朝から照りつける暑さが頭に突き刺さる。アスファルトからの照り返しで足元まで暑い。自分はそこまで暑がりなほうではないが、そんな俺でも感じるくらい暑い朝だった。
それは学校に着いてからも変わらず、寧ろざわめく生徒で外よりも熱気があるように感じた。
制服のカッターシャツの襟元を掴みパタパタと仰いで身体に風を送りながら歩けば、自分のクラスの前の廊下は生徒でごった返していた。視線の先は壁の上。そこには先日やったテストの結果が張り出されていた。

「サソリ!お前すごいじゃないか。さすがだな」
「あぁ…お前らは?」
「おかげ様でなんら変わりはない」
「そりゃよかったな」
「サソリ。耳にしたことだが、デイダラはまた下位のほうみたいよ」
「またかよ」
「サソリ、」
「…はぁ、分かってる」
「いつも済まないな」

廊下で声をかけてきたのは、同じクラスのペインと小南だ。そこで小南から聞いたのは後輩であるデイダラの失態。どういうわけか俺はデイダラの教育係になっていて、奴が失態を犯すと必然的に俺にまで耳に入ることになっていた。

(ったく…これで今月何回目だよ…)



放課後、渋々デイダラの教室へ行くと、奴は既に席に座っていた。その机の上にはご丁寧に教科書、ノート、そして赤点の問題用紙、答案用紙が置いてあった。
俺が近付くと、デイダラはへらっと笑って「待ってたぞ、旦那」なんて腑抜けたことを言った。何が「待っていた」だ。余計な時間を割かせやがって良く言う。
誰もいない教室には俺の溜息が響いた。

「デイダラ、この問題はテストの前に教えただろ」
「うん?そうだったけか?」
「そうだ。あと…これとこれもだぞ」
「うーん…」

いざ席に着き勉強をすれば、デイダラから渡された問題用紙には自分がテスト前の勉強の際に教えてやったものばかりが並んでいた。
テスト直前に教えてやった問題を全て外す程コイツはバカだったのか?いや、以前コイツと小中を共に過ごしてきたという飛段からは、コイツはそれ程バカではないと聞いた。赤点を取るようになったのは高校に入ってからだ、と。
そう聞いてしまえばやはり教育係として腑に落ちないわけで。自分の教え方が悪いのだという変な物言いをされる前に解決しなくてはならない。

「おい、デイダラ」
「うん?何だい?」
「…お前、わざと間違えてないか?」

俺は不意に頭を過ぎった疑問を投げかけた。
答案を見ても、誰も間違えないような所で妙なミスをしている。どうみてもおかしいのだ。
俺の問いかけにデイダラは顔を歪ませる。そして、小さな声で「……そんな、こと…ない…」と呟いた。その目は泳いでいて、奴が嘘を吐いているということが手に取るように分かった。
わざと間違えた、だと?そんなくだらないテスト勉強に俺は振り回され、付き合わされていたのか。その不快感が露になってしまったのか、デイダラは焦ったように弁解を述べた。

「だっ…だって、旦那、オイラがテスト出来ないと一緒に勉強してくてるだろ?だから…」

ごにょごにょと煮え切らない弁解を述べたコイツに首を傾げる。それに気付いたのか、デイダラは俺のほうを見て顔を赤らめた後、小さな声で「旦那と二人っきりになりたかったんだ」と呟いた。
しかし、ますます意味が分からない。なぜ俺と二人っきりになりたかったのか。なぜそんなことを言うのか。
が、その疑問は奴の行動によって分からざるを得ない状況になってしまった。

「んっ…」

デイダラは席を立ち、俺にキスをしてきた。
どこか焦ったようなキスは荒々しく、コツ、と音を鳴らした。あたった歯が少し痛む。薄く目を開けて相手を見ると、とても必死そうな表情で尚も執拗にキスを仕掛けてきた。
コツコツと歯があたる音がする。どうやらコイツはキスの仕方もまともに知らないらしい。それなのにまだキスを続けようとするのか。
突然されたキス。しかも、ドが付く程の下手くそさだ。こちらとしてはいい加減離して欲しいところである。
そう思ってデイダラの肩を押し離すと、下手くそながら激しい口付けにどちらかともいえない吐息が漏れた。お互いを見合って肩で息をする。濡れた唇を腕で拭うをデイダラは微かに眉を顰めた。

「…何しやがる、クソガキ」

静まり返る室内で呟けば、デイダラはくっと唇を噛み締め、罰が悪そうに俺から目を背ける。
おいおい、今更そんな態度を取るか?今になってしおらしい態度を取られても。
内心そう悪吐き溜息を漏らすとデイダラは少し俺を上目で見つめるようにしながらぼそぼそと話し始めた。

「旦那を…その、オイラだけのモノにしたくて…」
「はぁ?」
「旦那は頭良い頼まれれば色んな奴に勉強教えるだろ?この前は飛段に教えてたし…」
「あぁ…あの時は角都がバイトがあるって言って…」
「オイラ嫌なんだ。だって旦那はオイラだけの旦那だろ?誰にも取られなくないんだ…だから…うん…」

そう言った相手に向かって盛大に溜息を吐いてやった。デイダラは眉根を寄せて不安気な表情を俺に向けた。
くだらねぇ。本当に無駄なことをする奴だ。
俺と二人っきりになりたくて、俺を他の奴にとられたくなくて。だから毎回わざと勉強を出来ないフリをしていたというのか、コイツは。
バカバカしい。
でも、




可愛い、なんて思ったのは秘密。
(徐々に熱くなる体温は)
(暑さのせいか、それとも、)





「デイダラ」と、静かに名前を呼ぶと、デイダラは肩をピクリと震わした。
そんな震えた肩を掴んで再び今度は自分から引き寄せる。相手の顔を覗き込めば、不安気に揺れる青い瞳と目が合う。
そんな可愛い後輩に今日はどんな勉強を教えてやろうか。とりあえず、「旦那…」と小さく開いた唇にキスの仕方でも教え込んでやろう。
そう思ってそのまま唇を重ねた。




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