、すっかり忘れていた。今日はオレ達が出逢って、コンビを組んだ日。最初は嫌で嫌で仕方がなかった。ガキのお守りなんて御免だった。どうにかして、こいつを引き剥がしたかった。けれどいつの間にか、自ら進んで世話を焼くようになり。日に日に、自分の中で特別な存在になった。手放したくないと思うようになって、ずっとオレの傍に置きたいと。


「オイラまだまだ子どもだけど、サソリの旦那に見合うようなパートナーになるようにがんばるからな!」
「ああ…」
「いつもありがとう、サソリの旦那。だいすき!うん」


子どもの成長を楽しみだと言う、親の気持ちがわかる。健康を願い、無事を祈り、他の何を差し置いても守りたいと思う気持ちが。16も年が離れているせいか、過保護過ぎるのは自分でも自覚はしているし、デイダラに対しての想いがそれだけではなく、邪な想いも混じっているのが偶に傷だが。それでも…


愛しい想いに変わりはない
(せめて、もう3年は待たねぇとな)
(何を待つんだい?うん?)





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