ひからびて落ちた


少年はスタスタと歩いていく。それはまるで、目が合っていない、とでも言うようだった。

「あ、あああああの!」

なんとかして話しかけようと思い、手を伸ばす。

彼の服を掴もうとした腕は、彼の体を通り抜けた。それは、彼には体があるように見えた。

「……え」

私だけ、体がないの?

自分の手と彼の背中を見比べるが、違いがよくわからなかった。

彼は人波を縫うように進んでいく。時々人にぶつかりながら進んでいく彼に、私は違和感を覚えた。

ぶつかった後に睨まれて、それで彼はすまん、と謝る。すると相手は、チラリと彼を一別して通り過ぎていった。

──あれ? 私の時は、どうだったっけ。誰か気付いてくれたっけ。私の声に反応したっけ。私の方を誰か見たっけ。私の体に、ぶつかったっけ?

頭の中に次々に湧いてくる疑問に、私は眩暈がした。次いで激しい頭痛が襲ってくる。

「ああぁあああ!」

叫び足りない。どうせ、誰も気付かないのだから。──何で、誰も私に気付かないの?

「ああぁあああ!」

私には体がないの? ねえ、何で体が通り抜けるの。それが当たり前なの?

「ああぁあああ!」

じゃあ何故彼はぶつかったの。体がないのが普通じゃないの? 何で、私には意識があるの。体が、もしないのだとすれば。私は何で浮いてるの、重力は。

「ああぁあああ!」

私は、一体、何なの。

「ああぁああああああ!」

今までの中で一番大きく叫ぶと、彼の肩が大きく揺れた、ように見えた。

そのことが嬉しくて、とてつもなく嬉しくて、思わず彼の頭目掛けて飛んでいく。すると、彼とまた目があった。

ああ、良かった、彼には私が見えるのね! 誰にも見えない、そんなの嫌だから。唯一、私に気付いてくれた。嬉しかった。

彼は俯いて再び歩き出す。それはまるで、私を見ないようにしているかのようだった。

仕方ないので、彼の後ろについて行く。どうせやることがないのだ。……あ、でもそしたら彼を怖がらせてしまうだろうか。

──何で私が、彼を怖がらせるの? 私、何か怖いこと、した? 叫ぶのって、怖いこと? 宙に浮くのって、怖いこと? もしかして、私って怖いことだらけ。

そこまで考えれば、私はある1つの答えに辿り着いた。だって、これは、私、まるで、……みたいじゃない。

嫌だ、認めたくないよ。これだけは、絶対に。でも、私がもし仮にそうだとすれば、全部辻褄が合うんだ。本当に、全部。私が今浮いてることも、体が通り抜けることも、誰も私に気付かないことも。

何でかな。何で気付いちゃったんだろう。

今、妙に私の気持ちが落ち着いてるのが分かる。

先程までの叫びまくりたい衝動は、どこに消えちゃったんだろう。今は、彼の背中を見つめるのに精一杯だった。

彼の背中はどんどん遠ざかっていく。……ああきっと、すぐに見えなくなってしまうのだろう。

私、彼の後ろ姿に既視感があったの。何でだろう。見えなくなった背中に、考えれる。ダメだ、思い出せない。

多分、もう会えないのだろう。

そう思うと、私の目から何か流れるのを感じた。

それは地面に降っても、跡を残すことはなかった。



ひからびてちた



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タイトルは揺らぎ様より拝借致しました。

結局自分で何が書きたかったのか分からない(´・ω・`)

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