暁アジト内部。
広間にいるのは、俺、デイダラ、飛段、角都、イタチ、鬼鮫の6人だ。
広間にいるといっても各々好き勝手なことをやっていて、人と対談している者などはほとんどいない。
では、なぜここにいるのか。俺とて自室に戻りたい気持ちは山々だ。しかし、戻れないのだ。
昨夜、暁のリーダーであるペインが「明くる朝、広間に集合」だとかをここにいるメンバーに言い残して消えた。そう、消えたのだ。それが為に今朝は朝早くからここ広間に集まっているが、集合時間から何時間経っても消えたリーダーは一向に姿を現さない。普段からやたらと仲間意識が強く、このように集合があれば一番初めに集まり、みんなが来るのを待っているような彼が遅れてくるとは一体どうしたものか。

「なぁ…あのクソリーダー遅くねぇか?」

飛段が零した言葉に各人の視線が彼に集まる。
注目を受けた本人は各々に目配せをすると、急に不満げに唇を尖らせた。

「…確かに。早くしないとバイトの時間になってしまう」
「オイラもいい加減部屋に戻って作品を仕上げたいぜ、うん」

暫くして角都とデイダラも愚痴を零せば、彼の表情はみるみるうちに明るくなり、「そうだよなぁ!ゲハハ!」なんて訳も分からず笑顔を見せた。先程までの仏頂面はどこへいったのか。それほどまでに同意を示した仲間の存在は大きかったらしい。

「サソリちゃんもそう思うだろ?」

次いで同じように同意を求めてくる飛段に適当に返事をすれば、再び嬉しそうに白い歯を見せた。
大半の人数がリーダーの遅刻に不満を持っていると分かると、一気に室内はピリピリとした空気が醸し出された。
野郎共が詰まった部屋のこのムードは案外危ないのかもしれない。自分に危害が加わらない内に自室へ戻ろう。遅れてくるリーダーが悪いのだ。自分が部屋へ戻ったところで彼に自分を叱る権限はない。
そう決め、ソファーを立ち上がったと同時に再びあの男の声が上がった。

「デイダラちゃんってさぁ…女みてぇだな」
「はぁ!?」
「いや、こうさ、黙って遠くから見てると…。あれだな、やっぱり髪型のせいだな、ゲハハ」
「テメェ…この髪型の芸術性が分からねぇなんてとんだ大バカだな、うん!」
「あぁ!?バカっていうんじゃねぇよ!」

あぁ、また始まった。
飛段とデイダラは年も近いせいか、仲は良いがその分言い合いも絶えない。
いつもなら放っておくか、相方である俺や角都が止めに入るのだが、今日はその前にとんでもない刺客が入ってしまった。

「確かに…お前の髪型はナンセンスだ」
「イタチテメェ…やろうってのか!?うん!?」

こうなったらもう止めるのが面倒である。
角都や鬼鮫に視線を送れば、2人とも「もう放っておけ」とでも言うように溜息を吐いた。



「ゲハハハァ!傑作傑作!」
「これでこそ芸術だ、愚かなる髷よ」

数分して出来上がったデイダラは、どこから用意したのか分からない女物のセーラー服を着用し、長い金髪を2つに結われていた。これではまるで女のようである。
怒りや周知から顔を赤らめぷるぷると震えるデイダラを茶化し大笑いする若者2人。これがS級犯罪者の集団というのだから、そっちのほうがよっぽど面白く笑ってしまう。
プライドの高いデイダラのことだ、これ以上こコイツで遊ぶと起爆粘土を投げつけかねない。それに、あまりにも卑猥極まりない格好に目のやり場に困ってしまう。…なんて後者の理由は言えるはずがないので心の内に留めておきつつ、相方であるデイダラを庇うべく彼の肩に手を置いた。

「まぁ、もうここらへんにしといてやれよ。その内起爆粘土投げつけられるぜ」
「旦那ぁ…!」

すると、予想外にキラキラしたデイダラの瞳と目が合った。
救ってくれて助かった、という目なのだろうが、今の俺にはドキンと胸が高鳴り締め付けられる要素に変わりは無かった。
さらさらとした2つに結われた長い髪が揺れる。潤み、キラキラと輝く青い瞳、赤らんだ頬、セーラー服からのぞく細すぎない腕に、同じく細すぎずでも太くない手頃な脚。あぁ、おいしくいただいちゃってもいいですか?と心の自分が呟く。
ごくりと鳴る喉にやけにリアリティーを感じた。

もう片方の手をデイダラの腰に回そうとしたその時、室内が煙幕に包まれる。
思わず目を細めたら、いつの間にか手の中にいたデイダラがいなくなっていた。

「ったく…お前ら仲間をなんだと思っているんだ」

段々と煙が薄くなり良くなった視界に浮かび上がる2人の人物の影。ようやく煙が引けば、そこにはずっと待ち続けていた人物が立っていた。
リーダーは自分のコートをデイダラの肩からかけ、それでデイダラの身体を包みこんだ。少し大きめのコートに包まれたデイダラは彼を見上げて熱い視線を送る。
未だ突然の出来事に驚いている俺達を余所に、「今日は解散!」と言い残し、リーダーはそのままデイダラを連れ、再び消えてしまった。




なんてタイミング、せっかくのチャンス
(なんの為に集まったんだよ!)
(飛段の声がやけに遠く感じた)





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