「デイダラは?」
「部屋よ」
「…また、か」
「ペイン、あの子…」
「もう少し…そっとしておいてやれ」



「なぁ!旦那!見てくれよ、この粘土で作ったトビの野郎!似てるだろ?本当嫌になってまうぜ、うん。なんでオイラが旦那とコンビを解消してあんなぐるぐるお面と組まなきゃいけねぇんだ。オイラの相方は旦那だけだって。な?旦那」
「……」
「……。あぁ、トビは嫌な奴じゃねぇって言いたいのかい?うん?そんなことないんだぜ?ベタベタ引っ付いてくるし、オイラの芸術はバカにするしで最悪だ。…でも芸術をするにあたって手伝ってくれるから…ありがたいけどな、うん。…あっ、旦那ヤキモチ妬くなよ?オイラは旦那だけだって。本当だぞ?」
「……」
「あー、分かった。ちゅーしてほしいんだろ?旦那。…ったく仕方ねぇなぁ。旦那は甘えたちゃんだもんな。…あぁ、怒んなよ?これでも褒めてるんだ、うん。旦那が一番可愛いよ、大好きだ…うん」

そう言って唇を重ねれば旦那はオイラを真っ直ぐ見つめた。
その唇は冷たくて、硬くて。…何を言っているんだ。昔から旦那の唇は冷たくて硬かったじゃないか。自らを最高芸術と称し、傀儡にした旦那の身体は熱も軟らかさもなかった。
そんなの分かってる。変わってなどいないのに。
どうしてアンタは変わってしまったのだろう。

持って帰れば旦那は動く気がした。同じ芸術家のオイラが少しいじれば旦那は動いてくれる気がした。笑って、オイラの頭を撫でて、キスして、身体を重ねて、照れくさそうにオイラにぎゅっと抱きついて。そう元通りの日々がまた繰り返されると思っていた。
でも現実はそう上手くはいかなかった。
オイラの部屋に座る旦那は動かず、喋らず、瞬き一つしない。どんなにオイラが話しかけても、身体に触っても、反応してくれない。
けれど、そんな日々から抜け出すことは出来なかった。
旦那とここで別れたら、もう一生離れ離れだ。二度と会うことは出来ない。
そんなの嫌だった。
こんなオイラを旦那が見たら何ていう?くだらねぇ、なんて言って鼻で笑う?それとも、オイラを哀れんだような目で見つめながら悲痛の笑みを浮かべる?
たとえ後者だとしてもオイラは大丈夫。全然哀れじゃないよって笑ってみせる。だってそうだろ?永久を求めるアンタをオイラがずっと守ってるんだ。これは誇れることであることに違いはない。
ほら、旦那。オイラはここにいるよ。いつだって旦那の傍で守ってあげる。アンタはオイラより小さく華奢で、目を離せばすぐに誰かに狙われてしまいそうだから、オイラがそいつらを阻止してやる。


「…デイダラ」
「…リーダー…何の用だい?うん?」
「そろそろサソリを帰してやれ」
「はぁ?帰すってどこにだよ。旦那はオイラのもんだ。旦那の帰るべき場所はオイラの元なんだ、うん」
「…デイダラ。分かってるはずよ」
「小南まで…」
「あなたはサソリとの思い出を大切に出来ないの?今していることは、サソリとの思い出を踏みにじってることになるのよ」
「何言って…っ!…リーダーや小南にはオイラの気持ちは分からねぇよ!旦那は…旦那は…!……オイラは旦那との今を生きてるだけだ」
「痛みを知る者は強くなれる。…デイダラ、お前はサソリの分まで強くなれる」
「サソリとの今を生きたいのならば、強くなりなさい。あなたのその強さは、サソリとまた出会った時にサソリを守ることが出来る力となるはずよ」
「…旦那と…また出会う…」

強く抱きしめた旦那を見つめれば、心なしか優しく微笑んでいるように見えた。その笑顔につられるように微笑めば、周りにいたリーダーや小南も優しく微笑んだ。
旦那との毎日はいつも輝いていた。旦那がいるだけでオイラの世界はキラキラ輝いて見えた。だからオイラはアンタを帰すよ。旦那との思い出を無駄にしないように。
最後に優しく頭を撫で、頬に手を添えて唇にキスを落とした。
旦那にした最後のキスは温かく、柔らかかった。




さよならの瞬間まで輝けるように
(今から旦那のところへ行くよ)
(だから最後の芸術を見ていて下さい)





- ナノ -