連れてこられた場所は、近くの公園だった。目立たない場所に置いてあるベンチに、2人並んで腰掛ける。

「……あ、あのさ」
「なに?」

 康博は目を泳がせていた。

「昨日、俺が……俺が、昼休みに話してた子、いんじゃん?」
「うん」
「あの子、別に好きな子じゃないから」
「そうなの」

 あっさりと答えた私に、康博は少し目を丸くした。

「ずいぶんとあっさりとしてんな」
「それよりも、気になることがあって」

 私はまだ、“もしかして”の可能性を捨てきれていなかった。

「なんで、私がヤスは後輩の子が好きなんだろうって思ってたの、知ってるの?」

 康博には、“もしかして”の可能性を打ち壊してほしかった。

「それは俺が、山の田に聞いたから」
「……授業に出なかったのって、山の田と話してたから?」
「……うん」
「そう、なの」

 気持ちがいっきに沈んでしまった。“仲間外れ”という言葉が頭の中をくるくると回っている。

「……他にも、話があってさ」
「うん」

 康博の目を見ることが出来なかった。やはり、気にしていただけにショックは大きい。

「好きな人いるって言ったじゃんか」
「うん」

 相槌を打つものの、適当だった。

「――きいてる? ちゃんと俺を見てよ。今だけでいいから」

 私は康博を見る。康博は、今にも泣き出しそうな顔で笑っていた。

「好きなのは、のぞみだよ」

 康博の顔は、赤く染まる。
 こういう時、私は何と返事をすればいいのだろう。どんな顔をすればいいのだろう。どんな態度をとればいいのだろう。
 同じことを、貴瀬くんから告られた時にも思ったな。

「俺、あの時山の田に言われたんだ。のぞみを避けることで何かが変わるのかって。俺はのぞみが何度も俺に話しかけようとしてたの知ってたけど、のぞみと話すと何か言ってしまいそうで怖かった。でも、山の田は言った方がいいって言った」

 康博はそこで一息おいた。顔が火照っている。

「俺、ずっとのぞみのことが好きだ。中学のころからずっと」

 康博は真っ直ぐに私を見つめている。本当に、どうすればいいの。私の好きな人は……。
 康博と一緒にいると、とても楽しかった。中学と高1の思い出は、ほとんど康博で埋め尽くされている。でも、それは、友達として、だった。
 そして、貴瀬くんが現れた。貴瀬くんといると、ドキドキする。好きって言われると、可愛いって言われると、くすぐったい気持ちになる。貴瀬くんと付き合ったから朝も早く起きれたし、一緒に登校することも出来る。
 貴瀬くんといる時の私は、普段の私じゃないみたいだ。気持ちだけでなく、体もふわふわと浮いてしまいそうな感じがする。
 私は、今までこの気持ちを味わったことがなかった。……そうだ、きっとこれが。



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