起こした方が、良いよね。
 私は何だか気まずくて、小さく声をかける。

「もう、夜ですよ」

 ピクリとも動かない。
 仕方なく、もう少し大きめの声を出す。

「起きて下さい、夜ですよ」

 小さくピクリと反応した。起きるかな、と思って見つめるが、それからは動かなかった。
 どうすれば良いのか分からなくて、肩に手を置いて体を揺する。

「起きた方が良いです、よ」

 ガバリと体が起き上がった。
 八木くんの目が目の前にあった。
 月明かりに照らされ、八木くんの目はキラキラ輝いて見える。

「……俺、寝てた?」
「それはもう、しっかりと」

 私が答えると、八木くんははあ、と大きくため息を吐いた。私は八木くんの肩に置いていた手をのける。

「何でここにいんの」
「忘れ物を取りに来て……」

 すっかり忘れ物のことを忘れていた。私は自分の机に戻り、椅子を引く。

「何忘れてたの?」
「ええと……」

 何だったかな。……あれ。思い出せないや。

「もしかして、忘れちゃった、とか?」

 八木くんは笑っていた。でも、その笑顔はニコリ、というよりニヤリ、に近い。
 それでも、私は八木くんの笑った顔が見れたことが嬉しかった。八木くんは全然“無愛想”なんかじゃない。

「何だったかなあ」

 でも、忘れちゃうってことは大したことじゃなかったんだろうし。どうしようかな。

もう少し粘って探す
まあ良いや、帰ろ

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