一度くらい、愛してよ
「ねえ、みんなで買い物行こう!」
事の発端は、佳絵のこの一言だった。
* * *
今、ちょっとだけ遠出をして大きいショッピングモールへ来ている。そして、その中の女性服売り場。高めのブランドがいっぱい店舗を構えている。
「うわあ、この服可愛くない?」
「え、なにそれ似合う」
佳絵の言葉に慶太がうんうんと頷く。逸樹の反応がないなと思い逸樹を見ると、顔を赤くしていた。
佳絵が持っているのは黒を基調とした、肩にリボンの付いているワンピース。確かに、佳絵なら似合うだろう。
私も適当に服を見てみる。でも、私に似合いそうな服なんてよく分からなかった。佳絵なら、全部着こなせるのかな、なんて思ったら少し寂しくなった。
慶太も逸樹も佳絵の方ばかり見ている。私、来なきゃ良かったな。
「佐奈ちゃん見て見て! これカバンに付けたら可愛くない!?」
そう言って私の目の前に差し出されたのは、羽の形をしたペアキーホルダーだった。
「……両方ともつけるの?」
「ううん、片方は佐奈ちゃん」
佳絵はニコッと笑った。
「じゃあ、半分お金出すよ」
「まじ! じゃあ買ってくるね」
レジへと向かう佳絵を見てから、慶太は棚に並べられた同じ羽のペアキーホルダーをじっと見ていた。
「何お前それ欲しいの?」
逸樹がプッと笑いながら言う。
「なんだよ悪いかよ! 佳絵と佐奈ばっかりずるいって思ったんだよ!」
「へーじゃあ買って2人でつければ良いじゃん」
私の言葉に慶太は目を輝かせた。
「よっしゃ! 逸樹、半分金出せよ!」
慶太は走ってレジへ行ってしまった。
「そうしたらさ、4人でお揃いになるね」
残った逸樹に声をかける。
「……そうだな」
「って事は佳絵とお揃いって事じゃん」
逸樹は少し赤面した。
「……お前と、アイツが邪魔だけど」
そう言って、慶太に視線を送る。邪魔、と言われた事に目の前が真っ暗になる気持ちだった。分かってたのだ。この場に自分が邪魔な事くらい。場違いな事くらい。分かりきった事を、更に好きな人に言われて痛感した。それでも、私は逸樹と話したかったから、ここに来たのだ。そんなこと、きっと逸樹は知らないだろうけど。
逸樹は、佳絵を見つめている。その視線が、私に向くことはない。
「……そうだね、ごめんね」
色々な意味を含んだごめん、だった。
「何で謝ってんの」
そう言う逸樹の視線は佳絵に向けられたままだ。
「ううん、何でもない」
私は、逸樹しか見てないのに。佳絵なんて、実は慶太と両思いなんだよ。言葉が喉まで出掛かる。それを、私は口を噤んでなんとか耐えた。
続きます
△ ▽