でもまずは、忘れ物を探さなくちゃ。気持ち良さそうに眠ってるのに、起こしたら悪いよね。
そう思い、机の引き出しを開けるために椅子を引く。
ガタリ、と大きな音が立った。ヤバい、起こしちゃったかなと思い八木くんを見る。
「ん……うん……」
八木くんは体の向きを変えただけで起きなかった。
でも私の方を向いた顔を見ると思わず笑ってしまった。“無愛想”とは程遠い寝顔。
(可愛いな)
その寝顔を見た、ってことがなんだか重要な気がして。私はなかなか目が離せずにいた。
(いつもこんな顔してれば良いのに)
八木くんはいつも、視力が悪いのか、目を細めている。それは、周りを睨みつけているようにも見えるのだ。
私は窓の外に視線を移し、ハッとした。
もう真っ暗だ。早く探さないと。
ガサガサと机の中を漁る。
「良かった、あった……」
私は見つけたペンケースを手に、椅子を元に戻す。どういう訳かまた失敗してしまって、ガタンと大きく音が鳴った。
「ん……」
八木くんが体を起こした。
余程眠たいのか、目をゴシゴシと袖で擦っている。
「……起こしちゃった? ごめんね」
私が声をかけたことで初めて私の存在に気づいたのか、驚いたように私の方を見た。
「……何で、いんの」
「忘れ物取りに来てて」
「そう」
八木くんはふあ、と大きな欠伸をした。
「……居てくれて、助かった。絶対起きてなかったから」
ありがとう、そう言った八木くんの表情は、笑顔、だった。
私は恥ずかしくなって、うん、としか返せなかった。
「じゃ、じゃあ、私帰るね! また明日!」
「ん、また明日」
私は急いで教室から出た。
……八木くん、全然“無愛想”じゃなかったなあ。
明日からも、話しかけてみようかな。
八木くんの、また明日、という言葉に私は思わずにやけてしまっていた。
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