あれはいつだったけかな。
そうだ、確かオイラとアンタが付き合い初めてすぐのことだった。
あの時のオイラはアンタに告白してオッケーを貰えてそりゃもう地に足が着かないくらい浮かれていた。
アンタはもうオイラのだけのものなんだと考えるだけで頬は紅潮し、アンタと目が合って優しく微笑まれれば心臓は高鳴り、アンタと二人で居る、ただそれだけのことで口元が緩んだ。
暇さえあればアンタの部屋に入り込み、傀儡を弄るその背中をじっと見つめた。オイラよりも少しだけ小さいその身体は触れたら崩れてしまうのではないか、と思ってしまうくらい繊細で。でも背中を見ればとても頼りになるオーラに包まれているように感じた。
背中だけではない。オイラの髪や頬を撫でる手も、オイラの身体を抱きしめる腕も、オイラを見つめる色っぽい瞳も、アンタは力強かった。確かにアンタは力には自信がないと嘆いていたが、オイラからしたら十分力強かったんだ。
頼れる大人の男、それがアンタだった。



あの日、いつものように夜にアンタの部屋へ行った。アンタはまた傀儡のメンテナンスをしていたが、それにしては普段より散らかる工具のスペースが狭い。不思議に思い背後から覗いてみると、そこにはアンタが寝ていた。

「うわっ!びっくりしたぞ、うん」
「…これはスペアだ。たまには手入れしねぇとな」
「へぇー、便利な身体だな、うん」
「ククッ…じゃあお前もなるか?」
「遠慮しとく」

こんな会話は日常茶飯事だ。だが、これが楽しい。オイラの頬はやっぱりだらしなく緩んでいた。
オイラは空いたスペースを利用して横に腰を下ろしアンタを横目で見つめる。窓から洩れた月明かりに照らされアンタの綺麗な顔はより一層美しく見えた。
伏せ目がちに手元を見下ろしながら傀儡を弄るカチャカチャという音しか聞こえない室内の静けさと、無表情でも美しいアンタの顔。そんなアンタはどこか儚げで、このままかぐや姫のように月に帰っていってしまうような気がした。

「…デイダラ?」

気が付けばオイラはアンタに抱きついていた。
嫌だ。どこにも行かないで。おいていかないで。オイラを残して消えないで。

「なぁ…」
「あ?」
「アンタは傀儡だろ?壊れて動かなくなる、とかないのか?」
「ない」
「…っ!なんでそんなハッキリと言い切れるんだよ!」
「この身体は永久に朽ちぬことのないモノだ。壊れることなんてない。…万が一壊れたとしてもすぐに元通りになる」
「でも…!」
「大丈夫だ。俺はどこにも行かねぇよ。少なくとも、お前をおいてなんて行けるわけないだろ」

そういってアンタは珍しくにこりと笑った。
それでも晴れない表情のオイラに次は優しく唇を重ね、そしてそのまま押し倒した。
この日は月が見えなくなるまで身体を重ねた。大きく真っ白な月はアンタを連れて行くことなく暖かい太陽に変わっていった。





「……嘘つき」

オイラは横たわるアンタの身体を見下ろした。自分でも冷めた冷たい瞳を向けたと思う。
うつ伏せに眠るアンタの身体を足で軽く蹴り転がして仰向けにさせる。アンタの寝顔は今までに見たことのないくらい穏やかなものだった。
寝ているアンタの横に腰を下ろす。これでいつものオイラの定位置につけた。アンタの隣はオイラのものだろ?

「情けねぇな。何が後々にも残る永久の美だ。何がお前をおいてどこかに行くわけないだ。全部全部、ただの口約束になったじゃねぇか」

優しい顔で眠るアンタの横で喋る。
アンタは頷くことも返事を返してくれることもなかった。

「……っ!いつまで寝てんだよ!!アンタは壊れねぇんだろ!?早く!早く元通りになってみせろよ!!なぁ!!」

力任せに怒鳴り散らせばアンタは涙を流した。ホロリホロリと頬を伝う涙はその美しい顔のラインをなぞるように零れていった。

「………抱きしめてあげれなくてごめん…」

静かなアジトの跡地にオイラの声だけが響いた。その声は震えていて。その時初めて泣いているのはアンタではなく自分だということに気付いた。
それに気が付けばもう涙は途絶えることなく溢れ出す。オイラは何をしているんだ。なんでこんな時アンタを抱きしめてあげることができないんだ。アンタが力強く抱きしめてくれたように、オイラもアンタを強く強く、強く、抱きしめてあげたいのに。
だからオイラはアンタに口付けた。最初は軽く、徐々に深く。オイラの愛を全て込めてキスを送った。唇を離せば二人の間に銀色の糸が引く。舌を出してそれを舐め取り、ついでにアンタの涙も舌で拭ってやった。


あぁ、愛おしい。
アンタは二度とその瞳を開けることもないし、その口角を上げることもない。優しい手で撫でることも、力強く抱きしめることもなければ、その口でキスをすることもオイラの名前を呼ぶこともない。
アンタは壊れてもう動かない。
それでもアンタが愛おしい。やっぱりオイラはアンタの隣が一番好きだ。だから誰にもやらない。
アンタはずっと、オイラのモノだ。




壊れても愛してあげる
(ずっとずっと一緒だよ)
(愛してる、サソリの旦那)





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