遅刻になってしまったけど、取り敢えず学校へ行く。
どうしても教室に行く気になれなくて、裏庭で時間を潰すことにした。
裏庭に行き、校舎に面したところに気持ち程度の階段があるのだけれど、そこに腰を下ろす。
何もすることがなく、ケータイを開いた。貴瀬くんからメールがきていた。
『終わったら、裏庭に来て欲しいんだけど』
びっくりして、周囲を見渡す。裏庭の奥の方に、貴瀬くんが座り込んでいるのが見えた。
パチンとケータイを急いで閉じて、貴瀬くんのところへ走っていく。貴瀬くんが、こっちを向いた。
「のぞみ、お帰り」
「た、ただいま!」
貴瀬くんはフワリと笑った。初めて会った時に見た、あの笑顔だった。
両手を広げている貴瀬くんを見る。まるで、ここにおいで、と言っているようだった。
私はどうすればいいのか分からず、おずおずと貴瀬くんの腕の中に入る。そうすると、貴瀬くんは私をギュっと抱きしめた。
「……どうしようかと思った」
「え?」
貴瀬くんは、ポツリ、と言う。
「のぞみが帰ってこなかったら、どうしようかと思った」
さらに力強く、抱きしめられる。
「あいつと付き合うことになったら、どうしようかと思った」
「貴瀬、くん……」
頭を動かすことができず、貴瀬くんの顔を見ることができない。
「のぞみに好きって言われたこともなかったし、告ったのも俺だし、好きじゃなくても良いなんて言ったけど……っ」
私は貴瀬くんの背中に腕を回した。
「ねえ、聞いて、貴瀬くん」
貴瀬くんは少し間をあけて、ゆっくりと頷いた。
「ヤスに告られて、考えたの。ヤスのことは、好きだけど、でもそれって友達として、なんだよね。いくら考えても。でも、貴瀬くんは……。一緒にいるとドキドキするし、何より嬉しいの。貴瀬くんが近くにいることが」
「それって……」
今度は私が、抱きしめる腕に力をこめる。
「私、貴瀬くんのことが好きみたい」
貴瀬くんは、私を抱きしめるのをやめ、その手で私の顔を包む。
目の前には、貴瀬くんのきれいな目が、あった。
キーンコーン、と学校のチャイムが鳴る。私はゆっくりと、貴瀬くんから体を離した。
「教室、行こうか」
私は頷く。 ゆっくりと、2人で歩き出す。
→あとがき
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