廊下に出ると、のぞみ、と呼ばれた。

「き、貴瀬くん」

 私はなんだか恥ずかしくって貴背くんのサラサラした髪の毛しか見ることが出来なかった。

「顔、真っ赤だよ?」

 ふふ、と笑いながら貴瀬くんは言う。

「だって、貴瀬くんが急に来るからさっ」
「まあ、可愛いから良いけど」

 か、可愛いって!? 生まれて初めて言われた言葉に私の顔が更に赤くなるのを感じた。でも、それを言った本人はただニコニコしてるだけで、全然恥ずかしがってない。
 この差がなんだか悔しくって、やっぱ、貴瀬くんって恋愛慣れしてるんだろうなあ、と思うしかなかった。

「そういえばさ、さっき話してたのって、誰?」
「あ、ヤス? 友達だよ」
「ふーん、そうなんだ」

 貴瀬くんは笑っていた。

「あ、良かったら貴瀬くんも一緒に話す? ヤスは何だかんだ言って良い奴だから、すぐ仲良くなれると思うよ」
「へー……。でも、今から授業始まるし、また今度にするよ。あ、今日一緒に帰ろうって言いに来たんだった」
「そう? じゃあ、教室で待ってるね?」

 貴瀬くんは頷いて、教室に戻って行った。終始笑顔だった。

 * * *

 教室に戻ると、勢いよく山の田が抱きついてきた。

「うぐっ」

 ちょっと勢いがよすぎて、私はよろめいてしまった。でも山の田はそんなの全然気にしてるように見えない。

「のぞみもとうとう大人の階段上るのね」

 山の田は更に私にギュウッと抱きつく。

「お母さんは寂しいわあ」
「ちょ、山の田、くるしっ」
「あ、ごめんごめん。嬉しくって」

 山の田はヘラヘラと笑っていた。

「でも、好きな人出来て良かったじゃん」
「好きとかじゃ、ないんだけどなあ」

 彼女は驚いたように目を見開いた。

「え? でも彼カッコ良いじゃん」
「カッコ良いのと好きなのは違うよ」
「まあ、そりゃそうだね」

 そう言って、山の田は首を傾げた。

「じゃあ、何で付き合ってんの?」
「付き合ってから好きになることもあるって言われたから」

 私の言葉に、山の田は考え込んでいるようだった。やっぱり、ちゃんと貴瀬くんのこと好きになってから付き合った方が良かったのかな。

「そういう好きになる方法もあるよね。うん、私は良いと思うよ。不安があれば私がいつでも相談にのるからさ」
「山の田は恋愛のベテランだもんね」

 山の田はそんなことないよ、と笑っていた。山の田の今の恋は、初恋なのかな。



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