バレンタイン


 じい、と彼を見つめる。

「ちょっと、そんなに見つめられると食べにくいんだけど」
「私には気にせず食べて!」
「えっ……」

 それはさすがに無理、と彼は髪の毛を掻く。そんな姿も素敵。──じゃ、なくて!
 再び、じい、と見つめる。

「だーかーらー、そんなに見んなって! 監視されなくても食べるから!」
「か、監視!?」
「え、無自覚?」

 そんな風に思われてたとは。気をつけなくちゃ。
 私仕方なく、ガン見ではなくチラ見に変更する。
 ちら、ちら、と彼を見る。

「あー! チラチラ、気になる! 俺の方見んな!」
「えっ……」

 一言で私の気持ちを表現するなら、“ガーン”。
 仕方なく、私は彼に背を向ける。
 本当はね、見たかったの。

「おっ、上手い」

 彼が、食べる音がする。

「なあ、上手いじゃん。俺、もっと悲惨なの想像してたんだけど」

 振り返っちゃだめ、振り返っちゃだめ。
 自分にそう言い聞かせる。
 本当はね、見たかったの。私があげたチョコレートを、食べる時のあなたの表情。

「こっち向けって」
 私は、聞こえないフリをする。

「なあって。怒ってんの?」

 彼は、こっち向けよー、と何回も言ってくる。

「もう、なんなの! こっち見んなって言ったり、こっち向けって言ったり!」
「あー……ごめん。恥ずかしくって。でも、チョコ美味しかった」

 そう言ってはにかむ彼は、なんだか可愛くて。

「あ、当たり前でしょう!? 私が作ったんだから!」
「うん、愛があるよねー」

 恥ずかしい、なんて言っときながら、恥ずかしいことをサラッと言ってしまう彼に、私はまた背を向けた。

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