アイツが俺に好意を寄せているのは分かっていた。
たとえば任務の移動中。
たとえば任務の最中。
たとえばアジト内での仲間との雑談中。
たとえば部屋でのメンテナンス中。
アイツの視線を感じていたからだ。

それは、他の奴が送ってくる視線とは明らか違くて。
熱く、それでいて優しくとろけるような眼差しに俺は何度も背を向けた。
勿論背を向けたところで、その視線からは逃れることが出来るわけもなく、俺はその熱いものを背にたっぷりと浴びせられる。
背中が熱で溶けてしまうのではないか、なんてそんな馬鹿げたことを何度も思った。
そして、アイツはその目を俺に向けて愛しそうに俺を呼ぶんだ。

「旦那」

ほらな、そうやってお前はいつも俺を惑わせる。



「なぁ、サソリの旦那」
「………」
「旦那ー」
「………」
「旦那ってば!聞いてんのか!?うん!?」
「……うるせぇぞ。耳元で喚くな」
「…嫌だったらすぐに返事すればいいだろ、うん」

お前は今日も俺の部屋にいる。
メンテナンスをしている俺の背後にあるベッドに腰掛け、ずっと俺を見ているんだ。
正確に言えば、アイツはいつも「オイラもここで芸術を作るんだ!うん!」とか言って部屋に乱入し、俺のベッドに座り込み粘土をこねる。
しかし、背後から送られる視線にはいつも通りの熱っぽいものが混ざっているのがバレバレで。
コイツはどうしてこんなにも真っ直ぐなのか。
俺にはわからない。

「なぁ、旦那」
「………」
「……別に返事はしなくて構わない。今回だけは、な」
「………」
「…旦那はもう分かってると思うが…オイラ、旦那のこと………好き、なんだ…うん…」

これも初めて聞いた言葉ではない。
俺が眠っている時、何回も聞いた。
アイツには俺が眠っているように見えたんだろう。
目を閉じる俺に向かってアイツは今と同じように告げた。
しかし、面と向かって言われたのは今回が初めてで。
今まで勿論アイツの気持ちには気付いていたが、こうも真っ直ぐ告白されるとどう返していいのか分からない。
尚も知らん振りをすべきか。
それともこの場で返事を返してしまおうか。
…返事?
なんだそれは。
返事はイエスがノーか。俺はどちらを言おうとしていたんだ?


背中には先程までのように熱っぽいものは感じられない。
きっと目を背けているのだろう。
或いは目を閉じているのだろうか。
部屋には暫し沈黙が続く。それを打ち破ったのはアイツだった。

「は…はは、やっぱり迷惑だよな…うん」

渇いた笑いと共に悲痛な言葉が投げられる。

「でもオイラ大丈夫だからな。今まで通り旦那とコンビ組んでいける。旦那のことは…諦める、よ…うん」

その言葉と共に俺の背中には再びアイツの視線が向けられた。
しかし、それにはもう熱も優しさも感じなかった。

そしてベッドがギシリと音を立てると、次に足音が聞こえた。
それがアイツがドアに向かって歩く音だということは、目を向けなくても分かった。
足音が止まればドアノブを回す音がする。
ガチャリ、とドアが少し開く音とほぼ同時に口が開いた。

「デイダラ、」

その声は思いのほか静かな室内に響き渡った。
横を向き相手を見据える。
この時、今日初めてアイツの顔を見て、アイツの目を見つめたということに気が付いた。
自分自身の目で確かめたアイツの長い金髪から覗く青色の瞳の中には、まだ確かに熱があった。




君心あれば我心あり
(愛する準備はできている)
(だから今度は俺も、)





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