の闇


時が経つのは早い。皮肉なほど早い。

ルイがこの世界を去って、今日で1ヶ月になる。私はまだ時々ルイがそばにいるような感覚に陥ることがある。その度、私はルイがもういないということを痛感するのだ。

おそらく、母さんもそのような傾向があるのだろう。時々家族の人数以上の料理を出してくることがあるのだ。私がそのことを指摘する度に悲しそうな顔をする。

時が経つのは早い。皮肉なほど早い。

ルイがいた生活は、私の脳みそによって作られたものなのではないか、と思ってしまうことがある。それほどまでにルイとの生活は安定したものだった。

母さんにそのことを話すと、母さんは寂しそうに笑って頷いていた。



 * * *



「最近、沈んでるね。何かあったの?」

友達が、そう声をかけてくれた。

「……ううん……いや、うん、あったの」

そう言うと彼女は優しく微笑んだ。そしてカバンの中から一冊の本を取り出し、私に渡してきた。

「これ。面白いから、読んでみてよ」

気分転換にもなるよ、そう言うと彼女はにっこりと笑った。

授業の開始を告げるチャイムが鳴ったことに私は気付かなかった。

授業終了後の休み時間、表紙に目を通す。紙はディープグリーンの背景に1人の男の子が描かれていた。私はドキリとした。その男の子は、ルイに似ていたのだ。

私は急いでページを捲った。一行目から目を通す。

『俺は、気付けばもといた世界に戻っていた。自分が生まれた世界のはずなのに、戻って来れてちっとも嬉しくなかった。むしろ、俺が今までいた世界でお世話になった人に最後に会えなかったことが非常に悔やまれた。……』

どうやら、この話の主人公は違う世界にトリップしてしまったようだった。それにしても、境遇やら色々、ルイと酷似していた。

『俺がお世話になった人たちは、非常に変わった人たちだった。倒れていた俺を自分の家まで運んでくれ、そして住む場所まで与えてくれた。なのに俺はそのお礼をきちんと言葉に出来ずにこの世界に帰ってきてしまったのだ。……』

『「ルイ」、そう呼んでくれた声を忘れることが出来ない。また、可能なら彼らに会いたい。……』

私は目を見開いた。"ルイ"、確かにそう書いてある。これは、ルイのお話? 私が知っているルイなのだろうか?

信じられない。だが、信じたい。このルイが、私が会ったルイだと、信じたい。

「どう? 面白いでしょう?」

この本を貸してくれたその友達は、そう言うとにっこりと笑った。





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