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今日の夕飯をどうしようか途方に暮れて歩いていると、地面に紙切れみたいなのが3枚くらい落ちていた。

なんとなく拾ってみると、それは1000円札と5000円札と10000円札だった。

すごい落とし方だな、とは思ったものの、有り難く頂戴する事にした。

俺が生きるためだから、許して下さい、そう思い、コンビニで弁当とお茶を買った。これからお腹が満たされると思うと気分はルンルンだ。スキップしてしまいそうになる。変な人にはなりたくないから絶対しないけど。

足が自然にいつもの場所へ向かう。夕飯を食べる時は、いつも同じ場所だ。


 * * *


その場所に着き、ルンルン気分も最高潮でコンビニ弁当を広げる。

マイナスイオンがいっぱい飛んできて良いと思う今居る場所は、川原だ。お尻が痛くなるのが玉に瑕だが、弁当を広げるにはちょうど良い石もあるし、±0ってとこだろう。

お茶を飲み、まずは何から食べようか、と少し悩んでおむすびから食べる事にした。

最後のおかずを食べようと思った時、自分以外の人間の匂いがした。たまに川原の横にある道路を歩いたり走ったりする人がいるから、そういう人達の1人だろうと思って特に気に留めなかった。

ジャリ、

川原の石を踏む音がした。あ、なんか甘い匂いがする。川原に入って来たのは女か。

そんな事を考えながら最後のおかずを口に入れた。

ジャリ、ジャリ、

だんだんと足音が大きくなっていく。その人の匂いもより鮮明に分かるようになってきた。

……ん? なんか俺に近づいてきてないか?

そう思ったが決して彼女の方を向かなかった。というか向けなかった。怖かった。人と関わる事が。

彼女(と思われる人)の方を向いただけで関わる事になるなんて事はないが、それでも足音のする方を見ようなんて思わなかった。

足音が、俺の横ではたりと止まった。


 * * *


昔から人を拒んでいた訳ではない。

幼い時は、近所の俺と同じくらいの年頃のやつらと遊んだりしていた。それはもう耳も尻尾も隠さずに。

一緒に遊んでいたやつらからは"クロ"と呼ばれていた。理由は単純、耳も尻尾も黒いからだ。

鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり、楽しく過ごしていた。

アイツが来るまでは。

アイツは、遊んでいたやつらのうちの1人の母親だったと思う。

「まー君、帰るわよ」

そう言いながら俺たちの方に近づいてきた。

まー君と呼ばれたやつは「まだ遊ぶ」と渋っていたのだが、その母親は俺を見るなり眼をギョッと見開き、まー君に「いいから早く帰るのよっ!」そう怒ったように言うと、無理やり抱っこして連れて帰ってしまった。

その日はまー君が帰ったからみんなも帰ろうという話になって解散になった。

次の日から、今まで遊んでいたやつらはその場所に来なくなった。

それから毎日、ベンチに座ってやつらを待ち続けた。

そんな中、遊んでいたメンバーの1人がその場所の入り口らへんに立っているのを見付けた。俺は、それだけで嬉しくて、話しかけようと思った。

「あっ、」

そいつは走り去ってしまった。

一緒に遊ぼうよ、その言葉は言えなかった。

それからはその場所にあまり行かなくなった。


 * * *


しばらく経って、久々にその場所に行ってみると、いつも遊んでいたメンバーがみんなそこに居て、楽しそうに笑いながら遊んでいた。

そこに居ないのは俺だけ。

"なんで、僕だけ?"

幼いながらに必死で考えた記憶がある。

ふと、落ちていた鏡を広い、覗き込むと、そこには人間の、彼らのものとは明らかに違う耳があり、彼らにはなかった尻尾が俺には付いていた。

"なあんだ、そういうことか。"

幼い俺でも、全て分かってしまった。俺は俗に言う"普通ではない"のだ、と。

その日から、昼間に外出するもはやめるようになり、夜外出するときでも必ず帽子を付けるようになった。

人との関わりの全くしなくなった。


 * * *


俺の隣にある足の持ち主の方へゆるゆるの顔を向けた。絶対、俺に関わってくんなよ……。

彼女は俺と眼が合った瞬間、ニコッと笑いかけてきた。せっかく関わってくんなって念じたのに、だめだった。

それにしてもなんでこの人は俺を見て笑顔になれるのだろう。

素敵な笑顔だな。そう思った。

特に、ちょっとだけ頬が赤く染まっちゃってるところとか、可愛く見えた。

「お、おおお名前はなんて言うんですかっ」

俺は彼女から目線をはずした。もう、関わらないでおこう。

「お名前を、おお教えてくだ、さい……」

だんだんとしぼんでいく声が聞こえて、ちょっと哀れになり、彼女の方を見て立ち上がった。

「……俺ね、名前無いの。そういう訳だから、……もう俺には関わんないでね」

俺はそう言うと、コンビニ弁当の入った袋を持って、家へ帰ろうと思い彼女に背を向けた。

「あ、あの、でしたら"ギン"と呼んでも良いですか……?」

後ろからそういう声が聞こえてきたけど、俺は無視して歩き出した。







いつかまたギンさんにお会いしたいと思います。



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