もう少し粘ってみよう。探してたら思い出すかもしれないし。
 と、思って机の中をガサゴソとひっくり返してみるが、イマイチどれもピンとこない。うーん……。

「実は忘れ物とかなかったっていうオチじゃないの?」

 そう言った八木くんはニヤニヤと笑っていた。

「そうなのかなあ?」

 どんなに頭を捻っても何も浮かんでこない。そのことにもどかしさを感じるけれども、出てこないものは仕方ない。

「ああ! 考えるのイヤになった! もう良いや、帰ろ」
「あ、あきらめるんだ?」
「だって思い出せないんだもん」
「ま、そういう時もあるって」

 八木くんは私の背中をバシンと叩く。励ましてくれたつもりなのだろうが、けっこう痛い。

「あー……、帰るなら、送ってくよ」

 ポリポリと頬を掻きながら八木くんは言う。

「じゃあ……お言葉に甘えて?」
「何故疑問系なの」
「いやあ彼女とかいたら悪いなあと思って」
「悲しいことに居ないから大丈夫」

 灯りの消された廊下を2人並んで歩く。
 つい先程までの自分ではこんなことになるとは予想できなかった、驚くべき展開だ。
 でも、それを心地よく感じている自分がいた。それは八木くんとの会話が、今日初めて話したように思えなかったからかもしれない。

 ……でも、明日小テストがあることを忘れ、その上忘れ物がペンケースだということも忘れた私は帰ってから苦労することになるのだが。


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