ボロボロに切れて、着ている意味を成さなくなってしまった服。あぁ、こんな姿を見せたら角都に怒られるな。マント代、請求されるだろうか。なんてどこか他人事のように考えていた。
空を見上げればすっかり夜が明けて太陽が顔を出していた。サラサラと髪を撫でる風は朝特有の爽やかな気持ちのいいものだったが、自分はどうにも気持ちのいい気分になれなかった。
身体中にこびりついた乾いた血液とそれ以外のもの。独特の臭い。今の自分は爽やかな朝に驚くほど不釣合いだった。

(気分悪ィ…)



あれは昨日の夕方だった。
リーダーに任務を言い渡され、いつもの如く相方のサソリの旦那の部屋へ迎えに行くが、中では旦那が小さな寝息を立てて眠っていた。相当疲れているのだろうか、声をかけても起きる気配がない。旦那の寝顔を見ていると、なんだか起こすのが可哀想になってしまって、オイラはその白く幼い顔に一つキスを残して部屋を出た。
この時、本当は旦那を起こせばよかったんだ。…なんて後の祭り。オイラ自身が油断していたのも確かだ。

「オイラの芸術、身体で教えてやるよ」
「フン、逆に俺らのことを身体に叩き込んでやるよ」

まさかの奇襲。
最初はこんな奴ら余裕だと思っていた。しかし、その余裕はすぐに消えてしまった。
チチチ…と音のする戦闘スタイル。そう、奴らはオイラの嫌いな雷遁使いばかりだった。雷遁には土遁は相性が悪い。その上オイラの起爆粘土は雷遁を浴びると爆破しなくなってしまうのだ。
その弱点はすぐに敵に見つかった。じりじりと詰め寄る敵との差。オイラは完全に焦っていた。
ポーチの中の粘土はごく僅か。敵は…何人いる?あと何人隠れている?目の前の敵から発せられる雷遁術を必死にかわす。チャクラはもう無に等しかった。
その時、足元から敵の仲間の手がいきなり現れ、オイラはその場に転がった。どうやら頭を打ったようだ。視界は薄れ、狭くなった。身体が宙に浮いた気がしたのは、奴らがオイラをどこかへ連れて行ったからだろう。


瞳を開ければ、そこは薄暗い洞窟の中だった。痛む傷口を気にしながら起き上がれば、数人の男の笑い声が耳に入った。

「フフッ、ようやく目が覚めたようだな」
「テメェ…」
「自分がどういう状況か把握したほうがいい。お前は俺らに抵抗出来ない」
「うるせぇ!オイラはお前らを倒してここから出…!」

ゴツンという鈍い音、続かない呼吸。敵はオイラの首を絞めて掴みながら後ろに押し倒した。
再び頭に衝撃が走り、意識がボーッとする。喋っている時に頭に衝撃を受けたものだから、舌を軽く噛んでしまった。口の中に鉄の味が広がり吐き出したくなった。

「強気な態度でいられるのもここまでだ」

的の空気がぴしゃりと冷たいものに変わった。低い声で告げられた言葉。周りの男もクスクスと笑うのを止めた。

「そのセリフ、そっくりそのまま返してやるぜ、うん」

相手に負けず劣らず低い声で告げ、プッと唾を相手に飛ばしてやる。どろりとした赤い液体は相手の頬から顎に向けて伝い垂れる。それがオイラの首に垂れたと同時に今日聞いた中で一番鈍く痛々しい音が洞窟内に木霊した。
オイラの意識はここで途絶えた。



どうやらあの後好き勝手され、この森に捨てられたらしい。身体中にある傷口に掠める草でさえズキズキと痛み、全身が悲鳴を上げていた。

(早く…帰らねぇと…)

任務続行が不可能なことは目に見えていた。悔しいが身体が言うことを聞きそうにない。
痛む身体をゆっくりと起こすと、視界に赤い髪が入り込んできた。オイラの姿を見て苦痛に顔を歪めるアンタを見て心がズキリと痛む。

「…そんな顔すんなよ、旦那。オイラがいけなかったんだ」

オイラの前にしゃがみこんだ旦那に苦笑いしながら言えば、旦那は自分のコートを脱いでオイラにかけてくれた。
そのまま抱き締められれば、全身が旦那の匂いに包まれる。汚れた自分が浄化される気がした。




堪え切れなかった涙に濡れて、それなのに温かい。
(何をされても何が起こっても)
(涙を見せるのはアンタの前だけ)





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