手の届かない領域


佳絵は、本当に可愛らしい子だ。

くりくりとしたおっきな目も、ふっくらとした頬も、ふわふわしたさわり心地の良い髪の毛も、本当に可愛らしい。また、性格も女の子らしすぎず、だからといってサバサバした感じでもなく、他人を思いやれる、否の打ちどころのない子だ。

そういった魅力がふんだんにある子だから、同性だけでなく異性からも人気があるのは極当たり前のことだった。



 * * *



「佐奈ちゃんどうしよう。好きな人が出来ちゃった」

「え?」

目の前にいる佳絵は顔を赤らめていた。

「何度も言わせないでよ、好きな人が出来ちゃったんだって」

あーもうどうしよう、と佳絵は私のベッドの上で足をバタバタさせた。

「そっか、良かったじゃん。で、誰なの?」

「……け、慶太」

あ、ヤバいことになったな。私はそれしか思い浮かばなかった。



 * * *



高校に入学してすぐ、私の席の前に座っていた佳絵と仲良くなった。その右隣は、慶太と逸樹だった。

たまたま何かの話で盛り上がって、それからはいつも4人でつるんでいた。

大して時間はかからなかった。2人が佳絵に友達以上の感情を抱くようになることは。

私は、2人の急激な態度の変化に気付いてしまった。さらに、自分の気持ちの変化にも気付くことになってしまった。

いつの間にか、逸樹を好きになっていた。逸樹は佳絵のことが好きだということは直接聞いたわけではないが知っていた。

ある日、慶太に「佳絵が好きだから協力して欲しい」と言われ頷き、またある日逸樹に同じようなことを言われ渋々頷いた。

どうすれば良いのかなんて、むしろ私が訊きたかった。



 * * *



そして、冒頭に戻る。

私は、不謹慎にも嬉しく思ってしまった。

「佐奈ちゃん?」

そんな私を不思議に思ったのか佳絵が訊いてきた。

「ううん、応援するよ、佳絵! 私に協力出来る事があったら遠慮なく言って!」

そう言うと、佳絵は嬉しそうに、ありがとう、と微笑んだ。

その笑顔に、私の胸が痛む。

ごめんなさい、逸樹。その言葉しか頭に浮かばなかった。

佳絵を不安に思わせないように、必死で笑顔を作り続けた。



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