事の発端は、オレがデイダラのお気に入りマグカップを、ついうっかり割ってしまったことから始まった。
普段なら絶対に、そんな不注意なことはしない。
ただ、仕事でここ何日徹夜をして、寝不足だった。
注意力が散漫になっていたことは、認めようがない事実なのだ。運悪く、その散漫の犠牲なってしまった、可愛らしい猫のマグカップ。
何度も言うが、それはデイダラのお気に入り。
それを割ってしまったオレは、デイダラのおねだりを聞く羽目になったのだが…

これがまた、何とまあ。
まるで生殺しだ。


「…っ、ふ、ぁ…」
「……おい、」
「まだ。やめちゃダメだぞ。うん。」


もっと、とねだるデイダラに、また口付ける。
深く、深く。
熱い口づけを。
デイダラのおねだりの内容は「いっぱい、キスだけしてほしい」というものだった。
キスだけか?と、あえて聞き返すと、キス以上はするな、と釘を打たれてしまった。
どんな拷問だよ。
否、これはオレがお気に入りのマグカップを割ったことに対する罰なのだから、仕方がない。
しかし、どれ程深く熱い口づけをしようとも。
やはりそれだけでは物足りないのは事実。しかも、ここ最近は仕事が忙しくて、そっちはご無沙汰なんだ。
オレとしてはそろそろ、目の前のご馳走を、貪り尽くしたいところなのだが…


「ん…、旦那、手。」
「いいだろ?」
「ダメ。いや。」
「……ちっ。」
「舌打ちしない。ね?だんな、もっと…して?。」
「…ちゅーを、か?」
「うん。ちゅー、を。」


当のデイダラは、まだ口付けをご希望らしい。
上等だ。こうなりゃ是が非でもその気にさせてやる。
向き合う形で座っていた体制を、変えた。
デイダラの頭を固定して、そのままゆっくりと押し倒して覆いかぶさる。
背に腕を回してきたデイダラを抱き込んで、さらに深く舌を捩込んでやった。
しかし、懸命にそれに応えようとするデイダラが、可愛くて可愛くて。
やっぱり、マグカップを割ったオレが悪いのだから、ここはデイダラのおねだりを素直にきくだけにしようかと思い直した。


「デイダラ。」
「うん?」
「お前が満足するまで、キス、してやるから…」
「から?」
「満足したら、どこかに出かけようか。」
「…いいの?」
「ああ。どこへ行きたい?」
「旦那となら、どこだっていい!うん!」


オレがそう聞くと、デイダラは満面の笑顔でそう答えた。
思えば、最近は仕事ばかりで構ってやれなかったな。
こいつも、さみしかったんだろう。
たまの休日だ。家の中だけでは勿体ない。
外へ出て、二人並んで、手を繋いで歩こう。
オレはそういった甘ったるいことは、あまり得意ではないけれど。




可愛いお前のおねだりなら

(でも一発だけやらせろ)
(旦那のすけべ!)





- ナノ -