「は? 今、何て言った?」
「だからさ、彼氏出来ちゃったんだって!」

 康博は困惑したような、呆れたような、微妙な表情をしていた。

「昨日、好きな奴いないって言ってなかったっけ?」
「そうなんだけどさ、今日の朝学校来る途中に告られちゃったんだよね!」
「……んで?」
「好きじゃないんでごめんって言ったら、付き合ってから好きになることもあるからって言われて、付き合うことになった!」

 てっきり康博も喜んでくれるもんだと思っていた。でも、康博の眉間は今までにないほど狭くなっている。しかも、頬つきまでしている。

「……怒ってる?」

 恐る恐る康博に訊ねてみても、彼の眉間の幅は変わらない。

「……ヤス?」
「お前は……」
「うん?」
「お前は、好きじゃない奴でも付き合えるのか」

 康博の眉間はさらに狭くなっている。彼のフワフワの髪の毛も、今は私を責めている感じだ。

「そうじゃないけど……」
「けど?」

 康博の責めるような口調が怖い。その視線も、言葉を吐き出す口も、全てに責められている感じがする。

「つ、付き合えばそういうの分かるかなって」

 すると、康博ははあ、と大きくため息を吐いた。

「まあ、良いんじゃない。俺はそういう付き合い方は嫌だけど」

 康博の眉間の皺はなくなっていた。その代わり、作ったような笑みを顔にはりつけていた。

「あ、のぞみ、あんたの彼氏が来てるよ」

 山の田がニヤニヤしながら私の方へ寄ってきた。のぞみというのは私のことだ。

「んーどこ?」
「ほらあそこ。教室のドアんとこ」

 山の田が言ったほうを見る。康博も気になるのか、そっちの方を見ていた。



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